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映画感想文「ファースト・カウ」はぐれ者同士が力を合わせ成功を目指す、その尊さよ

不思議な映画だ。

淡々と物語は進むが、妙に心に残る。

1800年代、西部開拓時代の米国。

一攫千金を夢見て未開の地オレゴンにやってきた男達。大抵は荒くれ者の力自慢たちだった。

その中で、腕っぷしも強くなく優しい料理人クッキー(ジョン・マガロ)、仲間に入れてもらえない中国移民のキング・ルー(オリオン・リー)。

はぐれもの同士、やがて支え合うようになる。そして貧しい暮らしから抜け出すため、村に一匹しかいない牛の乳を盗み、ドーナツを作って売ることを思いつく。

ろくな食べ物もない土地で、クッキーの作る美味しいドーナツは飛ぶように売れた。もちろん何で作っているのかは秘密だ。

牛の飼い主は村一番の金持ちの仲買人。富の象徴である牛の乳を盗むことは危険な行為であった。というスリリングな状況。2人はどうやって切り抜けていくのか。というストーリー。

問わず語りに語られる2人の生い立ちが悲しすぎて、胸が痛んだ。

ひとりで必死に生きてきた者たちが出会い、力を合わせ成功していく。彼らの人生の中でそれがどんなに嬉しい出来事であったかをしみじみと思う。

厳しい環境で生き抜かねばならなかった当時の西部には、こんな2人がごまんといただろう。

人が誰かと出会い、共に何かを成し遂げていく。それは友情というよりもっと濃い関係である。その尊さに胸が熱くなった。

冒頭からラストシーンを予想させるような演出が新鮮。最後に伏線回収するのも見事である。

米国で高い評価を得ているが、日本では公開の機会がなかったという、ケリー・ライカート監督の2019年作品。心に沁みる良作であった。


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