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デジタルはDXの夢を見るか

最近、アドバイザーとして関わらせていただく自治体が複数になったこともあり、打合せなどの日程調整が少々ツラくなってきたので、スケジュール予約のためのツールを導入してみました。

Code for Japanのメンバーが使っているのを見て「これは便利✨️」と思って使い始めましたが、すごく生産性が上がって助かっています。
どう生産性が上がったのか、ビフォー・アフターをフローで示してみます。


ビフォー 1件あたりトータル30分

作業フロー(Before)

導入前は、打合せなどの依頼が入ると、先方から日程候補をもらうか、こちらから送るかするわけですが、こちらから送る場合だと図のような作業フローになります。
実際には、メールのやり取りに間があくので、先方からの返信が遅いと忘れてしまうというようなリスクもありました。

アフター 1件あたりトータル5分

ツール導入後は、このような作業フローに変わりました。

作業フロー(After)

Calendlyは、Googleカレンダーと連携しておけば、私の空き日程・時間だけを表示するので、予約用サイトのURLを送れば、先方がご自身の都合で日時を確保していただけます。

予約画面

予約完了時は、私のGoogleカレンダーにスケジュールが自動で登録されます。オンラインミーティングの場合は、連携させておいたzoomがGoogleカレンダーと連動して自動でURLを発行し、予約完了メールとともに先方に送るので、私はそれを待っていればいいという状態です。

これで、自分の作業時間が1件あたり25分削減できました。

25分というと「そんなもんか」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、同じ作業が月あたり10件あればトータル250分、年にしてみたら50時間の削減です。
時給3000円と換算した場合、1年で15万円の効果があったことになるわけで、年1万程度の課金など余裕で取り返す計算ですし、私はその分の時間を別の価値創造に充てられるということになります。

隠れコストをお忘れなく

しかしながら、こういったツールは「導入準備のためのコスト」も忘れてはいけません。
その準備段階の作業も踏まえたフローがこちらです。

当たり前のことではありますが、投資判断、アカウント登録、設定など、使い始める前の様々な作業が必要となっています。
よく、この手のツールの謳い文句で「これだけ劇的に改善!」みたいなことばかり喧伝するものがありますが、そういう謳い文句に誘われて導入する人たちが、その「劇的に改善!」を得るための準備のことをどれだけ計算に入れているのかなーというのは、いつも不安になるところです。
実際、今回のツール導入にあたっては、ツールが英語対応のみだったこともあり、初期設定まで含めて3時間くらい準備作業に費やしたと思います。
それを踏まえた上での「年50時間削減」であるわけです。

基礎自治体ではもっと大変

同じツールを基礎自治体で導入しようとした場合は、3時間どころでは到底済まない準備作業がかかります。
先ほどのフローに、その作業内容をメモしました。これはざっくり書いているので、詳細に書こうと思えば実際はもっとたくさんの作業があると思います。

予算要求のところから踏まえると、おそらく数十時間から数百時間かかっているのではないかと思います。
なぜそんなに時間がかかるのかといえば、基礎自治体は、議決を経ないと予算が使えないこと、様々な法令に基づく作業が求められること、導入にあたっての公平性と説明責任を担保するための様々な作業が課されること、組織としての活用にはセキュリティポリシーに基づく設定や導入のための研修コスト、サポートにかかるコストなどが必要となるためです。
私は個人事業なので「この人が使ってて良さそうだからこのツールにしよう」と軽く投資判断ができますし、学習コストも自分の分だけで済みますが、基礎自治体では「なぜそれが良いのか」というのをあれこれ挙げて説明する必要があります。しかも、その説明をする相手は「なんで今でもできていることを、わざわざお金を掛けてやらないといけないんだ」というアレな人であることも多々あります。
学習コストも組織全体のことになるので、マニュアルだのリアル研修だのと手間がかかりますし、往々にして「なんでこんなことやらないといけないんだよ」という反発必至です。
要するに準備コストを負う側にとって「良いこと」がありません。
しかも、それで便利になった後は、みんな文句を言っていたことなど綺麗さっぱり忘れて、それを享受しているという状況は過去の経験からも何度もありました。

基礎自治体の方がよく「前例はないんですか?」というのは、まさにここに理由があり、「この自治体が使ってて良さそうですよ。」と言えると、そこの説明コストが減らせると思っているからに他なりません。
前例ありませんか?と言われるたびに、正直「前例ばっか求めてたらDXなんて無理に決まってるだろ…!」と思いつつも、「あー、そういう文化の自治体さんですね」となんとなく理解している自分がいます。
とはいえ、あまりにそれが酷いと「長いお付き合いはできないなぁ…」とも思ってますが…。

そういう意味で、デジタル庁が進めようとしている「デジタルマーケットプレイス(DMP)」は、ちゃんと地方自治法などの根拠についてもクリアにした上で、普及してくれることを願っています。

DXが進まない理由はここにある

アフターの夢ばかり見る人は、準備段階のコストを度外視している。
デジタル化が進まない理由は、まさにこの点にあると思っています。
個人がスマホを買うのと、基礎自治体でスマホを買うのでは、話が違うのです。
私は、横浜市職員時代に数万台レベルのPC発注から様々な委託契約までこなしてきた経験があるので、なにかを導入しようとした場合の作業コスト見積りは概ねできますし、デジタル化の取組は、その作業コストを考慮してもやるべきだと思っています。
しかし、契約行為などに理不尽なほどの作業負担を強いられる基礎自治体において、経験値の低い職員だったり、他に定常業務などが大量にある場合は、その負担に押しつぶされてしまうであろうことは容易に想像ができます。(そして、その負担を部下に押し付けて「頑張ってね~」とか言うだけのマネジメント層は本当に排除すべき存在だと思います。)

まずは組織づくりから

組織を辞書で引くと「ある目的を目指し、幾つかの物とか何人かの人とかで形作られる、秩序のある全体。そういう全体としてのまとまりを作ること。また、その組み立て方。」と書かれています。
DXという目的を目指すのであれば、それをスムーズに目指せるように組織の秩序を形成すべきですし、それができていないのであれば組織と呼ぶべきではないでしょう。

DXを実現したいのであれば、まずは組織をつくる。
これは本当に大事なことで声を大にして言いたいですし、はっきり言ってそれは「アナログの領域」の話です。
「散らかった部屋を片付けてからルンバを走らせましょう」というのは何百回でも言い続ける必要がある言葉なので、ぜひ皆様の組織でも流行らせてほしいところですね。笑

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