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映画感想文「ロスト・イン・トランスレーション」通じ合えないを描く名作。東京の街がキッチュだ

20年前にも映画館で観た。

その時は、オシャレだけど気怠い映画だなという感想だった。

でも、今は沁みる。

いいのか悪いのか、分からないけど。

眠れない夜に世界に自分だけな感じとか、異国でひとり歩く街角で感じる浮遊感とか、隣に人がいるのに通じ合えない空虚とか。

わかりすぎて胸がチクチクするくらい。なんだか自分の変化が笑える。

ソフィア・コッポラが脚本&監督の2003年の映画。アカデミー賞脚本賞受賞の当時の話題作。久しぶりにスクリーンで観た。

CM撮影のため来日した落ち目のハリウッドスター、ボブ(ビル・マーレイ)。妻とは倦怠期だし、仕事も今ひとつ情熱を持てない。まさにミッドライフクライシスの中年期を過ごしている。

彼が東京のホテルで出会ったシャーロット(スカーレット・ヨハンソン)。学生結婚したカメラマンの夫と来日。仕事で忙しく駆け回る夫に比べ、やりたいことも見つからず、悶々としている。これまた青年期の不安定な心を持て余してる。

成田空港からタクシーで東京に向かうボブの目には窓の外の渋谷のネオンは曖昧な色の集合体に見える。

撮影中にはクライアントの出す指示が通訳を介し微妙なニュアンスが抜け落ちてしまうことで膜が張られてるようなもどかしさを感じる。

そんな「ああ、わかる」な、ちょっとした感情の機微が描かれてる砂糖菓子のような作品だ。

長年一緒にいても通じ合えないこともある。一方で、出会ったばかりで分かり合えることもある。人と人って、だから不思議だ。

ラストシーンがめちゃくちゃ好き。こんな風に抱きしめてくれる誰かがいるだけで人は生きていける。

相手の気持ちを分かりあうということの尊さに、キュンとした。

Bunkamuraル・シネマ渋谷宮下で上映。もともと大好きな居心地いい映画館。特に最近の過去のヒット作リバイバル上映は作品選びもセンス良くて好き。

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