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また「アイデンティティがない」と歌いたい

サカナクションの山口一郎くんが休養後に一人で回ったツアー、
「懐かしい月は新しい月 "蜃気楼"」。
日曜日にあった最終公演の配信をアーカイブで観た。

関東圏でチケット確保できなかったときに地方遠征をしてライブを観るアーティストのひとつ。それがサカナクション。

noteであまりサカナの話題に触れたことがない気がするけど、メジャー1stから聴いて当時からライブで観ているのでそれなりの歴である。
ただ、古くからのファンが必ずしも常にディープなファンではないということは言っておきたい。細く長く、今は割と浅瀬でちゃぷちゃぷとやっているファンだと思う。
今は、という言葉でなんとなく察した方もいると思うけれど、そうでない時期を経ている。ドはまりするとお前は恋人か、と言われそうな勢いの気持ち悪さで追うので、その域を脱してからが長いというだけ。

ちなみにファンクラブも入り続けている。が、アーティスト問わずファンクラブはライブのチケットを確実に取るための保険として入っている節があるので、コンテンツは見たり見なかったり、やっぱり見なかったりする。

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一昨年の夏、一郎くんが休養に入るというニュースを見た時、正直全く驚かなかった。
ベッドから起き上がれない時期があったと知って、あーーそれはまさしくうつですね、と思ったし、むしろ今までその水準まで病んだことがなかったことに逆に驚いたくらいだった。

自分に対しても周囲に対しても求めるものの水準が非常に高く、妥協を許さない。採算よりも自分たちが表現したいことをきちんと満足いく形で表現することを優先する。非常に生き辛そうな人間にわたしには見えている。

もうさ、めちゃくちゃうつになりやすそうなタイプじゃん。そして何より曲とか歌詞にその陰鬱さがめちゃくちゃ出てるじゃん。そこが良いんだけど。

わからんよ、実際の彼は鋼のメンタルだったのかもしれない。あくまでわたしは自分のメガネでしか見てないからね。というか意外とつよつよメンタルなのかもな、というのはこの後に貼ってる本人含めた関係者のインタビュー動画を観て思った。

ただ、その陰をわたしが照らしてあげたい……!みたいな気持ちにさせてくる、それが山口一郎なんだよ、たぶん見れば伝わる。
その陰鬱さに反して一郎くんの笑顔ってば結構な破壊力でさ!本当に老成したおじいちゃんと5歳児の男の子の両方をひとつの肉体に同時に宿した男なんだよ……。なんだあれ。たまらん。

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メンバーのスキャンダルが表に出た後のタイミングで休養しますって発表された時も、「それはそうだろうよ」って思ったのよ。それだけ自分で背負い込んでいたんだろうとと想像ができたから。

北海道で活動していた彼らが東京に出てきた時のことを「メンバーの人生を変えてしまった」みたいなニュアンスで語るのを聞くたびに、自ら責任を背負って追い込んでいるようで、痛々しく感じていた。

他人の分まで背負わなくていいのに、と。

他人の人生を背負うことで、背負っていると思うことで自分を奮い立たせて来たのだろう。そして、コロナ禍でライブができなくなることによって、停滞して衰退していくエンタメ業界を、より強くなんとかしなくちゃって頑張ってしまったんだと思う。

メンバーの人生の責任を……と今は上京当時ほど強く思っていないと思う、思いたい(だってもう四十超えてるいい大人達ですよ!)。
でも、徐々に不調が頭をもたげてきたところにメンバー不祥事の一撃って、かなり堪えたと思うんだよな。「そんなことさせるために東京に連れてきたわけじゃない」とか、もしかしたら「東京に連れてきたばっかりに」なんて思ってしまったのかもしれない。それは心も折れる(と、勝手に想像する)。

徐々に顔出しを再開して、去年の夏頃は丸くなった顔をネットで見ながら、薬の影響で丸くなってるんだなぁ、「お前ほんとに寝てるんか」と心配になるくらい頬が痩けているあの状態の方が、健康なんだな……となんとも言えない気持ちになった。今回配信で見た彼の顔は少し痩けが戻っていて、ぷくぷくになっていたお顔についてはライブ中のMCでも自分でネタにしていた。

休養中のことは先日の千秋楽前に公式が出したこの動画でざっくりわかる。45分近くあるので結構長い。自分は夕飯の支度をしながら1.5倍速で再生した。

配信観なくてもいいかなーと思っていた時に出てきたこの動画で、「ああ……これは観なくちゃいかんな」と思った。
それはファンとしての義務感もあるし、それだけ一郎くんの復活をしっかり見せよう、見せたいと思っているんだなというのが伝わったのもある。

負の側面もクリエイティブに隠さず反映させることができるのが一郎くんの良いところ、と上の動画の中で田中監督が話しているのを聞いて、「おお、これはダウナーな曲が多そう!」とダウナーな曲が大好物な自分の食指が動いたのも大きい。

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実際のライブは弾き語りや他のメンバーがリアレンジした曲たちが披露され、「サカナクション」ではなく「山口一郎」一個人の世界を観ているような印象を受けた。普段ゴリゴリのバンドアレンジで飛び跳ね踊るような曲も、落ち着いた感じに料理されていた。とてもしっとり、じっとりとしたアレンジやライブ構成で自分の欲は大いに満たされた。

今回のライブは途中休憩をはさみ前後編の構成になっていて、後半は割とMCを挟み、笑いもあり、落ちた体力を回復させるためにやっていたという縄跳びで100回跳べたらカラオケ音源使ってアイデンティティを歌う!と宣言して実際にちゃんと100回跳んだ後に息も切れ切れ歌うのを客席からの歌声が助けたりした。
縄跳び跳んだ後に歌うのは過去にも企画でやったことがあるので気になる方は是非(下の動画)。今貼るために見返して思いっきり吹き出したのでちょっと笑いたい時にまた見よう。配信はこの動画の時よりちゃんと歌えてて、本当に体力つけたんだなあって違う意味で泣けた。

個人的にはアイデンティティは非常にやばい曲だと思っている。

「アイデンティティがない 生まれない」
って手を左右に振りながら大合唱してる光景、客観的に見るとめちゃくちゃ危険じゃないですか?

「えっ、みんなアイデンティティがないって言っちゃうの!?みんなアイデンティティがないの!?大丈夫!!?」って思いませんか。わたしは思います、思い切り「アイデンティティがない」と歌い、手を振りながら。

で、これをアリーナとかフェスだと、数万人がやってる。ひとところで。やべえ。

それでも、みんなで「アイデンティティがない」って合唱するのすごく良いのよ、何かが解放される感じがするの。頭空っぽになる系……って書くと本当にやばいやつだな。また歌いたいな、大きな会場で大きな声で歌いたい、アイデンティティ。

はぁ〜、書いてたらアイデンティティからのルーキー聴きたくなっちゃった。セットリスト違う流れだったりもするけど、アイデンティティのアウトロからつながるルーキーのイントロシンセでレーザーがふぁーって広がって鳥肌モノなんだもの、またやって欲しい。

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ライブ終盤、サカナクション完全復活の宣言とともに新宝島のカウントで両サイドからメンバー四人が出てきた時には、知っていても涙が出てきて、出先にもかかわらず嗚咽が漏れてしまった。

うつ経験者の自分だって一郎くんの辛さをすべて知ることはできない、あくまで推し量ることしかできないけど、この光景をファンに見せることを一番望んでいたのは彼だろうから。

そして普段のライブからめちゃくちゃ泣けるんだよな新宝島……なんなんだろう、歌詞はそんなストレートなこと言ってないのに、とにかく刺さるんだよなあ。たぶん周りはニコニコしながら盛り上がってる人ばっかりで、飛び跳ねながら泣いてる自分みたいなのはかなり少数、きっと。
MCで「新宝島のおじさん!」って街で子どもにに言われる話しててめちゃくちゃ笑った。新宝島のおじさん、じわじわくる。

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結果めちゃくちゃ観てよかった。アーカイブは日曜日まで観られるので、あと二日、擦り切れるまで観ようと思う(配信は擦り切れない)

それにしてもいきなりアリーナツアー発表で、アクセルベタ踏み大丈夫かなという心配はしている。うつ明けって「もう大丈夫!全然行ける!!」みたいな気持ちになって全力出しがちなんだけど、揺り戻しもすごいから、本当に気をつけてもらいたいよなあ。あとは密かに動員も心配してる。埋まるのかな……。幕張メッセ、行きたいなあ。

【今日のサムネ】
娘の妊娠中に遠征した仙台公演。まだ妊娠初期だったからスタンディングでも大丈夫だったんだよな、つわりも眠気メインで吐くこともなかったし。娘はお腹の中にいた頃からライブに連れ回してたせいで爆音が苦手なのかしら(絶対違う)

ちなみにサカナクションの幕張でのライブBlu-ray Discを分娩室で流しながら出産するというバースプランを立て実行し、娘はアイデンティティからのルーキーってタイミングで生まれている。
タイトルの由来である「こんなルーキーが出てきたら嫌だ」って周囲に思われるルーキーになって欲しいわという理由でサカナのBD流そうと決めたので、ほぼドンピシャで生まれてきて感動したという自分にしかわからない余談。

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