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映画感想文「風よ あらしよ 劇場版」吉高由里子の好演光る。大正時代の革命家伊藤野枝の半生を描く

吉高由里子は泥臭い役がよく似合う。

もちろん、とても美しい。しかしお人形さんのような美しさではない。粗野で枠にはまらない、生命力に溢れた美しさが彼女の持ち味だ。洗練とは真逆である。

しかも和装がとてもはまる。

そういう意味ではこの役は彼女にぴったりだ。その魅力を最大限に発揮できる作品である。

伊藤野枝。子供の頃、社会科の教科書にも出てきた。

社会主義者だった大杉栄と共に関東大震災直後の東京で憲兵に捕まり拷問の末、殺害された。今では考えられない。国家が個人の思想にまで口を出し統制する社会である。子供心にこの理不尽な事件のことは記憶に残っている。

その伊藤野枝を吉高由里子が演じる。

福岡県の海沿いの小さな村に生まれ、貧しい暮らしの中で親戚の助けで女学校へ通う。しかし卒業後すぐに17歳で親の決めた許嫁と結婚。古い慣習や良妻賢母を強いる周囲から逃れ、単身東京へ。

女学生時代の恩師辻潤(稲垣吾郎)の元へ出奔。教師であった彼の教えで本を読み世界を学び、子を成す。

しかし幸せな生活は続かず。行動しない知識人であった辻に愛想を尽かし、今度は大杉栄(永山瑛太)の元へ。そこでも4人の子をなし、誰しも自由に生きることのできる社会を目指す同志として精力的に活動を続ける。

貞操が問われる当時、彼女の功績よりも私生活が面白おかしく取り上げられ、売女と罵られ、世間からバッシングされたことは想像に難くない。

いまから100年前の大正時代。女性には人権はなかった。儒教の教えである三従『家にあっては父に従い、嫁しては夫に従い、夫亡き後は子に従う』が当たり前であった。

そんな時代に、平塚雷鳥から雑誌「青鞜」を引き継ぎ、女中や女工、女郎の労働条件改善を訴え続けた。

彼女が素晴らしいのは女性だけではなく足尾鉱山事件など、全ての人の人権に目が向けられていたことである。そして最終的には共に助け合う共助の世界を夢見ていたことだ。

それなら夢の実現の為に、もっとうまく世の中と折り合いをつけることは出来なかったのか。しかし残念ながら、その不器用さこそが革命家である証なのだと思う。

NHKのBS番組だったテレビドラマを編集して劇場版にした作品。

吉高由里子がはまり役なのはもちろん、平塚雷鳥を演じた松下奈緒が案外良かった。美しく品のある女優さんであるが、いままではあまり記憶にない。しかし本作は、裕福で家柄の良い家に生まれ、親に出してもらった金で青鞜を立ち上げたという育ちの良さが、彼女のもつ上品さにはまり、とても良かった。正に洗練を演じていた。

好対照な2人である。しかし平塚雷鳥の「元始、女性は太陽であった」に薫陶を受け伊藤野枝は目覚めた。それぞれの役割を全うし、今があるということか。

男性陣も良かった。特に大杉栄を演じた永山瑛太。本当に多くの映画でよく見かける。器用な俳優さんである。理想に生きる、しかしダメなところもある愛すべき男を説得力持ち演じていた。

こじんまりまとまってる感はあるが演者達の好演により、見応えある作品であった。

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