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映画感想文「すべての夜を思いだす」思い出はなぜか一様に甘酸っぱい。多摩ニュータウンに住む3人の1日

昔に住んでた街を、思いがけず通りがかる。

仕事で失敗して凹んで歩いた帰り道、誰かを待ってたバス停、何度も励まされた名前も知らないコンビニの店員さんの笑顔。

走馬灯のように脳裏を過ぎていく景色。どうしてだろう。思い出は一様に甘酸っぱい。

こんな風に、街にはいろんな人達の記憶が残ってる。

そんなことをしみじみ感じた映画。

昭和40年代に大規模開発が行われた多摩ニュータウン。若い世代が入居し、子供達で賑わっていた街。いまは高齢化で静かな時を迎えている。

そんな街に住む、世代も異なる女性3人のある1日の物語。

今日が誕生日のちず(兵藤公美)。いつものようにハローワークに立ち寄った後、てくてくと徒歩でニュータウンの向こうに住む友人を訪ねる。

ガス検針員の早苗(大場みなみ)。仕事中に顔見知りの老婆との立ち話で、朝から行方不明の老人がいることを聞き、その身を案じる。

大学生の夏(見上愛)。友人の命日に亡き彼を偲び、彼が撮影したフィルムを携え、その家族を訪ねる。

今日という日は誰かの誕生日であり、亡くなった日でもある。彼女達はめいめいに、この街にいる(いた)誰かのことを思い1日を過ごしてる。

街を歩き、自転車で駆け抜け、時には立ち止まって踊ってみたり、花火をしたりする。

街の中ですれ違うが決して言葉を交わすことはない。知り合うこともない彼女達のゆらめく感情が街のあちこちに染み付いていく。

この街が出来てから50年。いや、もっとずっと前、太古の昔から。この街で過ごした人々の記憶が積み重なり街は成り立っている。

それがよくわかる。地味ながら思いを馳せる、味わい深い作品である。

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