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留まるために走り続ける

「いいかい。ここでは力の限り走らなきゃいかんのだよ、同じ場所に留まるためにはね。もし他のところへ行きたいのなら、その2倍の速さで走らなくてはならんのだ」
(It takes all the running you can do, to keep in the same place.)
ルイス・キャロル作「鏡の国のアリス」より

これは進化に関する仮説のひとつで、サービス思考関係のセミナーなどでちょいちょい耳にする「赤の女王仮説」と呼ばれるものですが、DXという言葉が浸透するにつれて、この言葉がどんどん重要になっているなあと思う出来事がありました。

危機関連保証オンライン化プロジェクト

昨年の4月頃から私も支援させていただきつつ横浜市経済局金融課で進めていたプロジェクトは、その成果の凄まじさから様々な媒体に取り上げられ、私も講演などでお話をさせていただく機会をいただくなど、多くの皆様に共感を持って受け止めていただきました。

改善サイクルは続く

実はこの案件はこれで終わりではありませんでした。
事業者による危機関連保証認定申請のオンライン化を進めている間にはじまった金融機関による取りまとめ代行のオンライン化、同じような手続きである「セーフティネット保証4号認定」への対応などが矢継ぎ早に行われた他、昨年の12月からは認定証の写しをオンライン交付することによる完全ノンストップ化を実現しています。

それに合わせて次年度の窓口の在り方も検討するなど、付随する業務のすべてにメスを入れ続けています。

プロジェクトは、まず危機関連保証オンライン化の事業者・金融機関代行の機能を完了させてから、それをベースにセーフティネット4号保証オンライン化を作り上げるという方針で進めていきました。
その段階で金融課の担当者と構築を担うグラファーのエンジニアは円滑なコミュニケーションが取れるようになっていましたので、本業の方が忙しくなったこともあり、私はその方針を決めるところまで関わって後は徐々に手を引いていき、たまに気になるところがあれば口をはさむくらいにしていきました。

結果的として見事にプロジェクトは遂行され、オンライン申請をした事業者・金融機関の人が窓口に来る割合は激減しています。

「価値を届ける」とは

当初の段階で「事業者の窓口滞在時間を最長3時間から1-2分に短縮した」ということが成果として語られていた本プロジェクトですが、その成果すら「課題」として果敢にメスを入れた金融課のプロジェクトメンバーには感動すら覚えると同時に、ICTを活用した改善の本当の主役はテクノロジーを知る専門家ではなく、現場の担当者ひとりひとりなんだと改めて感じるところです。

金融課のメンバーに聞くところでは、「認定書のオンライン交付に伴って、金融課職員にとってはアップロードするという作業の負担が逆に増えている」と言います。

そしてそのあとに続いた言葉が、私にとって今回のプロジェクトにおける最大の学びとなりました。

「私たちにとっては窓口で認定証を交付する時間は1-2分でも、事業者や金融機関の担当はそのために時間をかけて窓口までお越しになる。そのコストを天秤にかけて考えれば、私たちが手を動かす方が早いし安い。窓口で交付するという行為は単にコストを事業者や金融機関に付け替えているだけのこと。そのことをオンライン化によって認識することができた。」

「誰かに価値を届ける」ということがどういうことなのかというのを突き付けられたと同時に、それを最大化するために「走り続けなくてはいけない」ということを改めて実感できたことがとてもうれしいと感じる出来事でした。

私は常に「課題も改善のすべても現場にある」と言い続けています。
ICTのことなどはわからないと言って引かれることが多いのですが、そういう現場を生み出すために、私も走り続けたいと思います。

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