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思い出深い、出張の話


 どんな仕事に就くかやどんな会社に勤めるかによってまちまちではあるのだが、おおよそ出張というものは楽しい。

 出社してオフィスで長い時間を過ごして終わる日常に対して、遠方に出て宿泊をするというタスクがついてくる出張という非日常の魅力はデカい。

 特に20代~30代前半くらいであればまだ体力もあるので、移動疲れさえも楽しめる。
「出張って神」「出張しかしたくない」「俺の名前は出張」と思い、働く日はなるべく出張になるようにスケジュールを組むまである。それほどまでに楽しい。

 出張未経験の人には意外と想像がつきづらいこの楽しさだが、出張の楽しさにハマっている人も実は最初は嫌がっていたりしたもので、大体の場合が「してから気付く」のである。

 それはそうだ。社内で出張ばかりしている人の勤怠を見ると、たまに労基も真っ青な勤務時間になっていたりする(会社によるが)し、家に帰れなくて大変そうだな、としか思えない。

 ただ、してみるとわかる。わかってしまう。たとえ現地で仕事をした後にホテルでくつろげるのが深夜2時からだったとしても、出張にハマっていればなんてことない。むしろ残業代と出張手当でおつりがくる。

 家に帰れない?  否、我々は「家になど帰りとうない」なのである。

 本記事は、かつて出張の魅力にドハマりした俺が、そんな時期を大いに満喫した中で経験した、思い出深い大分県某市への出張について記したものになる。



目的地「K駅」までの移動の長さ



 詳細を明かしてしまうと会社が特定できてしまうため、以下からそれについては多少の脚色があることをご了承いただきたいのだが、当時の仕事内容は病院で使われるシステムの開発および導入だった。今から9年ほど前のことである。

 現在の業界がどうなのかはわからないが、当時はセキュリティの関係上、遠隔操作やネット経由でのシステム導入ができないのが基本で、それによって導入やアップデートの度に現地に赴くというケースが非常に多かった。

 そんな中で訪れた大分県K駅への出張は今でも忘れられない。


 当時は会社のある東京から、北は札幌、南は鹿児島まで駆け回っていたのだが、会社の規定上飛行機を利用することがほとんど適わなかったので、鉄道でのアクセスの悪い地域に行くということはそれなりに移動がしんどかった。

 大分県K駅までは、まず東京から小倉まで新幹線で行き、小倉から特急に乗るだけという非常にシンプルなものだったのだが、移動に6時間半もかかる。会社から東京駅、K駅から客先である病院までの時間を踏まえるとゆうに7時間を超えてしまう。いやマジで飛行機使わせろよ。(確か飛行機だと費用が2.5倍くらいした気がする)

 冒頭で書いた通り、たとえ長い移動時間でもそれが非日常である限りは楽しいと思えたので、途中までは楽しかった。途中までは。


特急「ソニック号」でめちゃくちゃ酔う


特急ソニック号



 東京から小倉までがまず4時間半かかるのだが、新幹線に乗っている間というのは何故か全くキツくない。たまに来る仕事の連絡を返しながら、基本ずっとラブライブのアプリで遊んでいただけだった。音ゲーだったので大人としてとても恥ずかしい4時間半を過ごしていた。


 そして小倉駅から特急のソニック号に乗るのだが、ちゃんと狙えばこの乗り換えに待ち時間が発生しないうえに、K駅に止まるタイプの列車に乗ることができる。

 生憎その日は出発の際にバタバタしていたのでそのどちらにも該当せず、ソニック号を待つ時間が発生した上に乗り換えも必要となった。待ち時間はもちろんラブライブのアプリで遊んでいた。


 座席はなんてことない在来線の特急といった感じなのだが、どうにも「揺れ」が酷く感じ、乗ってから20分程でめちゃくちゃ酔ってしまった

 トイレに向かったが利用中で、しかもゲロを吐いているような呻き声が聞こえてきたので、貰いゲロ寸前までいきつつも別の車両のトイレへ向かった。
 大人になってからただの乗り物酔いで吐いたのは後にも先にもこのソニック号だけだ。調べてみてわかったのだが、いわゆる「振り子式」の電車であるソニック号で酔う人はかなり多いそうだ。


 乗り換えるまで俺は自席で真っ青な顔をしてうなだれていた。移動という目的のために金を払っているのに、ゲロ吐くのに金を払ったような気分になっていた。

 さらに乗り換えで次の電車が来るのが30分後で、ソニック号から解放されたうえに胃の中が空っぽになって清々しい気分になっていた俺は、再びラブライブのアプリで遊んで時間を潰していた。平日なのにイベントを走れていた。


K駅に到着 次々とトラブルが発生



 K駅の周辺にはコンビニ以外マジで何もなかった。駅も無人ではないし比較的綺麗ではあったが大きくはなく、時間をつぶそうと思ったらベンチに座ってラブライブのアプリで遊ぶしかない。

 そんな状況で、現地集合の約束をしていた取引先の人間が突然「あと1時間半かかる」と抜かしてきて最悪の状態になった。

 そんなに遅れるならもっと早く言えただろカスが、と思いながら周辺を散策するなどしたのだが、延々と住宅街が広がるばかりで本当に何もなくて戦慄したので、諦めて駅前に戻ってベンチに座りラブライブのアプリをして時間を潰した。俺はここまででラブライブのアプリしかしていない。


 取引先の人間がK駅に到着し俺と合流した際、めちゃくちゃカッコいいBMWに乗って現れたことや最初の一言が「お腹空きましたね~(笑)」だったことに一抹の殺意を覚えるも、とりあえず一旦客先である病院に向かうことになった。

 10分ほどで到着し、サーバーのある場所へと向かったのだが、今度はそこにいるはずの「現地のメーカーの人間」が不在だった。オイ、殺すぞ。

 その期間中は基本的に病院に常駐している相手なので、合流直前にはメールで一報を入れたくらいで確かに返事はなかった。しかし、共有しているスケジュールにしっかりと本日の立ち合いが記されているし、前日にも連絡を取り合えていたのでこちらに落ち度はない。とにかく電話をかける。

俺「もしもし~。お世話になります~。今日って○○病院の導入準備だったと思うんですけど……」
敵「あ、すみません、今鹿児島のほうにいて~(笑)」

鹿児島にいるな。

 詳細を聞いていると、どうやら院内に導入されている別のシステムのトラブルが起きて、それが解決するまでは俺たちは何もできないらしい。

俺 た ち は 何 も で き な い ! ?

 いやまぁそういうこともあるだろうけど、なんでそれを俺たちに共有しないんだよ。県外、しかも東京から6時間半かけて来てる人間になんでそれを共有しないんだよ。「ほう・れん・そう」って知ってますかテメェ~。わかりやすいように今からテメェの額にほうれんそうのタトゥー入れてやるから毎日鏡で見やがれボケがよ~と思いつつ、とりあえず当日は何もできないことになった。

 このままだとラブライブのアプリしかせずに一日を終えることになるからヤバいな、と本格的に焦り始めた俺は、とりあえず現状起きているシステムトラブルがあとどれくらいで復旧に至るかを確かめるために、復旧作業の様子を見に行った。

 病院のシステムというと電子カルテを思い浮かべる人もいると思うのだが、パッケージ化されている電子カルテへのカスタマイズ開発だったり、その裏で動いている別のシステムだったり(俺が当時開発していたのもそういうもの)と、大体のケースで電カルメーカー以外にも様々な開発会社が病院に関わっていて、多くのシステムが運用されていることが多い。

 この時に起きていたトラブルはそういった開発会社のシステムが上手く動作しないというものだったようで、エンジニアがサーバーの前で泣きながら、ときにブチギレながら復旧作業をしていた。

俺「すみません。この復旧作業ってどれくらいかかる見込みですかね…?」

 申し訳ないなと思いながら聞いた。申し訳ないのよ。割愛するけども、こういった現地でのトラブルというものは、得てしてエンジニアの技術力不足で起きることではないので。


SE「うーん。今晩頑張れば朝までには直せそうですね…」
俺「そうですか…ありがとうございます…」


 徹夜ね、ご愁傷様です。と思いながらとりあえず名刺を交換し、進捗について連絡を取り合える状態となったので、本日はとりあえず終了として、同行していた取引先の人間(以下腹ペコ大遅刻野郎)と一緒に飯を食うことにした。


山の斜面にあるラーメン屋でつけめんを食う




 腹ペコ大遅刻野郎がどうやらラーメンが食べたかったようで、調べて見つけた美味しそうなところに行くことになった。これは俺の偏見だけど、時間にルーズな人っていっつもラーメン食ってるよな。

 BMWの助手席に乗せてもらってナビ通りに走り出したのだが、あからさまに山の方へ向かっている。山にラーメンがあるわけないだろと思いながらも、逆らってここで降ろされたらめちゃくちゃ困るので黙っていると、ありえないくらいの山道を走り始めた。絶対ラーメンねえよ、と思った次の瞬間、なんとラーメン屋は突然俺たちの目の前に現れた。山の斜面みたいなところに。

 夕方だったが車がたくさん停まっている。こんな山の斜面、秘密基地みたいな場所にあるのになんで人気なんだよと思ったが、味は確かだったのでかなり満足した。

そのとき食べたつけめんのつけ汁とチャーシュー丼



あと、1時間半も遅刻する人間がBMWに乗るな。


温泉街のホテルにチェックイン



 当時、九州でアーティストのコンサート(たしか安室奈美恵だった気がする)が行われていたため、宿泊予約がめちゃくちゃ大変だったのを覚えている。空いていないのでキャンセル待ちでページを更新しまくって、タイミング良く空いたツインの部屋をどうにか取れた。もしもダメならマジで漫画喫茶かラブホテルに泊まらねば、と思っていた。

 暗くなってきた頃にホテルにチェックインして部屋で仕事をしていると、腹ペコ大遅刻野郎から連絡が来て飲みに行くことになった。これも出張の醍醐味である。普段行かない場所に行けるだけではなく、普段接しない人間とそこで飲めるという楽しみだ。

 地元名物のとり天やカレイが食べられるちょっと良い居酒屋を野郎がセレクトしてくれて、美味しい楽しいで大満足したのだが、お互い今日は移動しかしておらず体力が有り余っているということで、二軒目に行くことになった。ちなみに俺は下戸で、お酒がほとんど飲めずすぐにべろんべろんになってしまう。

 復旧作業をしていたエンジニアから「明日の朝には間に合わないかもしれないです」と連絡が来たりもしたが、酔っていたのでこのときは「ふーん」としか思わなかった。このときは。


夜の街



 二軒目はただ酒を飲みたい奴が飲むだけのような居酒屋に流れ着き、浴びるように酒を飲む野郎と仕事の愚痴をこぼしながら酔いどれていた。
 そしてしばらくしてトイレに立ったとき、通りがかった席に何やら見覚えのある顔があった。誰だっけ……。あ、アイツだ。復旧作業してたエンジニアだ。

「明日の朝には間に合わない」ってお前、そういうことか。

 1案件のために全国各地から各社の人間が地方の現地に集まるようなとき、夜の街で偶然顔を合わせることはそれなりにあったりする。繁華街が少なく範囲も狭いからだ。

 まあ~いいんだけどね~徹夜とかしんどいしね~
 全然いいんだけどね~根詰めてたからリフレッシュしないとね~
 でもお前たちが遅れれば遅れるほど俺たちも遅れるな~アハハ~

 とりあえず声はかけずにスルーして席に戻ると、なんだかそこが賑やかになっていた。端的に言うと女の子が2人参戦していた。

野郎「地元の子たちらしいですよ~!」

コイツ、そういう羽の伸ばし方をするタイプか。

 俺がトイレに行っている間に近くの席で飲んでいた子たちに声をかけてる。全然悪いおっさんだな。

 でもそれで構ってもらえてるのってやっぱりコイツがスラっとした男前で、BMW乗ってるような奴だからなんだよな、ありがとうございます。
 あと何この女の子たち、かわいい。助かります。もうさっきのエンジニアのこと忘れたかも。

 そして、ベロンベロンに酔いながらテーブル席で4人楽しく話している最中にそれは起こる。
 隣に座っていた女の子がやたら密着してきているなと思ったも束の間。


え?

えー?!


 そのときの俺は完全にこのデンジと同じだった。というか、チェンソーマン2部を読んでいてこのシーンが来たときに当時のことを思い出してこの記事を書くに至ったのである。(最悪すぎる)

 そっか~チンチン触っちゃうか~
  これはもう結婚だな~

 普通結婚する気もないのにチンチン触ってこないでしょと思っていた(今も少し思っている)俺は、簡単にマジになってしまったのでめちゃくちゃチョロかったと思う。

 以降、俺は大分の女はすぐにチンチンを触ってくると認識している。

 紆余曲折もなくてそのあとめちゃくちゃセックスしたのだが、朝になったら女はいなくなっていた。

 先程言った通り俺は普通にマジになっていたので、ちゃんとショックを受けて1か月くらい立ち直れなかった。俺にはそういうの向いてないんだなとわかったのがこの出張の収穫である。

 以降、俺はすぐにチンチンを触ってくる女は朝になったらいなくなると認識している。(補足しておくと出張に行ったくらいでこんなえっちなイベントは普通起きません。俺も人生でこの1度きりです)

 俺は仕事のために6時間半かけて東京から大分に来たはずなのだが、ゲロを吐き、ラブライブのアプリで遊び、人を待ち、つけめんを食べ、酒を飲み、美味しいものを食べ、めちゃくちゃセックスして、泣いただけの日を送ってしまった。

翌日とその後


 清掃を断る札をドアに貼ってホテルの部屋でのんびりしていた俺のもとに、復旧作業をしていたエンジニアから連絡が来た。

「やっぱり今週いっぱいかかりそうです」

 コイツのおかげで俺は有り余る時間を有効活用して地獄巡りをすることができた。もはや観光ついでの仕事である。ああ、楽しかったな。

 ちなみに自分たちの作業は始まったら何一つ問題なくスムーズに終わったので、とにかく不意に発生した待ち時間が滞在時間の大半という出張となった。まぁそういうことも、あるよね。

  そして帰りのソニック号でも吐いた。


まとめ


 出張というものは楽しい。そこで起きる全てが非日常なので。

  あまりにも出張が多すぎる日々が何年も続くと飽き飽きしてしまうのかもしれないが、会社の命令で遠方に行かなければならないというイベントは悪くないものだよと、これから出張を経験する人たちにはそう思っておいて欲しい。

  俺はもういいや。(飽きている)

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