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映画感想文「サマーフィルムにのって」荒削りながらエネルギー溢れる映画。今後活躍しそうな若手俳優の宝庫

20代の営業職時代、新規のお客様に広告出稿の提案をした。我ながらよい提案だと思ったけど、あっさりと断られた。理由を聞くと、担当者は言った。

『別の人にお願いする。君のほうがよい提案だった。でも彼の方がうちの会社のことを考えていると感じた』

知らない間に同じ会社の別の営業担当がアプローチしていた。選ばれたのは彼だった。(当時はこのような無意味な社内バッティングがあった。既に改善されているので、その是非はここでは置いておく)

すぐに人の良さそうな彼の顔が浮かんだ。よく知らない私から見ても彼は誠実そうだったし、きっとお客様に寄り添う提案をしたんだろうと思った。胸が苦しくなった。私にはそこが足りなかった。

こういう粗削りな映画にノックアウトされた時、温かい感動とともに、いつもその記憶が甦る。当たり前だが、人の気持ちを動かすのはテクニックやセオリーではない。

伏線回収されてなかったり話の展開が急すぎたり、そんな綻びがあっても、それを凌駕する、ひたむきで人の心を打つエネルギーがこの映画にはある。だから読後感は最高に爽やかだ。

一見あり得なそうで、しかも地味なテーマだ。勝新太郎に憧れる時代劇オタクの女子高生ハダシ(元「乃木坂46」の伊藤万理華好演)が自らの映画の武士役にぴったりの青年(金子大地)に出会い、彼を主人公に時代劇を作ろうと周囲の友人たち(河合優実、祷キララと、若手女優たちがいずれも好演)を巻き込み奔走する姿を描く青春もの。

申し訳ないことに出演者を誰一人知らなかった。でも、演じることを始めたばかりの彼らの熱狂みたいなものをスクリーンを通じて受け取った。脇役も含め、みんなキラキラ輝いてた。きっとよい撮影だったんだろうと勝手に思いを馳せる。そして「映画」とはなんなのか問う後半には映画好きとして胸が熱くなった。

いまや引っ張りだこの河合優実を発見したのはこの映画だった。ツッコミどころは満載なれど。この熱狂、映画好きには特におすすめ。

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