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純喫茶リリー

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純喫茶リリーのお話
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2024年5月の記事一覧

ヤンキーのみどりちゃん

リリーに来る大人の中で一番若いお客さん、それがみどりちゃんだ。 律子をかわいがってくれる派手でちょっと太ってるお姉さん。 金髪でよくオーバーオールを着ていた。 名前を意識しているのか、緑色のトレーナーをよく着ていた。 リリーに来るお客さんの中ではめずらしく、真っ赤じゃないピンクの口紅をしていた。 律子はみどりちゃんは大人の女の人だと思っていたけど、後から聞いたら、高校を中退して妊娠中と言っていたから17〜18才だったのかもしれない。 起きる時間がバラバラなみどりちゃんはいつ

半分寝てる小熊さん

純喫茶リリーの近くに、大きな会社の小さな支店がある。 そこに勤めているひとりの女性が毎朝リリーにやってくる。 大きめのべっ甲のメガネをかけて、チリチリのパーマ頭、背が高くて細くて猫背。年は30代半ばくらいの小熊さんだ。 騒がしい店内に、1人ぬぼーっと黙って入ってくる。 一言も喋らない。 目が覚めるような真っ赤な口紅と真っ赤なマニキュアを塗っているのに、雰囲気はすごく暗く、話しかけるなオーラ全開。 うつむいたまま、4人がけのテーブルの端っこに座る。 ママは、小熊さんが来ると「

栓抜きさん

カランコロンカラン ドアが開き、ドアベルが鳴る。 「ママおはよう、ホットね」 近所の大工さんが一番乗りだ。 いつもコーヒー牛乳みたいな色をした作業着でやってくる。 細っこくて、日焼けしてまっ黒い。 顔の形が平べったくて顎が小さくて、栓抜きみたいな形をしてる。 律子はこのおじさんを心の中でこっそり「せんぬきさん」と呼んでいた。 ちなみにこのせんぬきさんが、後に律子の家を作ってくれる人だ。 いつもニコニコして優しそうな人。 常連さんは、何も言わずともモーニングセットなのだ。

純喫茶リリーの朝

純喫茶リリーの駐車場は2台分しかない。 朝7時、そのうちの片方に赤いセダンが停まる。 車から降りてくるのはリリーのママだ。 つまり、この時点でお客さんが停められる場所は1台分しかなくなる。 ママが、カッカッカッとツッカケを鳴らして歩き、店の鍵を差し込んで扉を開ける。カランコロンカランとドアベルの金属音が響く。 たぶん、となり近所まで聞こえていそうなリリーの朝の音だ。 店に入ると、コーヒーと油が混ざったような朝の喫茶店独特の匂いが漂う。 ママはタバコに火をつけ1本吸いながら

純喫茶リリー

“石を投げれば喫茶店に当たる” この辺りの地域はそう呼ばれている。 大通りから一本奥の路地裏の角にひっそりと佇む赤いテントの喫茶店。 そこに純喫茶リリーはあった。 カウンターに4席、4人がけのテーブル席が2つ、3人がけのテーブル席1つ。 そして、一番奥の窓際に、インベーダーゲームが1回100円で遊べるゲームテーブルが1台。 お客さんが17人で満席になるこじんまりとした赤いお店だ。 ママの趣味なのだろう、床も椅子も壁紙も全部真っ赤だ。 新聞と週刊誌が並んでいる本棚までも赤い