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広島協奏曲 VOL.2 尾道・流れ星 (6)

  ヒバゴン

 翌年、2月 雅恵は大学からの親友、明子と一泊二日の山陰旅行へ出かけた。
出雲大社、松江、鳥取、境港と廻る。
二日目の朝から雪が降り鳥取砂丘は猛吹雪で見学どころでは無かった。
境港で雪の中、妖怪ロードを歩き、昼食後、帰路に就く。
山陰道は通行止め、松江道も通行止めとなり仕方なく、国道9号から54号を走るが高速道路を降ろされた車で渋滞している。
国道54号線を暫く走り、三刀屋を過ぎた辺りで渋滞は無くなったが、辺りはもうすっかり、暗くなっている。
ゆっくり走っていた頓原とんばら辺り。緩やかに右にカーブしている所で、急に目の前にトラックのライトが飛び込む。
「キャー!。」悲鳴を上げてハンドルを左に切ブレーキを踏む。車は滑りながら、左の側溝へタイヤが嵌った。

「……ビビったぁ~!。……明子っ、怪我は?。」
「うん。大丈夫みたい、、、車、ぶつかっとる?」
「ぶつかっとらんみたい、、多分、、、衝撃、無かったけぇ~。」
バックで脱出しようと試みたが、出来ない。車は動こうとするが何かに引っかかってるみたいだ。
「折角の四駆でスタッドレスじゃゆうのに、役にたたんのぉ~。もう~。」雅恵は焦り始めた。
その時、運転席の外に人影が。街灯に照らされ大きく見える。運転席の窓をたたく音。
雅恵が窓を開けると、
「すまんかったっ!。おおきゅう廻り過ぎた。怪我はなあかぁ?」と、大きな声。
雅恵と明子はビビった。照らされたその影はまるで”ゴリラ”の様だったから。
「……はい。怪我は無いです。……車が、、、。」
「ぶつかったんかぁ。そりゃわりィことした。すまん。」
「……いえ。ぶつかっとらんのんですけど、嵌って出れんのですぅ。」
「おお、そうか。溝に嵌っとるんかぁ。よっしゃ、待っとれぇよ。すまんがエンジン切ってくれ~。」
雅恵はスイッチを押し、エンジンを切った。
その男は車の左前に廻り、腰を落とし、ホイールに手を掛け、「…うおぉ~!。」と掛け声と共に車を持ち上げそのまま押し、溝から出してくれた。
「うわぁ~!。すげぇ~!。馬鹿力じゃ!。」雅恵と明子が歓声を上げる。
男は運転席側に廻り、「どうにゃっ、走れるきゃ?。」と聞く。
雅恵は、改めてエンジンを始動させ、ギヤをバックに入れ少し下がってみた。動く。今度は右にハンドルを切り、前に出てみる。
「大丈夫そうですっ!。」
「そうか、えかった。うん。…何処まで帰るんにゃ?。」
「尾道です。」
「おおっ、三次みよしから尾道道が通れる様なけぇ、もうちーと(少し)じゃ。」
「はい、すみません。ありがとうございました。」雅恵と明子は車を降り、会釈しながら礼を言った。
「いや、わしがいけんかったんじゃ。すまん、すまん。…へじゃ、気ィ付けて帰れのぉ。」男はトラックの方へ歩き出す。
その後ろ姿は、頭はボサボサで大きく、肩幅広く、背は170cm位、茶色のジャンパー、茶色のオーバーオール、黒の長靴。
男は運転席に乗り込み、トラックはゆっくりと走り出した。
雅恵と明子は車に乗り込む。
「…今の人は、”ゴリラ”?、」
「…いやっ、”ヒバゴン”じゃなかろうか。」
「おぅ~。正に”ヒバゴン”じゃ。」
「ホンマっ、珍しいもん見た。あっははは、、」
「うん、珍しいもん見た。キャハハハっ。」
二人は笑いながらゆっくりと車を発進させた。


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