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私的料理教室の選び方

自分の料理下手には自信がある。なんでそんなこともできへんの?と言われるかもしれない。カップラーメンですら失敗したりする。料理本を見ても、「焼けたら取り出す」と書いてあるのだけれど、この「焼けたら」が何をもって焼けているのかわからないのである。
独身時代はほぼ毎日飲み歩いていたので、別に料理ができなくても問題はなかったのだけれど、いざ結婚するとなるとさすがに心配になってきた。

そこで、結婚するひと月前に、ふと思い立って、料理教室に通ってみることにした。結果的には、これが、この5年ぐらいで一番意味があった投資だと思う。
ネットで、「料理教室、個人、◎◎区」と入れてみると、お稽古ごととして、料理教室が沢山ヒットする。一つ一つクリックして内容を見ていく。

まず、ぼんやりとこういう先生や教室はやめておこうと思ったのが、「趣味がポーラセーツ」の先生である。偏見だと思う。特に根拠ないのだけれど、このような女子感満載の趣味を全面に押し出している人が苦手であり、なんとなく、仕事で目の回るような毎日をすごしていた自分には、ゆったりとした時間をすごしている(であろう)ポーラセーツ先生はあわないと思ったのである。
次に、一人の先生に対して生徒が数名のグループレッスンもやめておこうと思った。単純に短期間でこのド初心者が、なんとか人様に出せる料理を作るようになるには、他の人がいないほうが効率的だと思ったのもあるが、以前独身時代に◎BCクッキングスタジオで遭遇したとんでもない光景があり、これも自分にはあわんな、と思ったのである。当時は土日暇なので、500円で体験レッスンが受けられるということで、隣の部署の後輩を誘って渋谷パルコ店のレッスンを申し込んだ。当日は、お菓子作りだったが、これが本当にひどかった。周りの女子(20歳~30歳代)が、まあ家では全然料理しなさそうな感じで、先生と補助スタッフの手厚いレクチャーにより美しく仕上がった小さいケーキを携帯でパチッととるだけだったのである。人のこと言えないけど、見ない方がいい光景、入らないほうがいい集団は世の中に多数存在する。後輩はそんな彼女たちは完全無視して、「料理の資格も取れるなんてすごい」、とケーキができあがるまでの待ち時間、真剣にパンフレットを読み込んでいた。そう、必要なのはこのマイウェイ。私は、渋谷パルコなんて若々しい場所を選んでしまった自分とかわいいものを生み出しすぎる渋谷を少し恨んだ。

結局結婚前駆け込み寺として選んだのは、家の近くからバスで通えるところで、自宅で個人レッスンをしている主婦の先生だった。深夜に、「急ぎ、5日間(連続毎日)で料理の基本を教えてほしい」というかなり無理難題をメールしたが、先生は翌日に快諾のメールを送ってくれた。
どうやら、エアコンのキッチンの隣のリビングルームのエアコンが故障して、修理するために1週間スケジュールをあけていたけれど、部品交換のための手配が間に合わないということでリスケされていて、そこに私が滑り込むことになった。
先生は40代で、元テレビ局の営業ウーマンだった。「焼ける」ってなんですかという直球質問にも先生は丁寧に答えてくれて、包丁の正しい持ち方も、生ごみが臭わないようにするコツも、キッチングリルがべたべたにならない魚の焼き方もしっかり教えてくれた。
上の理由からエアコンがなく、二人で汗だくになりながら、天ぷらを揚げたり、かと思えば、連日の慣れない作業の疲れから、ハンバーグを作るために冷え冷えのミンチをこねていたら自律神経をやられ、めまいがしたりと色々大変だったが、無事5日間完走することができた。
作った料理を2人で食べながら、仕事について、先生と話した。先生はOL時代に人間関係で悩んだとき、上司から司馬遼太郎の『燃えよ剣』を紹介されて、家でボチボチ読みながら、なんとか仕事を続けていたと話してくれた。私は退職したばかりで少し疲れていたと思う。あんまりいい感情の話はできなかったけれど、「まあ…10年続けてみたら、色々わかってもう十分だなって思うよ」と言ってくれて、なんか着地点がここでよかったなあと深い満足感に浸りながらバスに乗り込んだ。

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