2024/5月第五週のゾンビ論文 絶滅動物の復活はゾンビ化か

本物のゾンビについて書かれた論文を探すべく、Googleスカラーのアラート機能を使い、ゾンビについて書かれた論文を収集している。

アラートの検索条件は次の通り。

  1. 「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network -AI

  2. 「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers -narrative」(取りこぼし確認用)

  3. 「zombie narrative」(さらに取りこぼし確認用)

「zombie」をキーワードにゾンビ論文を探しているのだが、比喩としてゾンビを使う論文も多いため、「-◯◯」で比喩としてのゾンビを扱うが論文を排除している。排除したいゾンビや論文は、以下の通り。

検索条件1には一般性の高い排除キーワードが含まれているため、それらが不必要にゾンビ論文を排除していないかを条件2で確かめる。ただし、「-narrative」で排除される論文の中にはねらいの論文が含まれている可能性もあるため、条件3も設定してある。

今回、5/27~5/31の期間で収集し、以下の通りの論文を得た。

  1. 「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network -AI」一件

  2. 「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers -narrative」七件(条件1との重複を含めれば八件)

  3. 「zombie narrative」27件

検索条件1は医学が一件だった。


検索条件1「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network -AI」

#1864 SHP-1 スイッチのリン酸化はループス腎炎の活動性を示さない

一件目。

アラート日付:5月27日
原題:#1864 Phosphorilation of SHP-1 switch does not indicate lupus nephritis activity
掲載:Nephrology Dialysis Transplantation
著者:Gisele Vajgelを筆頭著者として、11名
ジャンル:医学

細胞の生死を確かめるゾンビ試薬を使った論文。内容はわからない。医学系の内容は専門用語が多すぎる。

ジャンルは医学としておく。



検索条件2「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers -narrative」

上記の条件でねらいのゾンビ論文を誤って排除していないかチェックするために、こちらの検索結果もチェックしておく。ただし、ゾンビ企業とゾンビドラッグ、ゾンビ試薬、ゾンビPC、哲学的ゾンビおよび評論系の論文は排除されるように設定してある。

LTTrack: 長期的な複数オブジェクト追跡のための追跡フレームワークを再考する

アラート日付:5月27日
原題:LTTrack: Rethinking the Tracking Framework for Long-Term Multi-Object Tracking
掲載:IEEE Transactions on Circuits and Systems for Video Technology
著者:Jiaping LinとGang Liang、 Rongchuan Zhangの三名
ジャンル:情報科学

「-network」で排除。マルチオブジェクト追跡とかいう何かを行うために、"Zombie Track Re-Match"というモデルを提案している。タイトルの「LTTrack」は"Long Term Track"を指している。


Sonic Vessels : 演奏家の生体情報の音楽的表現を通じた存在感の伝達

アラート日付:5月29日
原題:Sonic Vessels: Imbuing Performer Presence in Musical Artifacts
掲載:慶応義塾大学大学院メディアデザイン研究科に提出された博士論文
著者:Daniel Hynds
ジャンル:芸術学

「-philosophical」および「-AI」、「-gender」、「-network」で排除。演奏家の生体情報とは、科学的技術で観測可能な脈拍や脳波ではなく、体を動かして行われる表現を指すと思われる。その中に"Zombie Dance"がある。


重複する障害と完全な省略が存在する場合の最適なコンセンサス

アラート日付:5月30日
原題:Optimal Consensus in the Presence of Overlapping Faults and Total Omission
掲載:Biochimica et Biophysica Acta (BBA) - Molecular Basis of Disease
著者:Shiv Satchit
ジャンル:情報科学

「-network」で排除。ビザンチン将軍問題に関する論文。ビザンチン将軍問題とは、中央管理サーバなしに、権限が同じデバイス同士で情報を管理し続けることができるか?=正しい情報を全員で合意し続けることができるか?という課題を指す。ビットコインはこの課題をクリアできている。

"Zombie and Ghost"という節がある。その説によれば、あるデバイスがほかのデバイスからメッセージを受信できない、つまり受信障害がある場合、ゾンビであると判定される。そのデバイスがいると「全員で合意する」ことができなくなるため、合意取得の場から締め出されてしまう。この論文では、デバイスが自身のメッセージを受け取る能力の有無(=ゾンビかどうか)を検出し、自動的にゴーストになってメッセージのやりとりを中止するシステムがあるのだという。


ホモ・サピエン・ハイブリッド・アーリアンの衰退とネアンデルタール人のアスール・シュドラの世界

アラート日付:5月30日
原題:DECLINE OF HOMO SAPIEN HYBRID ARYANS AND THE WORLD OF NEANDERTHALIC ASURIC SHUDRAS
掲載:Research Gateのみ
著者:Ravikumar Kurup A. と Parameswara Achutha Kurup
ジャンル:歴史学?

「-philosophical」および「-drug」、「-gender」、「-network」で排除。人種の歴史をひも解いている?様々な場面でzombieの単語が見られるが、かなり多いので正確な読解をする気が起きない。ざっと読んだ感じではほかの単語で代替可能なように見える。


「事実性」と「規範性」の間に想定されるギャップを問う:存在論的および意味論的試行主義について

アラート日付:5月31日
原題:Questioning the Supposed Gap between “Facticity” and “Normativity”: On Ontological and Semantical Trialism
掲載:International Journal for the Semiotics of Law - Revue internationale de Sémiotique juridique
著者:Dietmar von der Pfordten
ジャンル:哲学

「-philosophical」および「-narrative」、「-network」で排除。哲学が生み出した概念のひとつに哲学的ゾンビを一例に挙げている。


アイデンティティとその重要性

アラート日付:5月31日
原題:Identity and Its Significance
掲載:the University of North Carolina at Chapel Hillに提出された博士論文
著者:Zachary Thornton
ジャンル:哲学

「-philosophical」および「-drug」、「-gender」で排除。内容はよくわからないが哲学的ゾンビに触れているようだ。


数字に対する心: 数学と科学で優れた成績を収める方法

アラート日付:5月31日
原題:A Mind For Numbers: How to Excel at Math and Science
掲載:Communication and Critical/Cultural Studies
著者:Barbara Oakley
ジャンル:教育学

「-drug」および「-network」で排除。理数系の科目への苦手意識を取り去るためのマインドセットを解く本。面倒くさがって学習を先延ばしにしている学生をゾンビに喩えている。



検索条件3「zombie narrative」

検索条件2の「-narrative」がねらいの論文まで排除していないか調べる。

以下、27件のゾンビ論文が見つかった。そのうち、「-narrative」で排除したかった評論・比較文化学・社会学など(太字で表示する)は計14件だった。つまり、残りの13件は意図せず排除してしまったゾンビ論文である。ただし、この中にねらいの論文はなかった。

まず、5/27の分。

  1. Becoming animal – becoming posthuman: Of hybridity and mutability of characters in Terry Pratchett’s fiction(動物になる – ポストヒューマンになる: テリー・プラチェットの小説における登場人物のハイブリッド性と可変性について 評論)

  2. True Believers: The Incredulity Hypothesis and the Enduring Legacy of the Obedience Experiments(真の信者たち:不信の仮説と服従実験の永続的な遺産 心理学)

  3. Communist China Today: Unstable Stability(今日の共産主義中国:不安定な安定 社会学)

  4. Unmasking the Profound Impacts: The Costs and Benefits of Lies in Peter Carey’s Illywhacker(深刻な影響を明らかにする: ピーター・ケアリーの『イリーワッカー』における嘘の代償と利益 評論)

  5. Romanticism and the Contingent Self(ロマン主義と偶発的自己 哲学)

  6. Brain and consciousness(脳と意識 哲学)

  7. Harm Reduction Programs and Policies, “Not In My Backyard” Mentalities, and the Canadian Criminal Justice System: An Exploratory Analysis(危害軽減プログラムと政策、「私の裏庭には置きたくない」という考え方とカナダの刑事司法制度:探索的分析 社会学)


次に、5/28の分。

  1. The Monstrous Disability and the Disabled Monster: Jeffrey Jerome Cohen’s Seven Monster Theses and Disability Creationism(巨大な障害と障害のあるモンスター: ジェフリー・ジェローム・コーエンの7つの怪物テーゼと障害創造論 評論)

  2. Chile and the Contemporary Power of Capital: Peripheral Predatory Rentier Capitalism and the Political Practices of Business Elites(チリと現代の資本力: 周辺略奪的レンティア資本主義とビジネスエリートの政治慣行 経済学)


次に、5/29の分。

  1. The Heroine and Her Prince Charming: Locating Gender Stereotyping in Meyer's Mythopoeia in the Twilight Series(ヒロインと魅力的な王子様: トワイライト シリーズのマイヤーの神話にジェンダー ステレオタイプがあることを突き止める 評論)

  2. ILLOCUTIONARY ACTS IN “THE FAULT IN OUR STARS” MOVIE(映画「きっと、星のせいじゃない。」における発話行為 言語学)


次に、5/30の分。第一の論文に出てくる"zombie zoology"(ゾンビ動物学)には少し興味を引かれる。科学の力で絶滅した動物を蘇らせる研究一般のことらしい。

  1. Animals are our history(動物は私たちの歴史 評論)

  2. Through Susy’s Eyes: Sight, Sound, and Subjectivity in Mancini’s Wait Until Dark(スージーの目を通して:マンチーニの『暗くなるまで待って』の視覚、聴覚、そして主観 評論)

  3. Contact with the Dead in Iceland Past and Present: The Findings of a New Survey of Folk Belief and Experiences of the Supernatural in Iceland(アイスランドの過去と現在における死者との接触:アイスランドの民間信仰と超常現象の体験に関する新たな調査結果 比較文化学)

  4. Mermaids and bin chickens: Australian teenagers’ engagement with screen stories in the on-demand age(人魚とゴミ箱の鶏: オンデマンド時代におけるオーストラリアのティーンエイジャーの映画ストーリーへの取り組み  メディア学)

  5. Play and Game: Outlining Playful Practices in the Scenarios of Stimulation and Rehabilitation of Executive Functions(遊びとゲーム: 実行機能の刺激とリハビリテーションのシナリオにおける遊び心のある実践の概要 心理学?)

  6. “Drown Your Troubles in Coffee”: Place, Heterotopia, and Immersion in the Coffee Talk Series(「コーヒーで悩みを紛らわす」: コーヒー トーク シリーズの場所、ヘテロトピア、没入感 メディア学)

  7. “Community of Wounded People” and (W)Holistic Healing Reimagined: Rethinking Rehabilitation and Community Engagement through Spiritual Intelligence (SI), Pastoral Counselling and Skills Training(「傷ついた人々のコミュニティ」と(W)ホリスティックヒーリングの再考:スピリチュアルインテリジェンス(SI)、牧会カウンセリング、スキルトレーニングを通じてリハビリテーションとコミュニティエンゲージメントを再考する コミュニケーション学)


最後に、5/31の分。

  1. Adapt, Survive and Evolve: Changing Environment in Two Post-Apocalyptic Novels The Stand and Earth Abides(適応、生存、進化: 2 つの黙示録的小説における環境の変化スタンドと地球は存続する 評論)

  2. Questioning the Supposed Gap between “Facticity” and “Normativity”: On Ontological and Semantical Trialism(「事実性」と「規範性」の間に想定されるギャップを問う:存在論的および意味論的試行主義について 哲学)

  3. (Role)playing soldier: LARP, simulated combat, and gender at war(兵士の(ロール)プレイ:LARP、模擬戦闘、戦争時のジェンダー 社会学)

  4. The enduring nature of cranberry production in a changing climate: The interplay of extreme weather, knowledge networks, and adaptation(変化する気候におけるクランベリー生産の永続的な性質: 異常気象、知識ネットワーク、適応の相互作用 環境学)

  5. Communication and Control: The shaping of reality and people(コミュニケーションとコントロール: 現実と人々の形成 哲学)

  6. Designing unnerving animations for enemy characters in a three-dimensional horror game(3D ホラー ゲームの敵キャラクターの不気味なアニメーションをデザインする ゲームデザイン学)

  7. Romanticism and the Contingent Self: The Challenge of Representation(ロマン主義と偶発的な自己: 表現の課題 人文学)

  8. When growth does – and does not – reduce poverty(成長が貧困を削減する場合とそうでない場合 経済学)

  9. Increased morality through social communication or decision situation worsens the acceptance of robo-advisors(社会的コミュニケーションや意思決定状況を通じて道徳性が高まると、ロボアドバイザーの受け入れが悪化する 情報工学)



最後に

検索条件1は医学が一件だった。

上で少しだけ触れた、ゾンビ動物学について。論文中の文章を引用する。

Swart examines one scientific by-way – the efforts to somehow reproduce or resurrect the quagga, which the early colonists had sportively shot to extinction. Shades of reconstituting, via frozen DNA, the woolly mammoth, of course. Whether hapless or hubristic, such enterprise (Swart calls it ‘zombie zoology’, a term she wistfully complains somehow has not caught on) has particular importance and poignancy in our present era of multiple extinctions.
(スワート氏は、初期の入植者が遊び半分で撃ち殺したクアッガを何とかして繁殖または復活させようとする努力という科学的裏技を検証している。もちろん、凍結した DNA を使ってマンモスを再生するようなものです。不運であろうと傲慢であろうと、そのような試み (スワートはそれを「ゾンビ動物学」と呼んでいますが、この言葉はどういうわけか普及していないと物憂げに不満を漏らしています) は、絶滅が繰り返される現在の時代には特に重要で痛ましいものです。)

South African Journal of Science掲載
Dan Wylie著
『Animals are our history』より

文中のSwartは歴史学教授のSandra Swartのこと。Twitterをやっているらしい。Swartは『The Historical Animal』にてゾンビ動物学を提唱している。絶滅した動物を蘇らせるのだからゾンビに喩えたのだろう。しかしまだ実現していない段階でゾンビと呼ぶのはいかがなものか。注意喚起したいからキャッチーな単語を使うという意図もわかるのだが。

ところでゾンビに喩えられるものはすべからくネガティブな印象を持たれている。良く思われているものがゾンビと呼ばれることはありえない。であれば、絶滅動物の復活プロジェクトに対してSwartは悪印象を持っているのだが、なぜダメなのだろうか。

今回はねらいの論文がなかった。


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