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前職の呪いじみた悔いと占星術

事の起こり、と書くと大げさだが、始まりは占いだった。

占いは好きだろうか。好きという人も大嫌いという人もいるだろう。好悪の他に、信じている信じていないの軸もある。私は信じているかはともかく、占いは好きな方だ。

とはいっても、朝のニュース番組の星座占いはただの娯楽だと思って流しているし、ネットで読む占いの記事はその場では一喜一憂するものの、内容をすぐに忘れてしまう。

こんな調子の人間だが、特に命術にはときめく。命術とは占星術や四柱推命を指す。西洋占星術を例に取ると、生年月日や出生時間、出生場所によってその人だけの唯一無二のホロスコープができあがる。私は自分だけが持つ地図のような占いが好きだ。

そんなホロスコープの欠点は読むのが難しいことだ。一つ一つの要素は解説本の通りに読み解いていけば良いのだが、要素と要素の干渉具合やどれを優先的に読めば良いのかなどは、自分で判別できない場合が多い。となると専門家に頼るのが一番だ。

私はモダン西洋占星術の鑑定を依頼した。仕事を中心に、自分の性質を教えてほしいという依頼だ。

出産し仕事を再開するにあたって迷いがあったのだ。私の仕事中、娘は一時保育に預けたりベビーシッターを頼んだりしている。保育園に通わせてがっつり共働きをしているわけではない。そう決めたのは自分なのに、それで良いのかと自問する声が消えなかった。

以前タイミングが合わなかった先生にzoomでの鑑定を依頼した。中止になっていたセッションが再開されていて感動する。

結果、仕事は今の形がとても良いと分かった。ここ数年の流れも教えてもらい、ホロスコープの読み方としてもよく理解できた。鑑定は大満足。やはりこの先生に頼んだのは間違いではなかった。

そう思った一方、自分の中にはもやもやが残った。なぜか。

この感情をどう扱って良いのか、私には分かりかねた。だって満足しているのだ。頼んで良かったと心から納得している。なのに、どうして。

何か聞きそびれたことがあったか、別の話題の方が良かったのか、考えてみる。今の主な悩みが仕事だからそれを中心に質問をしたわけで、話題選択は正しかったはずだ。仕事とプライベートのバランスについてもたくさん話ができた。満足した、のだ。

答えはすぐに出てこなかった。

それもそのはず。私は“そのこと”について考えないようにしていた。理由は明確で、それを思考するのは痛みが伴ったからだ。体ではなく心がじくじくと痛む。

このままもやもやしているわけにはいかない。私は二回目の鑑定を頼むことにした。そして今度は何を主軸に話そうかと考えていたとき、“そのこと”に思い至ったのだった。

  ◆  ◆  ◆

以前、このnoteではこう書いた。

私は結婚と同時に引っ越し、働き方を変えた。

https://note.com/sabishiro/n/n871b565ffd30より

これは嘘ではない。私が前職を辞めた直接的な理由は、結婚に伴う引っ越しだった。が、間接的な理由も、あった。

退職の一年ほど前から、私は心身の調子を崩していた。当時は単に体調が悪いのだと思い、内科をはじめとして色々な科に足を運んだ。が、原因は心の方にあったのだと思う。行くべきは心療内科か精神科だったのだろう。

なぜ気付かなかったのか。自分を過信してはいなかった。と思う。それでもメンタル方面の病院へ行こうとは思わなかった。

劇的に何かがあったわけではない。勤め始めて数年が経ち、一年の流れにも慣れてきた。そのとき多忙だったわけでもない。全員を大好きとは言いがたいが、職場の人間関係だって悪くはなかった。

だから気付けなかったのだろう。自分の怠慢だと思い、体の不調は病院に通って治そうとした。

ところがいつまで経っても低空飛行状態が続く。一度良くなったと思っても、仕事を続けるうちに不調がぶり返してくる。薬が合っていないのか、医師には何度も相談した。

今なら原因を何となく推察できる。私は仕事での評価が不足していると感じていたのだ。自分なりに頑張ってはいた。一度ちょっとした表彰をされ、ますます仕事に熱が入った。ところが、その先はなかった。ずっと同じ立場、同じ仕事内容。慣れを通り越して飽きに突入していたのかもしれない。

そんな有様だったので、結婚と引っ越しの話が出たとき、私は迷わずに退職を選んだ。

これが前職を辞めた全貌だ。ありきたりな話かもしれない。しかし自分の中には確実に、汚点としてしみが残った。とんでもなく毒々しい色の。

私が新卒として就職した頃は、今のようには内定率が高くなかった。第一希望の企業に就職が決まったとき、私は心底安堵したのだ、無職にならずに済みそうだと。安定した会社だったので周囲も喜んでくれた。

一、二年すると転職をする同期がちらほらと現れ始めた。自分はというと、転職のての字も考えていなかった。とにかく怖かったのだ。大した資格もスキルもない自分が、無職になって二度と就職できなかったらどうしよう。給料が大幅に下がったら生活できないかもしれないと。

そう思っていたのに、結局は逃げるように退職してしまった。

遅かれ早かれ辞めていたとは思う。心身の不調は最早見逃せないほど大きくなっていた。ただ、後悔は募る。どういう辞め方なら私は引きずらなかったのだろう。

  ◆  ◆  ◆

話を戻そう。占星術の二回目の鑑定前。自分にとって前職とは何だったのか、もやもやを感じて仕方がなかった。

今の仕事は望んで得たものだ。収入は減ったものの、仕事内容と働き方には大いに満足している。最初の鑑定でも、ホロスコープ的に合っているとお墨付きをもらった。

だとすれば。何だったのだ、あの数年間は。

結果的に心身の調子を崩し逃げるように辞めた、あの前職は、自分にとってどういう位置付けなのだろう。一括りに全部駄目だったのだろうか。

そうして始まったどきどきの鑑定。内容が内容だけに初回よりも緊張したかもしれない。が、鑑定が進むごとにほんのりと懐かしい気持ちが蘇ってきた。というより、現在進行形で味わっている気にさえなった。

就職直後。まずは研修から始まって、いつもの自分なら尻込みしてしまう環境にも、えいと飛び込んだのだっけ。できないことだらけで、それでも胸には希望が満ちていた。

そうだ、そんな気持ちだった。残雪の春の頃。

就職してすぐに撮った桜(撮影:私)

最後の部署に異動したときだって、新しい上司の元、自分にできることは何なのかを必死に考えた。評価をしてもらいたい打算ではなく、初めて関わる人に信頼してもらいたかったからだ。良好な関係を築いて、快適に勤めたかった。

ずっと燻っていたわけではないのか。寧ろ短期間でがくっと調子を崩したのだと気付けた。

退職が決まった後、職場でこんな話を聞いた。伝聞なのでどこまで本当なのかあやしいが、私の望む立場への異動は話として出ていたらしい。体調不良で立ち消えたようだが。直近の上司と管轄部署の上層部に、ある程度は評価されていたと思いたい。

鑑定前に熟考したのも良かったのだろう。相談が終わった後、驚くほど爽やかな心持ちで、前職への執着を手放せた。

そうなると気になるのは未来の話である。鑑定の後半はこれからの展望について話をした。有意義な時間だった。

  ◆  ◆  ◆

さて、前職について、今はどう思っているかに触れておく。

一言で述べるのならば考えすぎだった。まさしく執着していたのだと思う。体調不良に悩む前は頑張っていた分、自分の変化を受け入れがたかったのだろう。

前職を続けるには年単位で休職し、心身をリセットする必要があったと思うが、私にその決断が下せた気がしない。となるとあのタイミングも、自分にとってはもしかしたらベストだったのかもしれない。

特に直属の上司には迷惑を掛けてしまったと恥じていたが、退職後に世はコロナ禍へと突入したので、恐らくそれどころではなかっただろう。そんなに長く一緒に働いてはいないので、もう忘れられている可能性もある。

そう思えるようになった。これは大きな一歩だ。

退職してもう数年が経つ。夫の転勤を契機に、我々は前職の会社がある付近へと引っ越してきた。ところが私は、その建物がある近辺には立ち寄れないでいたのだ。重症であった。今は誰も私のことなんて覚えていないって、と開き直っている。

このような心持ちになれたきっかけが占いなのは、何だか面白い。きっと一人ではできなかったのだ。第三者の声が必要だった。今回の場合はそれが占いの鑑定だったのだろう。

  ◆  ◆  ◆

先に書き始めたnoteがいつまで経っても終わらない。諦めて他のことを書こうと開いたのがこのnoteだ。これで四度目の投稿。まだ一桁代だし、当たり障りのない内容で自己紹介を続けようと思っていたら、想定とは全く違うものを書き始めていた。

いつかは触れようと思っていた話題ではある。だが今ではないと思っていた。まだ四回目だし。

noteに出力しないと進めない、そんな心持ちになったので、びくびくしながら投稿ボタンを押す。私はこんな人間なのです。恥ずかしいけれど綺麗事だらけのnoteは書けないのです。

これでおしまいという話ではなく、私の人生は続いていく。仕事をどうするかは生涯に渡っての課題だろう。これはあくまで一段落に過ぎない。が、曖昧になっていたものに区切りを付けられて、ほっとしている。やっと手放せたのだ。

noteには華々しい仕事の話や、理路整然とした退職のエピソードが多く載っている。こんなnoteを投稿して申し訳ない気もするが、これが自分のリアルである。

少しは胸を張れるようになったかな。これからは張れるようになりたいな、と自分に祈る。

(3939字)

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