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ATypI19から:メイテイマイェック文字

【追記20200204】YouTube動画に日本語字幕をつけた。ぜひ直接みてください。

ATypI 19 Tokyoでとても印象的だったレクチャー。

スピーカーのニーラカシュ・クシェトリマユム(Neelakash Kshetrimayum)さんは、一度失われたメイテイマイェック文字の復権のために、書体デザインに必要な基礎的調査とデザイン活動をおこなっている。

メイテイマイェック文字は、インド東北のマニプールでマニプール語を表記するのに用いられていた。しかし18世紀に王が改宗しベンガル文字が持ち込まれ、歴史的文書の多くが焼かれてしまった上に、その後の植民地時代にメイテイマイェック文字はほとんど忘れられてしまう。約300年を経て、近年では復権運動が高まり2005年に州政府が教育への採用を決定した。

このころ、看板などではベンガル文字やラテン文字との併用がよく見られたものの、実際に読める人は非常にすくなかったそうだ。当時デザイン学生として、この復権に取り組むことを決めた氏自身も例外ではなく、まず読み書きを学ぶところから始める必要があった。

メイテイマイェック文字は(インド周辺に多数存在するブラーフミー系文字のひとつだが)、北インドの多くの文字と共通点がある。左から右に書き、ヘッドラインとベースラインがあり、文字間は接続していない。一方とても独特な点があり、基本18文字(イェックエーピー)はそれぞれ身体の部位を表している。数字はなんと胎児の胎内での9ヶ月間の発達(!)を表しているとのこと(トップ画像参照)。

氏はレディング大学に進学し、碑文・写本・金属活字・看板・デジタル書体について歴史的調査と分析を行った。初期のメイテイマイェック文字はストローク幅に変化がすくないが、ベンガル文字とともに幅広ペンがもたらされたため、ストローク幅の変化のあるデザインが生まれた。また、金属活字では、技術的制約から母音符号の位置が変化しており、本来のテクスチャが失われてしまったものの、これは技術的に解決された現在でもある種の表現となっているそう。

氏はこれら歴史的調査をもとに、本来のあるべき字形にもとづいた書体をデザインした。ユニコードへの収容、標準キーボードの開発を経て、現在のテクノロジーではほとんどの問題が解決可能になった。メイテイマイェック文字はすこしずつ広がっており、現在ではメイテイマイェック文字の新聞が発行され、街からベンガル文字は減少しているそうだ。この状況で、デザインの果たすべき課題はまだまだあるとのこと。

文字が文化的アイデンティティなのは当然だが、インドでは出身地も表す、というのは「なるほど!」の感が強かった。

参考:ニーラカシュ・クシェトリマユムさんのサイト




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