2023/08/29(火)のゾンビ論文 肝吸虫と真菌によるゾンビアリ

ゾンビについて書かれた論文を収集すべく、Googleスカラーのアラート機能を使っている。アラート設定ごとに、得られた論文を以下にまとめる。

アラートの条件は次の通り。

  1. 「zombie -firm -philosophical -bot -xylazine -biolegend -gender」

  2. 「zombie -firm -philosophical -DDos -xylazine -viability -gender」

  3. 「zombie -firm -philosophical -DDos -xylazine -biolegend -gender」

  4. 「zombie -firm -philosophical」(取りこぼし確認)

  5. 「zombie」(取りこぼし確認その2)

検索条件は次の意図をもって設定してある。

  • 「zombie」:ゾンビ論文を探す

  • 「-firm」:ゾンビ企業を扱う経済学の論文を排除する

  • 「-philosophical」:哲学的ゾンビを扱う哲学の論文を排除する

  • 「-DDoS」/「-bot」:ゾンビPCを扱う情報科学の論文を排除する

  • 「-xylazine」:ゾンビドラッグに関する論文を排除する

  • 「-viability」/「-biolegend」:細胞の生死を確認するゾンビ試薬を使う医学の論文を排除する

  • 「-gender」:ジェンダー学の論文を排除する

また、「zombie」の内容も確認するのは、上記の検索キーワードで不必要にゾンビ論文を排除していないかを確かめる目的である。ただし、条件4の通り、ゾンビ企業と哲学的ゾンビは完全な排除をねらう。

それぞれのヒット数は以下の通り。

  1. 「zombie -firm -philosophical -bot -xylazine -biolegend -gender」五件

  2. 「zombie -firm -philosophical -DDos -xylazine -viability -gender」四件

  3. 「zombie -firm -philosophical -DDos -xylazine -biolegend -gender」五件

  4. 「zombie -firm -philosophical」六件(差分一件)

  5. 「zombie」九件(条件4との差分三件)

「zombie -firm -philosophical -bot -xylazine -biolegend -gender」は行動生態学、菌類学、医学、社会学、比較文化学が一件ずつだった。



検索キーワード「zombie -firm -philosophical -bot -xylazine -biolegend -gender」

吸虫に誘発されたゾンビアリの行動の発現は温度と強く関連している

一件目。

原題:Expression of trematode-induced zombie-ant behavior is strongly associated with temperature
掲載:Behavioral Ecology
著者:Simone Nordstrand GasqueとBrian Lund Fredensborg
ジャンル:行動生態学

タイトルの通り、ゾンビアリに関する論文。ゾンビアリは主に菌類に寄生されて行動を操られたアリのことを指すが、本論文ではランセット肝吸虫という種類の寄生虫であるDicrocoelium dendriticumに脳を乗っ取られたアリを扱う。また、寄生されたアリもFormica polyctenaという種類に限定されている。

ゾンビアリは何かしらの植物に上り、その植物にかみつくように操られる。その目的は、そこがランセット肝吸虫にとって住みよい環境であるか、アリを曝して上位の捕食者に食べさせ、糞によって生息域を広げるかのどちらかである。

植物にかみついて離れない異常行動は気温に依存し、気温が低い時にはアリが一日中植物にかみついたままで、気温が高い時にはかみついたり離れたりを繰り返したという。

ジャンルは掲載誌より、行動生態学。



ゾンビアリのミクロの世界:カンポノトゥス・フロリダヌスのマイクロコンピュータ断層撮影とマイクロバイオーム解析

二件目。

原題:The Micro World of Zombie Ants: Micro-Computed Tomography and Microbiome Analysis of Camponotus floridanus
掲載:University of Central Floridaに提出された修士論文
著者:Sophia Vermeulen
ジャンル:菌類学

次の論文もゾンビアリに関するものである。今回は寄生虫ではなく菌類に寄生されたもの。すなわち、Ophiocordyceps真菌類に寄生されたCamponotus floridanusアリに関するものである。

主目的は、ゾンビアリの断面を観察して真菌がアリの中にどう根を張っているか直接調査することと、Beauveriaという真菌と比較してOphiocordycepsがアリの生態にもたらす影響を明らかにすることの二点。

Beauveriaは宿主を殺すタイプの真菌(necrotroph、ネクロトロフ)で、Ophiocordycepsは宿主をはじめは生かしておくが最終的には殺すタイプの真菌(hemibiotroph、ヘミバイオトロフ)。その二種を比較することで、Ophiocordycepsの感染戦略(=生存戦略?)を探ることができるとのこと。

また、タイトルにあるマイクロバイオームとは生物の体内に住み着く菌類・ウイルスの総称。それらが生物の体内で働くことにより、消化能力や代謝に影響が出ることが分かっている。有名どころだと、ピロリ菌や乳酸菌などが挙げられるだろう。

ヒトの体に共生する微生物(細菌・真菌・ウイルスなど)の総体のことです。これらの微生物が消化器・皮膚、口腔、鼻腔、呼吸器、生殖器など人体が外部環境に接するあらゆる場所には、それぞれ特徴的な微生物群集が常在しています。特に腸に生息する細菌(腸内細菌叢)は約1,000種類、約100兆個といわれています。近年の研究からヒトマイクロバイオームが健康や疾患に密接に関係することが次々と明らかになってきています。

シスメックスガクジュツセミナー『医療を変える「マイクロバイオーム」』より

ジャンルは菌類学。ひとつ前の論文と同じく生物生態学か、あるいは生物学でもよいが、ゾンビキノコに関するものは菌類学に分類すると決めているため。



パルス超音波は、細胞内カルシウムレベルの上昇を介して骨格筋管からの抗炎症性細胞外小胞の分泌を促進します

三件目。

原題:Pulsed ultrasound promotes secretion of anti-inflammatory extracellular vesicles from skeletal myotubes via elevation of intracellular calcium level
掲載:eLife
著者:Atomu Yamaguchiを筆頭著者として、九名
ジャンル:医学

Zombie Redという細胞の生死を判定する試薬を使っているため、検索に引っ掛かった。私がゾンビ試薬と呼んでいるものである。

ゾンビ試薬が出てきた場合はジャンルを医学にすると決めている。

超音波を与えると骨格筋から細胞外小胞が放出されるらしく、その小胞の役割やパルス超音波による小胞放出量の依存性を調べたらしい。


活動をベースにデザインされた移住への介入

四件目。

原題:A Design of Activity-Based Mobility Intervention
掲載:SSTD '23: Proceedings of the 18th International Symposium on Spatial and Temporal Data
著者:Joon-Seok KimとGautam Malviya Thakur、Steven Carter Christopherの三名
ジャンル:社会学

人間の移住は社会に影響を与え、社会から影響を受ける。その相互的な影響を読み解くモデルがいくつか提案されており、そのモデルの一つに"zombie"が存在する。

モデルは以下の五つ。

Lv.0 Phantom:あらゆる要素と相互作用なし
Lv.1 Divine:ほかの要素に一方的に影響を与える
Lv.2 Zombie:ほかの要素からも影響を受ける(相互的な影響がある)
Lv.3 Avatar:相互的な影響を考慮し、移住への介入が組み込まれている
Lv.4 Human:Avatarに加え、移住者は介入の指示に従うか決定する意思を持つ

Lv.0のPhantom(亡霊)は相互作用がなく他人から見つからないということからつけられた名前だろう。Lv.1のDivine(神聖なもの)は移住者、つまり人間に一方的に影響を与えることから神になぞらえられたものと考えられる。Lv.2のZombie(ゾンビ)はそのままでは理解できないが、Lv.4のHuman(人間)と対比することで、意思を持たない人間のようなものと解釈することができる。Lv.3のAvatar(アバター、化身)だけは理解が難しい。

これらのモデルを何かしらプログラミングで設計し、現実の移住を説明できるかどうかを調べた、といったところだろう。

ジャンルは社会学。珍しく数学よりな社会学調査だ。


Reanimated: 現代アメリカンホラーのリメイク

原題:Reanimated: The Contemporary American Horror Remake
掲載:このタイトルの本がある
著者:Laura Mee
ジャンル:比較文化学

タイトルの通り、アメリカホラー映画のリメイクについて議論する論文。第一章ではリメイク作品に対する批評を分析しているので、単純な映画評論ではなく、批評の批評をする若干高度な文化学系の論文だといえる。

ジャンルは比較文化学。批評を並べて分析することから、比較の名がつくとよいと感じた。



検索条件1-3の差分

「DDoS/bot」と「viability/biolegend」で検索結果に差異が生じるか調べる。

今回は「viability/biolegend」で差分が見られた。

「zombie -firm -philosophical -bot -xylazine -biolegend -gender」五件
「zombie -firm -philosophical -DDos -xylazine -viability -gender」四件
「zombie -firm -philosophical -DDos -xylazine -biolegend -gender」五件

差分だったのは次の論文。

パルス超音波は、細胞内カルシウムレベルの上昇を介して骨格筋管からの抗炎症性細胞外小胞の分泌を促進します

「-biolegend」では排除できなかったが、「-viability」では排除できたことを意味する。論文をざっと読んでみたが、顕微鏡の社名は書いてある。しかしゾンビ試薬の社名は書かれていない。

論文は、特に化学や医学の論文は再現性が命のはず。であれば、使った装置と試薬は誰もがわかるように詳細を書くものだと思っていた。あるいは、ゾンビ試薬は詳細がなくとも分かって当たり前なのだろうか。まあ、医学素人の私がわかるくらいだからその可能性も大いにあるか。

しかし過去には「-viability」で排除できなかったこともある。全く新しい検索キーワードの検討が必要であるようだ。



検索キーワード「zombie -firm -philosophical」

上記の条件で誤ってねらいのゾンビ論文を取りこぼしていないかチェックするために、こちらの検索結果もチェックしておく。ただし、ゾンビ企業と哲学的ゾンビは意図的に取りこぼすこととする。

DWH24: 蛍光ベースの細胞死分析用の新しい抗体

原題:DWH24: a new antibody for fluorescence-based cell death analysis
掲載:Methods and Applications in Fluorescence
著者:Anna Ryschichを筆頭著者として、五名
ジャンル:医学

Googleアラートのメールより、"Zombie Violet"の文字列が含まれていることがわかる。「biolegend/viability」の差分に含まれなかったことを考えると、どちらの単語も論文に使われていたのだろう。

再現性に気を使った、いい論文だ。



検索キーワード「zombie」

「zombie -firm -philosophical」との差分を確認する。上記条件からも排除され、こちらの条件でのみ引っかかった論文がゾンビ企業・哲学的ゾンビの論文であれば、ねらい通りといえる。

付録:ゾンビクレジットと(ディス)インフレ:ヨーロッパからの証拠

原題:Internet Appendix for “Zombie Credit and (Dis-) Inflation: Evidence from Europe”
掲載:Federal Reserve Bank of New York Staff Reports
著者:Viral V. Acharyaを筆頭著者として、四名
ジャンル:経済学

「-firm」で排除。ゾンビ企業について言及。

“Zombie Credit and (Dis-) Inflation: Evidence from Europe”という論文のAppendix(付録)。リンクは論文本体の方を貼っておいた。“Zombie Credit"という言葉はその論文における造語らしい。


マクロ経済学のエッセイ

原題:Essays in Macroeconomics
掲載:Trinity College Dublinに提出された博士論文
著者:Angelos Athanasopoulos
ジャンル:経済学

「-firm」で排除。ゾンビ企業について言及。


テレビ番組モデルのローカライゼーションの内的論理: Netflix のアジア太平洋地域における初期の拡大に関する批判的分析

原題:Inner Logic of the Localization of TV Program Models: A Critical Analysis of Netflix's Early Expansion in Asia Pacific
掲載:Media and Communication Research
著者:Zhengyu Yang
ジャンル:人文学

「-firm」で排除。ただし、ネットフリックスを企業と呼ぶ際に使ったのみで、ゾンビ企業は無関係。

ネトフリでゾンビ、しかもアジア太平洋地域といえば韓国のネトフリドラマの『今、私たちの学校は…』に触れている。



まとめ

「zombie -firm -philosophical -bot -xylazine -biolegend -gender」は行動生態学、菌類学、医学、社会学、比較文化学が一件ずつだった。

ゾンビアリを作るのは真菌類、いわゆるゾンビキノコだけだと思っていた。しかし、寄生虫によってもアリはゾンビになりうる。考えてみれば、有名どころでハリガネムシに寄生されて操られるカマキリが存在するではないか。「ゾンビカマキリ」で検索したらほとんど引っ掛からなかったが…。

ちょっと調べてみると、ナショナルジオグラフィックに次の記事があった。

ゾンビといえばウイルスによって広がるものと広く認知されており、ゾンビが出てくるフィクションもウイルスが原因であることが最も多い。それ以外では、『バタリアン』や『ゾンビーバー』のように化学薬品によってゾンビ化するケースもあり、『ラストオブアス』のように菌類に原因を求めるケースもある。

しかし、うかつにも忘れていたが、『バイオハザード4』は寄生虫が原因で化け物化したゾンビを相手取るゲームだった。バイオシリーズをゾンビと見なすかには様々な意見があるが、ゾンビもの先駆者であることは間違いない。なぜ見逃していたのだろうか。

今日はねらいのゾンビ論文なし。


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