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映画感想文「関心領域」アカデミー賞音響賞も納得の独特の音声に震撼する

終始不穏さが漂う映画。

これほど、背景に流れる音に過敏になったのは初めてだ。

住み心地良さそうなプール付きの家。家庭菜園もある、よく手入れされた庭。そこでバーベキューをして楽しむ一家。

幸せそうな家族の団欒の風景だ。

しかしその合間に微かに漏れ聞こえる、誰かの叫び声、銃声、うめき声、罵声。

光景と音の不一致さが甚だしく、頭が混乱する。

アウシュヴィッツ強制収容所の所長であった、ルドルフ・ヘス。彼は強制収容所の近くに社宅を構え、妻と5人の子供達、犬と暮らしていた。

子供たちと戯れ、飼っている馬や犬を可愛がる彼は、良き父親であり家庭人に見える。

夏になると、子供たちは近くの川で水遊びをする。そこは時々真っ黒な灰が流されてくる恐ろしい場所であるにも関わらず。

すぐ近くで行われてる蛮行をスルーし幸せに生活する家族。当時そこで何が行われていたか知っている我々は、それを観て怒りを禁じ得ない。

だが段々と思い当たる。

そして、更に震撼する。

今も世界のどこかで起こっている戦争。貧困で餓死していくどこかの国の子供たち。すぐ近所で行われている、虐待や暴力。などなど。

見えているはずなのに見ていないものが、自分の中にも沢山あることに。

そこに気付く瞬間が、最も恐ろしい。

現代にも存在する、不都合な真実。それを微かな音で示しきった本作。こんな作品は初めてだ。

「落下の解剖学」主演で名をあげたドイツ人女優ザンドラ・ヒュラーが本作にも登場。ヘスの妻を演じている。

幸福な妻であり母。夫と子供を愛し、家族の幸せに心を配る。そしてアウシュヴィッツのすぐそばに自らの理想の城を築き、ここにずっと住みたいと願う。

その一方で時々ヒステリックに叫び、使用人を怒鳴りつける。そんな闇を感じさせる怪演ぶりで、本作における演技も素晴らしい。

それでも、この映画のメインは音響である。

よって昨晩、アカデミー賞2024年の音響賞を受賞したというニュースを見て非常に納得した次第である。

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