青梅 奥多摩 さんぽ
年に何回か、無性においしい餃子が食べたくなる。雑誌で餃子特集があれば穴が開くほど読み、道の途中にぎょうざの満州があればお腹が空いていなくてもえいやと飛び込む。
それと同じような感じで自然の綺麗な空気を吸いたくなることがある。でも会社帰りにスーパーでも買える餃子とは異なり、空気は買えない。日々通勤電車に揺られながら山や森で深呼吸することを妄想しているうちに、少しずつ欲求が膨らんでいく。『山の空気、、、山の空気、、、』と恋焦がれて行くうちにその力は強力になり、光でさえ飲み込んでしまうブラックホールの強烈な引力に引っ張られるように、自然を求める気持ちが加速度を上げてぐんぐん高まっていくのだ。
そのエントロピーが最大まで高まると、いよいよ我慢ができなくなり家族に「今度の週末は軽井沢にいこうよ」「高尾山でもいいよ」「奥多摩でも山梨でも栃木でも群馬でもいいかな」「もう森があればぶっちゃけどこでもいいよ」と言い続けてパパちょっとうるさいんだけどと言われることになる。
これまでは一緒に行くと即答していた子どもたちが最近は「えー僕は渋谷の方がいい。パパ一人で行って来なよ」と言うことが増えて来た。なんだそれすっかりシティボーイか。君たちもいよいよ親離れかおめでとう。と思いつつ無理やり連れて行くものではないので「はいわかりました、ひとりで行ってこよっかな」宣言を発令している。
一人で出掛けて、一人で電車に乗り、一人でご飯を食べる。感動を共感できる人がいないというのはこんなに寂しいのかと思うが、その一方で急に予定を変更したりできるのは気楽でいい。綺麗な景色や美味しい料理の写真をLINEで送るのも、案外楽しい。
そんな感じでこの前も一人で出掛けて来た。目的地は『とりあえず奥多摩までいけば自然溢れる空気が吸えるだろう。青梅線の終点だし』というなんとも安易な理由で奥多摩駅に決定。その後のことは現地に着いてから考えることにした。
青梅特快に乗れば青梅駅で一回乗り換えるだけで奥多摩に行ける。簡単だが注意点が一つだけある。青梅駅は改札の外にしかトイレが無いのだ(正確には改札内に多機能トイレがひとつある)。長時間乗車してトイレに行きたかったので、やむなく青梅駅で一度降りて駅前のトイレに行った。
どうせ駅を降りたのでせっかくだから青梅で少し早めの昼食を食べることにした。
Google mapで探したら近くに手作りのハンバーガー屋を発見。古民家を改装しているようで店舗が素敵だし、手作りのハンバーガーも美味しそう。
目の前の台所でジュージューいい音を立てて焼かれたパテ2枚は肉汁溢れて香ばしい。冷凍ではなく生のじゃがいもを使ったポテトはほくほく。自家製ピクルスも野菜が大きくてさっぱり爽やか。おいしい食事が目の前にあるという幸せ。
お腹が満たされたので改めて奥多摩駅を目指す。青梅駅から奥多摩駅の間は「東京アドベンチャーライン」という名称が付いていて、シートの柄がキュート。富士急行の車両を思い出す。子どもたちにも見せてあげたいと思い、写真を撮って送る。
暫く静かに水の流れを見ていたらこの時期なのに大きめの蚊が飛んできたので逃げた。季節外れの蚊と遭遇するのは恐ろしい。
川から離れた後は、地図を見ずに道に沿って気が赴くままに歩いた。途中で、さっき青梅駅で買っておいたメロンパンを取り出して歩きながら食べていたら、目の前をさっと横切る茶色い影。。。猿だ。
一瞬だったがおそらく大人の大きさ。あの猿に襲われたらメロンパンを奪われてしまうだろう。既にこのメロンパンに目をつけて茂みの中から狙っているかもしれない。いきなり飛びかかってくるかもしれない。そういう光景をテレビで見たことがある。。。こういう時に限ってたくましくフル回転する想像力により最悪のシーンが次々に脳裏に浮かんでくる。道を歩いている人は自分以外に誰もいないし、途端に怖くなり、食べかけのメロンパンをすぐにポケットにしまった。それから暫くは周囲360度に気を配り、猿に襲われたら素手で戦うよりは木の枝があった方がいいだろうか、大声を上げた方がいいのだろうかなどと考えながら注意深く歩いた。
結局何事もなく平和に時間は流れていき、さっき見たのはグレムリンか何かの幻だったのかもしれないと思うようになり、気を張り詰めて歩いていた疲れが出てきたので、google mapで調べた近くのカフェに行くことにした。途中で野良猫に会った。野良猫の縄張りに入ったということは、この辺りはきっと安全だろう。
カレーの写真を妻に送ったら渋谷のオシャレなカフェでお茶している子どもたちの写真が送られて来た。
家に帰り、今日は大きい蚊に追いかけられたりグレムリンの幻に悩まされたよと話したら、なにそれ絶対無理一生そんなところ行きたく無いと妻は言っていたけど子どもたちは目を輝かせて何それ行ってみたい!と楽しそうに話を聞いてくれた。今度は子どもたちも一緒に連れて行こう。
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