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映画感想文「由宇子の天秤」折り合わなかったそれぞれの正しさを考える。語りあいたい映画

父が余命三ヶ月を宣告された。30年前のことだ。治療のため開腹手術をしたが、手のほどこしようがなく、そのまま閉じた。麻酔で眠っている間に家族が宣告を受けた。

「ご本人に伝えるかどうかはお任せします」

そう語る医師を前に、家族で意見が別れた。何が正しいのか誰にもわからなかった。

結局、手術の翌日、私が伝えた。

その時、父は病院の廊下にいた。「手術したから早く元気にならなきゃ」と、手すりにつかまりながら歩く練習をしていた。

伝えた後「一人にしてくれ」と言い、父は引きこもった。家族には「そんな残酷なことがどうしてできるんだ」と後で詰られた。

正しかったのかわからない。

だけど、もう一度同じ人生を生きたとしても、同じ選択をするだろう。

この映画で、過去に折り合わなかったそれぞれの正しさを思い起こした。

いじめによる女子高生自殺事件を追うドキュメンタリーディレクターの由宇子(瀧内公美)は、真実をねじ曲げ、分かりやすい構図に押し込めようとするテレビ局と戦い、持ち前の正義感を武器に事件の真相を追っていた。

そんな時、学習塾を経営する父がある事件を起こし、個人としての彼女は、それまで職業人として自分が持っていた正義と対峙することになる。

彼女が追う事件、彼女の身に起こる事件、いずれも関係者達は自分の正しさを語る。聞けば聞くほど真偽の境界線が曖昧になってゆく中、由宇子は何を選択するのか。

いやあ、こういう人いるよね。なんなら私もこんな感じかも、と思うリアルさ。悪い人ではない。そして一生懸命生きてる。それでも、由宇子が微妙に嫌なやつで「あー、あるある」と思う。

更に、サブ主人公とも言える学習塾の生徒萌(河合優実)が、白黒どちらとも判断できかねる曖昧さを残す、素晴らしい演技(余談だが、先日観た「サマーフィルムにのって」でも好演)。

更にその父(梅田誠弘)のいい人だけどダメな具合が絶妙で、ため息がでる。貧しいって、正にこういうことだ。

これが監督2作目の春本雄二郎監督のインディーズ映画。

自分なら何を選ぶか。そして隣のあの人は何を選ぶのか。突きつけられる。

ひとりでも多くの人に観て欲しい。そしてあなたの選択はなにか、語り合いたい。

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