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あたおか散文

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流れ落ちるままに生み落とした「あたおか」な散文たち
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2021年8月の記事一覧

紫の室に凍らせて送る夏の献上

あなたの全て

あなたの目は私だけを見て

あなたの耳は私だけを聴いて

あなたの言葉は私だけに紡がれ

あなたの手は私だけに触れ

あなたの足は私だけに向けて歩み

尖った鼻は私だけを香り

滑らかな舌は私だけを味わう

息が詰まるほどに

煮詰めた時間の結晶を

銀の器で飲み干す
#あたおか散文

喃語

ちーこちゃんがおぼえた

たったひとつのことば

おはよう

ちーこちゃんおはよう

リズムやスピードをかえて

なんどもくりかえす

おはよう

おやすみといたわりのないまちで

ちーこちゃんは

きょうもくりかえす

おはよう
#あたおか散文

始祖

私を分解

分解

破壊

溶解

させると

いつか

粒になると誰かが言った

光の粒

音の粒

時間の粒

描けないほどの



芽を出さない花の種

痛みが隠れるほどの針の先

忘れて良いよ

思い出してくれれば

思い出せなくて良いよ

また点から始めよう

何もなくても  

大丈夫
#あたおか散文

不夜城にさらわれた足音

寝ずの番なら

ジンを3杯

自分を監視して閉じ込める

我思うゆえに我あり

我を想い続けて片想い

那由多の時を泳いでは

辿り着けない愛の島

はぁ安っぽい口説き文句

土の味を知らないつま先に

口付けて闇に溶ける

酔い覚まし

目覚めてはまた

ぐるりと揺れる

胡蝶の夢
#あたおか散文

あしと、いしと、うしと、えしと

ええ、そうなの

ですから

いえ、そうではないの

ですから

海と山の間にある

そう其の事で

男と女の間にある

あの事で

全てのためにあり

何もない

そのことを

断じて口にしてはならず

そしてまた

論じなければならないのです

人の姿をした牛の

牛の姿をした人の


#あたおか散文

アニバーサリーナイト

私あなたに出会えてよかった

世界の忌避と嫌悪を一手に抱えて

素敵な花束になりました

侮蔑と憎悪を一手に抱えて

素敵なシャンパンになりました

嫉妬と復讐を一手に抱えて

素敵なディナーになりました

私あなたに出会えてよかった

こんな夜を求めていた

傷口を分け合える夜を
#あたおか散文

その日、あの日、ひだる神の行方

3年目ですよ

何が

影を見失ってから

そうか、存外あっという間ですね

ええ、悠久の時を経たように

風見鶏が時を作ったのを思い出します

思い出すほどの昔

赤面するほどの今

乗り換えあってた?

目医者が言うならそうでしょう

空腹の砦に囚われて

出会えないまま遡る未来
#あたおか散文

ニュートンのゆりかご

ならずものの神聖な祈り

聖者の刃

どちらが私を救ってくれますか

掬って濾して

残ったのは誰

ブナ林の静寂と

歓楽街の嬌声と

どちらがあなたを救ってくれますか

掬って飲んだら

透き通る身体

私とあなたの座標

東に何歩、西に何歩で会えますか

リフレインする螺旋階段
#あたおか散文

儲かる桶屋の皮算用

高尚な哲学を

蛮衆に払い下げ

愚民を愚弄するな

有り難がって拭きあげろ

その舌から溢れる物が

流れを忘れて滞って凍る

次の春まで思い起こされもしない

茶色く錆びたコーラの缶

あってもなくても変わらない

風が吹いたら崩れて目病みを起こす

さようなら

5文字の欠落
#あたおか散文

鳴くはずの蛙は既に土の下、私はどこに帰らりょか

磯の香り

枕元の水さしに泳ぐ深海魚

母ちゃんの煮た甘い里芋

擦り切れた着物の端

泣いてばかりで大きくならない妹の足

足の小指がなくなる頃には

鎮守の森も歌で賑わう

神様が連れてきた小童

小首を傾げて宙返り

曇天の春もまた巡る
#あたおか散文

西方の国に生成色の雪を降らせるまで

糸まきまき、糸まきまき

緑の糸を手繰って食って

したり顔で滴った血の祝福をかっくらう

軟体動物を油であげて

下手な言い訳をギンガムチェックに浸す

ねぇ、起きて、今日は雨だよ

良い雨が降ってて

悪い太陽がいない

下世話な仕事を片付けよう

神様がウインクしてるうちに
#あたおか散文

ペンキを飲み干してみれば忘れた日、いつか川崎で聴いた野良犬の声が響く

剃刀の歯の裏表

自己憐憫を夕陽に託す

さようならば

声もかすんで

伽羅の香り

くるり反転

緑が赤に

黄色が鳥に

寝ずの番人モザイクになる

破れたアクリル絵の具

どろりと滴って世界を潰す

拾いあげたのは産声

むっちりと甘く重い

ミルクを含んで

高台の耳鳴り

飛行機雲
#あたおか散文

オウム返しに版木で繰り返す

それはホログラム

それはAI

それはbot

それは架空の産物

この世のものではない 

定型分の世界の安堵

大丈夫

この線から先は幻想の世界

大丈夫  

何もないなら失ってない

誰も傷つかない

それが全てなら

指先のダンスが生む

ただの夢
#あたおか散文

血点の描く後ろの正面

乱雑に

ばら撒かれた

血痕の

一つ一つに花束を

愛づ、愛づ

見えない傷に

ラブコメディー

鎖骨の桜桃

あぁ、なんてくだらない

寝不足のサーモンパスタ

青空に脱ぎ散らかした制服の

ポケットから砕けたビスケット

君と分けるはずだった

想いはカビて啜り泣く
#あたおか散文