美代子の猫

ジジという猫を飼っていた

ジジはクロネコじゃないし

私の名前はキキじゃない

私は魔女でもないし

少女でもない

ほうきで空を飛ばないし

パン屋に居候もしやしない

それでも猫の名前はジジ

喋らない猫だけど

名前はジジ

段ボールにそう書いてあったのだから仕方ない

こちらキキじゃない美代子は

ただ毎日息を吸って吐いている

今日は誰かと話をしたろうか

水を飲もうとして

乾いた唇が張り付いてた事に気づいた

口を開けたのは今日初めてだ

そうしてコップに口づけをして

水道水と言う名がついた恋人の愛を受け入れる

トンボが現れるのもとうに諦めた

でも

ただ

自分を見つけて笑い飛ばしてくれる

絵描きさんに

ただ自分を見つけて欲しいと

どこかでそっと思っている

この呼吸しか出来ない自分を

ジジという猫を飼っていた

ある朝泣きじゃくった女の子が玄関先に立って

それは自分の猫だといった

猫は居ずまいが悪そうにトボトボと女の子に向かって歩いて行った

あの子の名前はきっとキキと言うのだろう

私の名前は美代子

魔女でも無ければ

少女でもない

ただの

美代子

カラッカラの乾いたキャンバスを前に

今日も行く場所もなく

恋人だけを身体に満たす

私の名は美代子

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