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あたおか散文

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流れ落ちるままに生み落とした「あたおか」な散文たち
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#散文

微笑みの亀裂

白い雲

黒い海

外れたカケラを左右に分けて

無心に前後に動かせば

ワルツのリズムで回ります

闇堕ちまでの交響曲

ずらした隙間から見える鼠の演舞

鞄の隅に魔界の木屑

としこさん、お呼びですよ

徒然の光線

なにみて笑う
#あたおか散文

琥珀色の血痕

煮込んで

煮染めて

煮凝って

あなたによく似た人間を探す

私を揺らして鍋底へ

叩き落として下さるような

君によく似た人間を探す

額から流れる血の温もりで

生命のありかを確かにしてくれる

貴殿によく似た人間を探す

煮えくり返って

煮返して

煮詰めた奥に

飴色の瞳
#あたおか散文

半陰陽の住処

あなたのその空っぽの声嫌いじゃありません

彼女はそう言うと黒い長手袋の中から一粒の砂金を取り出した

僕が手を差し伸べると砂金は一匹の蛙になって僕の胸に飛びつき食らいついた

むちりむちりと蛙は確実に心の臓を食い破っていくのに蛙の唇は冷ややかで柔らかく愉悦的だった
#あたおか散文

我彼方の声を聴くもの也

その海兵隊の服を着た少女は言った

父を失い、母を失ったとて時は止まらない

しかし、友を失った時

ひとつの歯車が止まる

昨日私は友をなくした

これから後私は時代の先へ進む事が出来ない

服、言葉、見える景色、人、そのような物が全てこの時代に幽閉されてしまうのだ
#あたおか散文

掻き消えた揺るぎない覚悟を早春の空に投げる

信じるものは救われる

信じているのはなんですか?

世界を疑って

何信じるのですか?

ことばことばことば

織りなすむつみごとに捉えられてパンを踏んだあなたの足が復活の鐘と共に踊り出す

疑っているのはなんですか?

僕らは随分と裏切られすぎたんだ

声も遠くに蝋梅の散る
#あたおか散文

茶箪笥の奥に貼られていた、いわく付きの終わり方

チリチリばらばら尖って光る

刺さって流れて元の鞘

ワインの澱に私もなりたい

父の仁丹

母の印鑑

いつでもあって

どこにも無い

ピースのパースが狂ったら

御心のままに始まりの合図
#あたおか散文

鍵を無くしたねじ巻きの宣誓

私があなたを忘れてる時でさえ

私はあなたを愛してる

そんな錘をつけた柱時計が刻む今日を

そこはかとなく生きている
#あたおか散文

-110度の分離

神様は残酷だ

私の運命に悪戯を仕掛けてくる癖に

全て私が選んだように思わせる

僕はチャンスをあげたよ?選んだのは君だ、それは君が引き起こした事だ、それが君の答えなんだ、結局のところ、簡単に言えば、ね

そう言って凍るほど冷たい空の中に放り出す

あんたなんか大嫌い
#あたおか散文

ゲンワクノネタミタリカレオバナ

ツイタリキエタリ

キツネノヒ

マテドクラセド

ノビノヒノ

チカクハナラズ

オトバカリ

サガセドモ

サガセドモ

アオイヒ

アオイヒ

ツメタイヒ

アレハ

ヒバリ

イイエ

アレハ

ナイチンゲール

アケノカラスノ

モダエルコエヨ
#あたおか散文

組紐撚って捩れて惚れて

貴方のために編みました

綺麗でしょ?

赤と青とそれから桃色

視神経を繋ぐのは少し難しかったけれど

猫の毛で紡いだ貴方と私の未来

情熱と恐怖をリボン結びにすれば

ほら

すぐに召し上がれます

さぁどうぞ

ちょうど背丈ほどの好奇心があれば

冥府のウサギが給仕にあがります
#あたおか散文

炭焼き小屋の煤払い

私恋人がいるんです

ぶら下がっていたランプが呟いた

明滅しながらそれでもはっきりと

本当ですいたんです

震えながらそれでもはっきりと

きっと、逢いに来ます

周囲に熱を放ちながら

私がここを照らす限り…

外から一陣の風が吹き込んだ

一瞬強く光を放って

ランプは消えた
#あたおか散文

色、イロ、彩、艶

盲目の夫人の髪で踊る碧玉

聾紳士の杖が奏でる高らかなしらべ

閉じられた瞼の美しさ

よく磨かれた靴が放つリズム

紡がれない言葉は緻密な静寂と黙考を織りなし

凹凸のある肌は指先に彩りと言う快楽を与える

それら放たれる光に名前をつけるのはあまりに無粋だとカササギは言った
#あたおか散文