
Type Directors Clubが揺れている
Type Directors Club(以下TDC)という団体がある。ニューヨークを拠点としており、1946年に設立され非常に長い歴史を持つ著名なタイポグラフィの団体だ。同団体が揺れている。
合衆国で人種差別撤廃や社会的公正を求める社会運動が激しくなっていることはご存知のとおり。書体やタイポグラフィもこの動きと無縁ではない。この夏、TDCで起きていることを簡単にまとめる。
5月末、TDC理事長にElizabeth Carey Smith(エリザベス・カレイ・スミス)さんが就任。
6月初旬、同氏はTwitterでGill Sansの使用をやめるとツイート(すでに削除)。賛同の声が集まる。
(Gill Sansをデザインしたギルは、後年の調査で娘や親類に対し性的虐待をしていたとされている。参考:Fiona MacCarthy on Eric Gill's life and art | Art and design | The Guardian)
6月24日、TDC理事で書体デザイナーのJuan Villanueva(ビリャヌエバ)さんが「TDCは人種差別団体だ」として、ペルー出身の自身の発言がこれまで抑圧されてきたことを告発。辞任した。
(Villanuevaさんはペルー出身NY在住の書体デザイナー。Monotype社所属。AIGA会員)
Today, after two years on the @typedirectors board, I’m stepping down because the TDC is a racist organization.https://t.co/5qM9aHf29b
— Juan Villanueva (@Juan_Kafka) June 23, 2020
Villanuevaさんの告発エントリからの抜粋試訳。
> 加入以来ずっと、幹部たちから圧力をかけられ、押し止められ、沈黙させられ、見下されてきた。
> ある人物は、自身をBIPOCだと表明するのは隔離政策だと言った。
> 彼らは、大部分が白人デザイナーという業界の歴史と、自身が享受する特権を客観視することができないのだ。
訳注:BIPOCは“black, Indigenous and people of color”、つまり黒人・先住・有色の人々をさす。
TDCは即日「彼の問題提起は我々が対策しなくてはならないことばかりだ」とツイート。コミュニティからの意見を求める。
We were very sad to receive Juan's letter this morning, full of very valid concerns we intend to address. We would like to amplify his message and the concerns of everyone in our community. Please feel free to share your own experiences, thoughts, and suggestions. https://t.co/kpsCo8DqKs
— Type Directors Club (@typedirectors) June 23, 2020
6月25日、TDCは現在の理事会が十分な改善にふさわしくないことを理由として、現体制の解体を宣言。同時にCOVID-19による経済的打撃を理由にあげ、オフィスの閉鎖をアナウンス。参考: Internet Archive
6月29日、Champions Designの共同創業者Bobby C. Martin Jr.さんが、TDCの一員、そして元理事として内部から改善できなかったことを悔やむ記事を発表。現組織の問題を伝える。
Martin Jr.さんのエントリからの抜粋試訳。
> 私が参加していながら、なぜTDCが人種差別主義団体でありうるのかと問う人もいるだろう。
> Juan Villanuevaが理事を辞任した理由は正しい。私の在任期間にも、尊敬するひとたちが辞任した。
> たぶんこれが将来のためにはいいことなのだろう。不公平な制度を正してやりなおすには解体しかないのだろう。内部でなんとかしようとしてきた者としてはつらいことだ。
また制度の問題を以下のように書いている。(試訳)
> 規定によって、TDC理事になるには最低1年有料会員として所属していることが求められる。人種差別はこのような規定にひそんでいる。この規定は理事を外部から採用することを不可能としている。世界中の900名の会員が、人種・ジェンダー・性別・年齢・収入・教育・実践・能力・住居のダイバーシティを欠いていれば、理事もダイバーシティを欠いたものになる。そうなれば理事会が率いるプログラムやイベントがしかるべき人々を対象とするようにはならないし、会員層がより包括的になることは決してない。だいたい誰が自分が主要なターゲットとされていない組織の有料会員になるだろうか。
7月初旬ごろ、TDC理事会はアンケート調査を予告
7月後半、TDCは内外からのコメントを募集
— Type Directors Club (@typedirectors) July 13, 2020
The TDC endeavors to become a true and equitable community for everyone who loves type. Your feedback is critical to this process. Link: https://t.co/aRDOqRiY31 pic.twitter.com/XAuMl8aTDn
— Type Directors Club (@typedirectors) July 19, 2020
8月6日、TDCは以下の3エントリを投稿(いずれも抜粋試訳)
Moving Forward(前進)
多数のコメントへの謝辞。次の2エントリの紹介。オフィスの閉鎖。
理事会はTDCの存続と繁栄にコミットしています。あなたの助力によって、私たちはTDCをよりよく、より平等で、より責任ある団体に再構築するため、今も作業をしています。
TDC Anti-Racism Pledge(TDC反人種差別宣言)
TDCは、理事会幹部、コンペ審査員、カンファレンス登壇者の多様性を確かなものとするため積極的にコミットします。
TDCは、世界の書記系、少数派の書体コミュニティにおける成果と実践を評価するため、リソースを割き、支援します。
TDCは、我々の規約、プログラム、サービスにおける不公平を認め、廃止します。
Q. TDCまたはその理事会の構造の、人種差別的あるいは排他的な構造については?
A. 長らくTDCと理事会にはびこる問題の多くは、無害で官僚的な非効率さだとされており、人種・ジェンダー・個人の身元に関するものだとは明確にされてきませんでした。しかしながら、現状維持的な姿勢は本質的に、業界における少数派の関与を困難とします。
クラブの規定がさらなる妨害となっています。現在我々は規定を書き直し、BIPOCコミュニティからのより幅広いタイポグラフィクリエイティブや専門家を採用することに重点を置き、小さな会員グループの外から理事候補をリクルートしやすいようにしようとしています。
特権は現状維持を招きます。書体業界の一員として、クラブはこれが障壁を継続させた一因だと認識しています。
この特権を破壊するためさらなる努力を誓約します。特権そのものを解体するか、あるいはその力によってより多様で公正で包括的さを増すようにします。我々がこの誓約を守るよう、メンバーとコミュニティの皆さんが押しとどめてくださることをお願いいたします。
さらに手を伸ばし、これまでのデザインコミュニティの外部に教育を向けるため、このサイクルを破壊します。理事、カンファレンス、登壇者を多様とするためのこれまでの努力を倍にします。
(トップ画像はMartin Jr.さんのエントリから)
2020/11/24 追記
10月中旬、TDCはThe One Showで知られるThe One Club for Creativityとの合併を発表した。これでTDCはおそらくArt Directors Clubと同様にThe One Clubの一部として活動を継続する。
TDCの発表によればこの変革により、本年中に理事会の25%を、2021年に50%を入れ替え、規定を見直し、多様性へのコミットメントを強化するとのこと。