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ヤンキーのみどりちゃん

リリーに来る大人の中で一番若いお客さん、それがみどりちゃんだ。
律子をかわいがってくれる派手でちょっと太ってるお姉さん。
金髪でよくオーバーオールを着ていた。
名前を意識しているのか、緑色のトレーナーをよく着ていた。
リリーに来るお客さんの中ではめずらしく、真っ赤じゃないピンクの口紅をしていた。
律子はみどりちゃんは大人の女の人だと思っていたけど、後から聞いたら、高校を中退して妊娠中と言っていたから17〜18才だったのかもしれない。


起きる時間がバラバラなみどりちゃんはいつも突然リリーにやってくる。
ある日、お店で暇そうにしている律子に
「うちに遊びにおいでよー」と声をかけてきた。
律子はとても人見知りだった。お店では慣れた人とはよくしゃべるけど、お店の外で二人だけになるのは不安で苦手だった。
みどりちゃんと二人きりなんてちょっと嫌だなぁと思ったけど、ママが後ろから「行ってこやー、行ってこやー」と大きな声で急かすので、断ることもできずに遊びに行くことにした。
律子はそういう空気は読める子供だった。

みどりちゃんの家は、お店からすぐ近くの2階建てのアパートの1階だった。6畳くらいの小さなワンルームとお風呂のある部屋。
みどりちゃんが律子にお風呂場を見せてきた。
なんでお風呂場なんか見せるんだろうって思ったら、湯船の端に腰掛けてタバコを吸い始めた。
律子がみどりちゃんの口から流れ出る白い煙をじーっと眺めていると
「吸ってみる?」
と、火のついたタバコを律子の口元に差し出してきた。

律子はまだ6才だ。
タバコなんて吸ったら警察に捕まってしまうと思った。
びっくりして「そんなのだめだよ、いいよ」と断ったが、
「だいじょうぶ大丈夫、ちょっとだけ吸ってみなって。
 あ、でもママには内緒だよ。」

と、律子の口にタバコを近づけた。
律子はそれ以上拒否することもできず、恐る恐る咥えてみた。
緊張して息を止めたままひと口だけ吸って
「もういい」と、みどりちゃんに返した。
みどりちゃんは「ね?どうってことないでしょ?」と笑ってた。
律子は味も全然わからなかった。ただただ、ドキドキした。
その後、みどりちゃんの家でどう過ごしたか全然覚えていないけど、ものすごい勢いで走って帰った。
走りながらドキドキしていた。警察に捕まるのではないかとキョロキョロと周りを見渡した。もし警察につかまったら牢屋に入れられちゃうのかな。
どうしよう。絶対誰にもバレちゃだめだ。

みどりちゃんのせいで、とても悪いことをしてしまったけど、大人しかできないこと、すごいことをしたような高揚感もあった。

リリーに着いて、「みどりちゃんち、楽しかったー!」とだけ言った。
もちろんタバコのことは内緒だ。
その日はタバコを吸ったことがバレないだろうかとドキドキしていたけど、翌日にはすっかり忘れた。
警察も来なかったし、誰にも疑われなかった。
意外にバレないもんだなぁ。
律子は悪いことしても警察にバレなければいいんだなと思った。
後から考えてみたら、みどりちゃんも子供にタバコを吸わせるなんて悪いことをしてるのだから、ママに言うわけがない。

でもそれからちょっとの間、律子はみどりちゃんに会っても、なんだか気まずくて目を合わせなくなった。



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