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映画感想文「エゴイスト」愛は身勝手、普遍性をもつ物語になってる仕上がりに唸る

もう、いいよ。頑張れないんだ。

ある日、父が呟いた。30年前のことだ。

札束を忍ばせたお菓子を執刀医に贈った。怪しい健康食品をいくつも買い漁った。祈祷師を訪ね遠方まで何度も出向いた。

負けることが許せなかった。そして、後悔したくなかった。 全て自分が主語の独りよがりだった。

そんな私はエゴイストだ。

だからこの映画で描かれる不器用な愛の形が、どれも、ひりつくように痛かった。

房総の片田舎でゲイであることを隠し育った浩輔(鈴木亮平)は、故郷を捨てファッション誌の編集者として東京で自由気儘に働いていた。

友人の紹介で病身の母を支えるため高校中退し身を粉にして働くスポーツトレーナーの龍太(宮沢氷魚)と出会う。 14歳で母を亡くした経験を持つ浩輔。 同じ痛みを知る二人はひかれあい、愛を育んでいく。

鈴木亮平と宮沢氷魚が出色の出来。

ちょっとした目線、ため息、声の震えで、感情の機微を雄弁に魅せる。 また、龍太の母を演じる阿川佐和子が女の脆さと強かさを全身で体現し、強い印象を残す。

主人公の二人はもちろん、母と息子、夫と妻、登場人物達それぞれの自分なりの愛し方が胸に迫る。

そして、LGBTQ+インクルーシヴ・ディレクターという役割を導入、正確にゲイを描こうとした結果、普遍性を持つ物語に仕上がっているという妙に唸る。

2年前に亡くなった高山真氏の自叙伝である原作もおすすめ。

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