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響子と咲奈とおじさんと(19)

   

第三章  昔 と 明日


 より相手を知る

12月に入り、響子、咲奈のアパート。

クリスマスイブの予定、咲奈は晋平と食事へ行く予定だと言う。響子も藤枝醍醐に食事に誘われている。  クラス会の打ち合わせの後、頻繁に連絡をくれる醍醐。都合が付き気が乗れば誘いに乗り、食事をしたりする。鬱陶しさもあるものの、嬉しい様な正直有難い様な気持ち。咲奈が羨ましい、”私も”と言う対抗心も確かにある。でも今は、醍醐とそれ以上、進展していない。
隆一と和美との6月の約束、先月の子供の誕生と名前の報告、響子は自分の心の中で一区切りつき、次の階段へと昇りたくなって来ていた。
メモリーを消去する前に、心の中を整理しておきたい。隆一と同じフォルダーのある場所に、醍醐のフォルダーは作れない。
明日からの為に、咲奈に話を聞いて貰おう。そんな自分の為に、咲奈を付き合わせてしまう事に【ゴメンね。咲奈。】と心の中で呟く。

「ねえ、咲奈。前さぁ、初めての人と3回だけって言ってたじゃない。どんな人だったの?なんで、許そうと思ったの?」
最近の一押しミュージシャンの事や、話題の映画の話をした後、唐突に響子が問いかけてきた。
「え、突然に何?、、、気になる?、、、話しても良いけど、響子の時も話してくれる?」
「うん、話す、、、話したい、私の事、、、だから、先に聞きたい。ゴメンね。」
「ううん、良いよ。……あのね、、、その人ってね、結構秀才さんだったのね。医者の息子で、いずれ医者になるって言ってた。」
「良いとこのお坊ちゃん?今はどこの大学?東京?」
「ううん、福岡。実家から通うって言ってた。車も買って貰って。ホント、良いとこのお坊ちゃんそのもの。」
「遊び人?手あたり次第に釣るような人?」
「違うの。まじめで、優しくて、ちょっと臆病で、彼女とか作って無かったみたい。そんな噂、無かったし。」
「へえ~、、、天然記念物みたい人?」
「そうそう、ある意味、天然。ウフフフ。」
「そんな真面目な人が、咲奈にどう告ってきたの?」
「うん、、、、それがね、クリスマスイブにいきなり時計をプレゼントしてくれたの。『お礼です。』って言って。」
「何のお礼?、その時計、今してる?」
「しまってある。でね、3年間、成績順位で争ってくれてありがとうって。っで、入学直後から好きでしたって。向井さんが自分より順位が上だと頑張ろうって思ったり、自分が上だと、追い越されない様にしようって思ったり。その内、気になって気になって仕方なくなって、周りに気付かれない様に必死でした。って」
「へえ~、、、秀才さんってまわりくどい人、多いのかな?」
「分かんない、たまたまそういう人だったみたい。」
「その人、あっ、 近野こんの君って言うんだけどね。近野君、誰と喋ってもしどろもどろなの。真っ赤な顔しょっちゅうするし。私と話すときもおんなじで。私が好きだったなんて全然分かんなくって。特別な事なかったし。」
「ほんで、そこから何がどうなって結ばれちゃったの?」
「うん、1月に入ればすぐセンター試験があるでしょう。で誘われてお正月の二日から近野君の家で、ひたすら過去問をやったの。その時は何も無くって、、、
 で、10日ほどで試験が有って、一緒に福岡まで行って、結果が出て二人とも志望校へ行けそうだって分かって、、、今度は私が何かお返ししなくちゃって、、、」
「ふ~ん、、、受験生の青春だったんだね。」
「うん、、、二人とも全くの初心者で、、、上手く行かなくって、、、でも、なんとかなって、、、その後、わたしもバイトが有ったり、東京の学校の事とか、住むとことかってあって。彼は彼で、忙しいみたいで、、、メッセージとかはしてたんだけどね、、、結局、3日くらいしか一緒にいる事出来なかったの。」
「じゃあさぁ、咲奈が地元に残ってたら、その後も上手く行ってたかもね。」
「それ、私も思った。福岡の大学に行ってたら、付き合い続いてたのかなって、、、そしたら、将来プロポーズされて、医者の奥さんになってたかもって。
 近野君も、向井さんが地元に残ってくれていたら、、、って最後に言ってたのにね。そしたら夏ごろ、彼女が出来たってメッセージが着て、それから、途切れがちになって、お終いになっちゃった。」
「う~ん、、、もったいない事したねぇ~。」
「ちょっと、もったいない事したかも、、、でも、地元に残ってたら晋平さんや響子に会えていなかったから、こっちに着て正解だったと思うの。へへ。」
「そうねえ、人生万事塞翁が馬よね~。」
「フフフフ、そうよねぇ、、、響子ってさ、案外大人っぽい事、よく言うよね。時代劇言葉とかさ。」
「うん、それってね、中学高校でね、周りの子達とあまり遊ばなかったからかな?、、、なんか、何でも共有みたいなのが苦手でね、、、おっさんみたいな感覚だったみたい。おばあちゃんっ子だったし。」
「あ、私も、、、周りとあまり遊ばなかったし、クラブとか塾とか行かなかったし、ちょっと浮いてた。」
「似た者同士だったのかな?咲奈と私って、、、ハハハハ。」
「そうかもね、ハハハハ。」

「じゃ、今度は響子の事、聞いて良い?」
「うん、私ね、初恋の人が最初だったの。」
「え~!、初恋の人と結ばれたの?凄~い、良かったじゃん。」
「うん、でもね、、、レイプされたの。」
「えっ!レ、レイプっ。……ご、ごめん、良かったって言っちゃった、、、」
「ううん、初恋の人なんだもんね。良かったと言えば良かったのよね、、、そうなりたいってどっかで思ってたから、、、他の人だったら後悔してたかも、、、フフ。」


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