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さよならのあとさきに 清明 (1)


 「あ、君、、、このバイト応募したんだ。」
 宮脇淳。目の前に立っている「あっ」とでも言いそうな顔の女性を見上げた。
 「あ、ハイよろしく、私 片瀬比呂。」
 片瀬比呂。大学でも見かけ、いつも行くファミレスで働いている男性を、見下ろさない様にと猫背になりながら、はにかむ様に挨拶をした。
 「知ってるよ。よく来てたし。」
 「学校も一緒ですよね。同じ建築で。」
 「君、目立つしね、、、あっ、いい意味でだよ。格好良いからさ。」
 「ど、どうも、、、あなたも可愛いって評判ですよ。良く話題になってるし。でもファミレスのバイトは?」
 「店長が『JKの子をバイトにするから』って、『お盆まで休んで。』って言われてね。そう言う事。」

 7月の半ば、小学生向けキャンプ体験指導員のバイトに応募し、説明会で会った二人。それぞれがお互いを認識していた。
 比呂は、女性にしては背が高い。空手同好会に所属し、午後や夕方に空手着で大学構内を掛け声よろしく走り、気合を込めた発声と共に、空手の型を繰り出していく姿は、同じ大学で知らないものはいないほど、知れ渡っていた。
 淳は、中性っぽい顔立ちと華奢な身体で、見た目ジャニ系アイドル。アイドル推しの女子学生から、良く声をかけられたり話題に上っていた。
 その淳はほぼ毎日夕方、駅近くのファミレスでホール係のバイトをしている。
 一方比呂も、本数の少ない列車の待ち時間にそのファミレスを利用する。
 親しい会話はしたことは無いが、その存在を認識し合う二人だった。

 小学生向けキャンプ体験バイトが始まった。
 華奢な淳は、力仕事は苦手でもアイドル顔のおかげで、行動指示に対し子供達は良く従ってくれる。
 体格もよく体力もある比呂は、キャンプ飯、キャンプファイアー、朝食用のパン作りなどの設営を熟している。
 「本当は男の俺が、力仕事をしないといけないのにな。ハハハ。」
 「関係ないわよ、男とか女とかって。持ってる能力生かした方が楽だし。ハハハ。」
 比呂の言葉を聞いた淳は、今までの女の子とは全く違う印象を持った。
 多くの女の子は、非力で大人しく従順で、誰かの指示に従い、意に反する事は陰で泣いたり憤慨する存在だとなんとなく思っていた。
 一方比呂は、子供たちの事を気に掛ける淳に、世の中の男性に対する認識を改める必要がありそうな気がしてきている。
 子供に警戒心を抱かせない男性の存在は貴重だ。その実内包している暴力性はなかなか見抜けない。しかし淳には、その暴力性がないかもしれない、、、と感じていた。
 二人はお互いに、自分には無い部分が羨ましくもあり、尊敬も持ち始めている。
 異性として意識する事も無く、双方が恋愛の方向へ行かない様に気を使う事も無く、ちょうどいい距離感の友人の感覚を持ち始めている。
 「淳は彼女いないの?モテるでしょう。みんなよく話してるし、、、今度誘ってみるんだって子もいたよ。」
 「俺、彼女要らないんだ。誘ってくる女子はいるけど、、、ゴメンって言ってる。比呂はどうなの、体育会系の男子からモテそうだけど。」
 「私も断ってるの。そう言うの分かんないし、、、面倒だし。」
 「似た者通しかもな、俺達って。」
 「そうね。仲間かな、同士かな?、、ウフ」

 片瀬比呂。列車で片道1時間30分かけて実家から通う。
 幼い頃から空手を習い、私立の女子中学高校で、周りに男子の居ない学生生活を過ごす。
 男子にときめいた事も無く、初キッスは高1の放課後に同級生の女子からだった。
 「付き合ってほしいとかじゃなくって、比呂は私の推しだから。」
 その子をもっと知りたいとか、その子の為に何かしてあげたいとかの思いは湧いてこなかった。
 年頃の女子の話題は恋愛やSEXの事。一人で行う行為の事も話題に上る女子校。
 耳情報で自分も試してはみるが、快感を得るところまではいかない。
 【どうなるんだろう、私、、、恋愛できるのかな、、、SEX出来るようになるのかな、、、オーガズムくるのかな、、、、、】
 興味が無い訳じゃないし、性的な事が優先にならないだけの事だと思う様にしていた。

 宮脇淳。アパート暮らし。将来の夢も特に無く、アルバイトで自由に使える金を稼ぐことを優先にしている。
 身体は小さく、筋肉も付きにくい体質。鍛えてみた事はあるがすぐに諦める。
 ジャニ系のルックスで女子から告白されまくりの中学高校を過ごすも、付き合ったことは無い。
 『もしかしてホモ?、、、オカマ?』と疑われたり揶揄われたりもしたが、本人は否定する。
 しかし街中を歩けばそういう男性から声はかけられる。楽しい話に釣られて付いていく時もあり、キスされた事も2度、3度あった。
 下半身を愛撫された事もあったが、ホラれる前に逃げ帰った。
 【結局俺は、そっち方面しか行けないのか、、、女相手はこの一物じゃ無理だしな、、、、】
 淳の分身は小さく細く、寒い日などは完全に体内に没してしまうくらいだった。
 オナニーも片手ですっぽり収まるほどにしか長さ太さ、大きさは無い。
 携帯でみるAV男優のそれと比べ、情けなく自信を失うがゆえ、彼女を作ろうとか告白に応えようとは思えなかった。

 自分へのコンプレックスから来る行動の制限や思い込みを考えなくても良い二人、比呂と淳。
 友人として、長い付き合いにしたい。二人ともそう考えるようになった。

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