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丸の内で名刺集めて回ってる人たち

「名刺交換させてくださーい!」
空を眺めながらぼんやり歩いていると、若い女性に声をかけられた。
軽快な声色に、ついうっかり足を止める。
「新人研修の一環で、丸の内で働く社会人の方と名刺交換させてもらってるんです!」

こんなことを言われて、何も知らずについ名刺を渡してしまう人、いると思う。私も危うく、渡しそうになった。これは、社内の営業部で噂になっていた、怪しい名刺交換族ではないか?と気がついたからだ。

でも、渡すと最後、次の日の10時から、迷惑電話が延々とかかってくる。しかも昨日の軽快な声色の女性は姿を消し、上司と思われる、ドスのきいた営業マンが、マンション販売の営業電話をかけてくるのである。

社内で本人に貸与されている携帯電話の着信に応じなかった場合、営業部の代表電話に転送されるため、その前の席に座っている私は、何度もそのしつこい営業電話に対応することになる。誰だよ名刺渡したの…。

このような詐欺まがいの営業電話は、4月が終わると一旦鳴りを潜めるのだが、数か月たつとまた、新手の営業電話が攻勢をかけてくる。今度は誰がやらかしたのか。

午後10時過ぎ、繁忙期でまだフロアで数十人が残業しているときに、代表電話が鳴った。誰かの携帯電話からの転送だ。近くにいた後輩が受話器を取る。途端に相手からの営業が始まる。スピーカーにしていないのに、やたらと音量がデカい。昼も夜もなく、営業電話はやたらに元気だ。

後輩は「会社の代表電話にかかってるんで」とか「転送された電話なので」とか最初はビジネス対応していたが、あまりにしつこいため、徐々に「興味ないです」とか「今仕事中なので」と言って、まるで自分にかかってきた電話のように対応し、キレていた。
しばらく問答し、「そろそろ切りなよ…」と言いかけたところで、

「だいたいあなた名前も名乗らないでなんなんですか?え?トヨタの豊田?そんなわけないでしょう?僕ですか?僕は江戸川区のK(仮)です!!」

…やってしまっている。相手の口車に乗せられて喧嘩しておまけに自分の個人情報を出している。

後ろの席にいた技術部のマネージャーは「おやおや」といい
遠くの席にいる部長は「馬鹿かあいつは」とボヤいている。


営業電話はこんな時間にかかってこないものなんです。
てかみんな残業しすぎておかしくなっている。早く帰ろう。月がきれいだ。
ただし、軽快な名刺交換ボーイ&ガールには気をつけろ。丸の内のきれいに整備された道路を縦横無尽に駆け回るパックマンが潜んでいる。

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