2024/3月第三週のゾンビ論文 スマホやPCを見続けるスクリーンゾンビ

本物のゾンビについて書かれた論文を探すべく、Googleスカラーのアラート機能を使い、ゾンビについて書かれた論文を収集している。

アラートの検索条件は次の通り。

  1. 「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network

  2. 「zombie -firms -Chalmers -xylazine -biolegend -DDoS」(取りこぼし確認用)

「zombie」をキーワードにゾンビ論文を探しているのだが、比喩としてゾンビを使う論文も多いため、「-◯◯」で比喩としてのゾンビを扱うが論文を排除している。排除したいゾンビや論文は、以下の通り。

  • 「-firms」:ゾンビ企業

  • 「-philosophical」:哲学的ゾンビ

  • 「-drug」:ゾンビドラッグ

  • 「-network」:情報科学系の論文ならなんでも

  • 「-DDoS」:ゾンビPC

  • 「-biolegend」:細胞の生死を確認するゾンビ試薬

  • 「-gender」:ジェンダー学系の論文ならなんでも

  • 「-narrative」:ゾンビ映画・小説などの評論

検索条件1には一般性の高い排除キーワードが含まれているため、それらが不必要にゾンビ論文を排除していないかを条件2で確かめる。

今回、3/18~3/24の期間で収集し、以下の通りの論文を得た。

  1. 「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network」二件

  2. 「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS」十件(検索条件1との差分は五件)

検索条件1は環境学、情報科学、教育学、医学が一件ずつだった。


検索条件1「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network」


燃焼中に放出される有機エアロゾルの複雑な組成は、北極の泥炭と北方の泥炭の間で異なります

一件目。

アラート日付:3月18日
原題:The complex composition of organic aerosols emitted during burning varies between Arctic and boreal peat
掲載:communications earth & environment
著者:Eric Schneiderを筆頭著者として、十名
ジャンル:環境学

タイトルの通り、北極と北方(ロシアとかアメリカとか?)の泥炭の組成の違いを調査した論文。泥炭はバイオマスとして使えるため、組成の違いから燃焼時に排出される物質を調べておくのが重要なのだろう。

zombieの単語は参考文献中にのみ出てくる。泥炭でゾンビだから、当然ゾンビ火災である。泥炭を燃料にして雪の下で越冬し、春になると再び燃え盛る山火事のことだ。

ジャンルは環境学。


複雑さを実際に測定可能にする: ギャンブルプレイメディアの正式な分析

二件目。

アラート日付:3月20日
原題:Making Complexity Measurable in Practice: A Formal Analysis of Gamble-Play media
掲載:Games and Culture
著者:Maarten Denooを筆頭著者として、五名
ジャンル:情報科学

ここ10年で、ゲームにギャンブル的要素が増えているという。その動向を測定・分析した論文。おそらく、分析したゲームの中にゾンビを倒すゲームが含まれているのだろう。

ジャンルは情報科学。ゲーム関連はそうジャンル分けすることにしている。ただ、教育学や心理学の方が適切なケースもあり、今回も少し怪しいが…。


豊かな学習者か、それともスクリーンゾンビか?

三件目。

アラート日付:3月22日
原題:Enriched Learners or Screen Zombies?
掲載:Childhood Education
著者:Rhona Anne Dick
ジャンル:教育学

日本語では画面やモニタと呼んだ方が分かりやすいと思うが、子供たちがスクリーンに触れる機会が増えている。利点はあれども、懸念や議論も多い。懸念は"screen time"(スクリーン時間)という文字列で表される。簡単に言えばモニタを眺める時間が長すぎる、スマホやPC中毒を指しているものと思われる。そして、そんな「仮想世界に夢中になっている孤立した子供たち」を「スクリーンゾンビ」と定義しているようだ。この場合、主体性が欠如している(ように見える)様子がゾンビに喩えられているのだろう。

つまりタイトルを説明すると、モニタばっかり見てる子供は、勉強しているのか、それとも中毒になっているだけのスクリーンゾンビなのか、ということになる。きっとその辺の議論なり調査結果なりが報告されるのだろう。

ジャンルは教育学。


悪性細胞、線維芽細胞、免疫細胞からなる複雑なヒト腫瘍オルガノイドモデルにより、化学療法誘発性老化腫瘍細胞が NK 細胞抗腫瘍応答に及ぼす影響が明らかになった

四件目。

アラート日付:3月23日
原題:A complex human tumor organoid model consisting of malignant cells, fibroblasts and immune cells enlights the effect of chemotherapy-induced senescent tumor cells on NK-cell anti-tumor responses
掲載:Journal for ImmunoTherapy of Cancer
著者:D Ammon
ジャンル:医学

細胞に関する論文。タイトルを見る限り、専門外の私に理解できる内容ではない。死んだ細胞を染色して識別する、ゾンビ試薬を扱っている。

ジャンルは医学。



検索条件2「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers」

上記の条件で誤ってねらいのゾンビ論文を取りこぼしていないかチェックするために、こちらの検索結果もチェックしておく。ただし、ゾンビ企業とゾンビドラッグ、ゾンビ試薬、ゾンビPC、哲学的ゾンビは排除されるように設定してある。

よくやった、容疑者! – 携帯ゲーム機「Steam Deck」のフォレンジック検査

アラート日付:3月18日
原題:Well Played, Suspect! – Forensic examination of the handheld gaming console “Steam Deck”
掲載:Forensic Science International: Digital Investigation
著者:Maximilian Eichhorn と Janine Schneider、 Gaston Puglieseの三名
ジャンル:情報科学

何で排除されたか不明。ゾンビを倒すゲームを扱うのだろう。タイトルの「フォレンジック」だけ不明だったので、意味を以下に引用しておく。

フォレンジックとは、元々、犯罪捜査における分析や鑑識を意味する言葉です。サイバーセキュリティの分野で使われる「フォレンジック」とは、セキュリティ事故が起きた際に、端末やネットワーク内の情報を収集し、被害状況の解明や犯罪捜査に必要な法的証拠を明らかにする取り組みを指します。

NRI SECURE セキュリティ用語解説「フォレンジック」より


フランケンシュタインのファッション: 現代ファッション写真における死、テクノロジー、身体

アラート日付:3月18日
原題:Fashioning Frankenstein: Deathliness, technology and the body in contemporary fashion photography
掲載:Fashion, Style & Popular Culture
著者:Louisa Rogers
ジャンル:比較文化学

「-drug」および「-narrative」、「-gender」、「-philosophical」で排除。現代のファッションや美的センスをフランケンシュタインから読み解く論文。ポップカルチャーとして大人気のゾンビも引き合いにしているのだろう。


生理学的信号のエンコードと畳み込みニューラル ネットワークによるストレス検出

アラート日付:3月18日
原題:Stress detection with encoding physiological signals and convolutional neural network
掲載:Machine Learning
著者:Michela Quadriniを筆頭著者として、七名
ジャンル:情報工学

「-network」で排除。人間が感じるストレスを畳み込みニューラルネットワークを使った技術で検出する論文。ストレス源としてゾンビが出てくる映画が使われる。


PS2MS: 質量分析を使用して新しい精神活性物質を特定するための深層学習ベースの予測システム

アラート日付:3月18日
原題:PS2MS: A Deep Learning-Based Prediction System for Identifying New Psychoactive Substances Using Mass Spectrometry
掲載:Analytical Chemistry
著者:Yi-Ching Linを筆頭著者として、七名
ジャンル:生物学

「-network」および「-drug」で排除。タイトルの「精神活性物質」は平たく言えば覚醒剤のこと。薬物に含まれる物質のうち、何が人間をゾンビ(のような状態)にするのか突き止める手段を報告している。


異常対応時の仮説探索の認知作業

アラート日付:3月18日
原題:Cognitive Work of Hypothesis Exploration During Anomaly Response
掲載:Computing Applications
著者:Marisa R. Grayson
ジャンル:情報科学

「-network」で排除。論文の内容はよくわからないが、"zombie rule"(ゾンビの法則)なる文字列が出てくる。こちらの意味もわからない。


「パンデミセン」における人獣共通感染症: 地形学は動的な「病原性地形」の特性評価の改善にどのように貢献できるでしょうか?

アラート日付:3月18日
原題:Zoonotic diseases in a ‘Pandemicene’: How can geomorphology contribute to the improved characterisation of dynamic ‘pathogenic landscapes’?
掲載:Earth Surface Processes and Landforms
著者:Stephen Toothを筆頭著者として、六名
ジャンル:生物学

何で排除されたか不明。人間と動物と両方を襲う感染症に関し、地形が感染拡大にどのような影響を与えるかを調べた論文。太古より氷河に眠り、地球温暖化によって解き放たれうる未知のウイルスを意味する、ゾンビウイルスの影響も懸念している。


ロシア対ウクライナ戦争の瞬間の記憶 – 仮想メタヒストリーのマッピング: 戦争博物館

アラート日付:3月18日
原題:Instant memories of the Russian war against Ukraine – mapping the virtual Meta History: Museum of War
掲載:Memory, Mind & Media
著者:Sebastian Graf
ジャンル:比較文化学

「-network」および「-narrative」で排除。戦争博物館の紹介論文…だろうか。巨大なサイボーグかゾンビ…に見えるキャラクターがロシア兵士を見下ろしているのだそうだ。サイボーグとゾンビを見間違えるわけないのだが。


ADHDの子供を持つ家族の共同調整のための位置情報ディスプレイの共同設計

アラート日付:3月18日
原題:Co-Designing Situated Displays for Family Co-Regulation with ADHD Children
掲載:CHI 2024
著者:Lucas M. Silvaを筆頭著者として、11名
ジャンル:小児科学

「-gender」および「-network」、「-narrative」で排除。ホワイトボードにメモを残して情報共有を図る家族は多くいるだろうが、この論文ではIoTディスプレイを使って情報共有を行う家族を紹介・分析している。それがADHDの子供を持つ家族にどう役に立つかも示している。ADHDの子供が、薬(の過剰摂取か不適切な処方?)が原因でゾンビのようになってしまうらしい。


ECBの今後の金融政策運営枠組み

アラート日付:3月18日
原題:The ECB’s Future Monetary Policy Operational Framework
掲載:IMF WORKING PAPERS
著者:Luis Brandao-Marques と Lev Ratnovski
ジャンル:経済学

「-gender」および「-network」で排除。ECBはEuropean Central Bankのこと。弱い銀行をゾンビと呼んでいる。


Netflix韓国ドラマ「ザ・グローリー」の成功を異文化コミュニケーションの観点から分析する

アラート日付:3月20日
原題:Analysis of the Success of The Netflix Korean Drama the Glory from The Perspective of Cross-cultural Communication
掲載:International Journal of Education and Humanities
著者:Yuxin Yuxin
ジャンル:比較文化学

「-gender」および「-network」、「-narrative」で排除。韓国ネトフリの分析は多い。そして韓国ネトフリと言えば『今、私たちの学校は…』。ゾンビドラマだ。


ブラック・ミーム: 私たちを形作るイメージの歴史

アラート日付:3月20日
原題:Black Meme: A History of the Images that Make Us
掲載:このタイトルの本がある
著者:Legacy Russell
ジャンル:黒人学

「-gender」および「-network」、「-narrative」、「-drug」で排除。文章量が多すぎるので目を通せていないが、被差別者をゾンビに喩えるやつらしい。


神経科学とスーパーヒーロー、ゾンビ、サイボーグ、ドロイドのインターフェイス: パワーウーマンの物語

アラート日付:3月22日
原題:Interfacing Neuroscience with Superheroes, Zombies, Cyborgs and Droids: The Story of PowerWoman
掲載:16th Annual Student Research and Creative Activity Fair
著者:Alya Shah
ジャンル:社会学

「-gender」および「-network」で排除。"Interfacing Neuroscience with Superheroes, Zombies, Cyborgs and Droids"(神経科学とスーパーヒーロー、ゾンビ、サイボーグ、ドロイドのインターフェイス)という講義があり、その成果として神経科学的知見をベースに超能力を持ったオリジナルスーパーヒーローを作り、ポスター発表で報告する。

講義のタイトルにzombieが入っているのみで、この発表自体はゾンビと無関係。この発表者はジェンダー学的観点からスーパーウーマンの作成が必要だと考えたとのこと。面白い講義だと思うが、ジェンダー脳で何もかもぶち壊していそうだという偏見がぬぐいされない。


実用的なメタヒューマンをデザインする

アラート日付:3月22日
原題:Designing a Pragmatic Metahuman
掲載:16th Annual Student Research and Creative Activity Fair
著者:Timothy Urbanski
ジャンル:神経科学

「-network」で排除。ひとつ上と同じ講義のポスター発表。男の子だからか、真面目にスーパーヒーローとライバル怪人を作っている。


神経科学とスーパーヒーロー、ゾンビ、サイボーグ、ドロイドの接続: Earth 262: Project Unity

アラート日付:3月22日
原題:Interfacing Neuroscience with Superheroes, Zombies, Cyborgs and Droids: Earth 262: Project Unity
掲載:16th Annual Student Research and Creative Activity Fair
著者:Elias Fleming
ジャンル:神経科学

「-network」で排除。ひとつ上と同じ講義のポスター発表。こちらも男の子だからか、真面目にスーパーヒーローとライバル怪人を作っている。


ブルック・アーチャー作『Hearts Still Beating』(書評)

アラート日付:3月22日
原題:Hearts Still Beating by Brooke Archer (review)
掲載:Bulletin of the Center for Children's Books
著者:Natalie Berglind
ジャンル:書評

「-narrative」で排除。ダニがゾンビ・パンデミックを引き起こす本『Hearts Still Beating』の書評。ただ、ゾンビが主題ではなく、その世界を生きるティーンエイジャーの生き様を描いた本。小説だとよく見るが、映画ではゾンビをアイテムの一種として使うゾンビものはあまりない気がする。ゾンビ映画の次なるステージとして、そういうものが増えてくれるとうれしいのだが…。


その後:振り返って

アラート日付:3月22日
原題:Afterward: Looking Back
掲載:We had the Watches. They had the Time
著者:Carol Burke
ジャンル:

「-narrative」および「-drug」で排除。アフガニスタン戦争に焦点を当てた本のあとがき。著者が悪と判定した兵士をゾンビに喩えたか、政治的判断をゾンビに喩えたか…内容はわからないが、とにかくゾンビが出てくるらしい。


このゾンビ菌はどうやってセミをホラー映画のセックスボットに変化させるのか

注意!リンク先には腹を破られたセミの画像があります!

アラート日付:3月23日
原題:How This Zombie Fungus Turns Cicadas into Horror-Movie Sex Bots
掲載:Scientific American
著者:RACHEL NUWER
ジャンル:菌類学

「-drug」で排除。タイトルの通り、セミをゾンビに変えるゾンビ菌、Massospora cicadina(マッソスポラ・シカディーナ、ジュウシチネンゼミカビ)の解説記事。

セミは、真菌マッソスポラに感染すると、元気に交尾に勤しみ、その結果真菌をまき散らして感染を広げる。しかも「元気に交尾に勤しみ」というのがかなり気味悪く、マッソスポラに感染したセミの腹部は剥がれ落ち、にも関わらず死ぬことはなく、狂ったように誰彼構わず交尾を始めるのだ。これがタイトルの「セックスボット」の指すところなのだろう。

余談だが、これまで昆虫に寄生する真菌を「ゾンビキノコ」と呼ぶことにしていたが、十七年蝉"カビ"とまで言われたらキノコとは呼び難い。今後はゾンビ菌と呼ぶことにする。


グラフクラスのゾンビと生存者

アラート日付:3月23日
原題:Zombies and Survivors on Graph Classes
掲載:The University of Manitobaに提出された修士論文
著者:Fengyi Liu
ジャンル:情報工学

「-network」で排除。「Zombies and Survivors」というゲームがあり、その勝ち筋を数学的に調査した論文。数学と言っても情報系の、ちょっとよくわからない式が並んでいるが。


免疫表現型検査、パート I: ヒト末梢血単核球培養物の免疫表現型分析のための機器のキャリブレーションと試薬の適格性評価

アラート日付:3月23日
原題:Immunophenotyping, Part I: Instrument Calibration and Reagent Qualification for Immunophenotyping Analysis of Human Peripheral Blood Mononuclear Cell Cultures
掲載:Characterization of Nanoparticles Intended for Drug Delivery
著者:Hannah S. Newton と Jenny Zhang、 Marina A. Dobrovolskaiaの三名
ジャンル:医学

「-drug」で排除。細胞の…何かを…調べた論文…。タイトルから推測するに、ゾンビ試薬を使っている?



最後に

検索条件1は環境学、情報科学、教育学、医学が一件ずつだった。

今回は特に学びのあるゾンビは出てこなかった。スクリーンゾンビは少しだけ面白いと思ったが、教育現場で子供たちが主体性を欠如している様子がゾンビに喩えられるのはよく見るため、学びがあるとは言えない。ただ、教育現場におけるゾンビはかなり見てきた気もするので、そろそろまとめ記事を作るべきかもしれない。まあ、また気が向いたときにでも。

面白いと思ったのは、フィクションキャラクターを利用した神経科学の講義の存在だ。日本でフィクションキャラクターを使った講義といえばフィクションそのものを研究するケースしか心当たりがない。言い方は悪いが、「ガチ」の講義になればなるほどそんな講義をして、その後に通じる知識を得られるとは思えない。大学一年生の教養課程の講義なのだろうか。だったら、やっぱり面白そうだなあ。いいなあ。

今回はねらいの論文がなかった。


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