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女神 (28) 俺の事を知って

  俺の事を知って

新生活が始まった。
香織の心配性もよく顔を覗かせる。
「車の運転、ほんと気を付けてねっ!。信号、ちゃんと止まってよっ!」
「止まってるしっ。」
「人助けも良いけど、あまり関わらないで。……”この人がしました”って言われたら罪、擦り付けられるよっ。放っておくのよ。」
「そうもいかねえしっ。」
「また、殺人事件あったんだって、、、。早く帰って来てね。」
「仕事終わったら、直ぐ帰ってるしっ。…ってか、何処の事件?近所?、、、ああ、大阪、、、」
こんな調子なので、朝から喧嘩と言うか、言い争いもするようになった。
「香織っ!そんなに悪い方、悪い方に考えるなっ!。」
「どうせっ、どうせっ!性格悪いですよぉ~だっ!」
後で、香織から雄大へメールを送る。”ゴメン 言い過ぎた” 
雄大、それも少し嬉しい。出逢った頃の香織は、言い返す元気も無い様に怯えていた気がする。
それが今は口喧嘩も、甘えている事なのかもしれないとも思う。
【そろそろ、聞いてみようかな。香織の身体の事。病気だとは思うが、どうしたいのかを、、、】

「ねぇ、香織さん。最近身体の調子、どう?」
「身体?、良いわよ。お薬、ちゃんと飲んでるし。」
「なんの薬?」
「病院で処方して貰った薬。」
「そう。」【聞き出せねぇ~。どうすりゃ良いんだ、、、】
【雄大さん、早いよ。もうちょっと、、、しばらくは聞かないでよ。このままで居ようよ、、、】
香織、心の中で願う。

「香織さん。今度、親友のお店、一緒に行かない?」
「親友?高校の?どこでお店してるの?」
「池袋。ビルのワンフロアを使ってね、一軒のお店の中に色んなお店があるんだ。」
「へえ~、、、良く判んないけど、おもしろそうね。」
杏樹へメッセージを送った。
”今週金曜日、お店に行く。二人で行く”
次の日、返信が来る。
”久し振りね 死んで無かったのね 良かった
 二人って誰?彼女?出来たの?
 あたしの事 どうすんの すてるの ひどいわ
 品定め してあげる 覚悟してらっしゃい!”
【杏樹って、、、、良く分からん。】

金曜日、杏樹の店。
「いらっしゃいっ!雄大、久しぶりィ~」杏樹が入店した俺を見つけるなり、抱き着いてきた。
「杏樹、いつも綺麗だな。会いたかったよ。」いつもの挨拶をする。
雄大の肩に両手をかけたまま杏樹「こちらがお連れ様?」香織の方へ顔を向ける。
「こ、こ、こんばんは、、、」香織、一連の流れを見て口を開けたまま動かなくなっていたが、どうにか言葉が出た。
「うん、こちら香織さん。……実は今、一緒に住んでる。」
「あれ~、雄大っ!いつの間に~、、、そう、よろしくね。杏樹です。雄大とは小さい時からの幼馴染で、同級生で、親友で、恋人で~す。」
「こ、こ、恋人っ?」香織、口に手を当て驚く。
「ちょ、ちょ、杏樹さん。刺激強すぎですって。香織さんは免疫無いから、、、」
「ごめんなさ~イ。さ、さ、どうぞこちらへ」杏樹は俺の肩から手を離し、正面のバーカウンターへと案内してくれた。
二人で止まり木の椅子に座り、アイスティーソーダとあんずのカクテルを頼んだ。杏樹は他の人の接客でその場を離れた。
「あ、あ、あの~、雄大さん、、、あの方とはどんな、、、」香織、混乱した頭の中を整理しようと聞いた。
「杏樹は本当に幼馴染で、同級生で、親友なんだ。」
「あの~、男の人と女の人で親友ってなれるもんなんですか?」
「あ~、そっか、そっか。……杏樹は昔、良太って言う男の子だったんだ。」
「え、えっ~!」香織の声が響いた。
「今は女の人。それも飛び切りの美人の。」
「……初めての世界を覗いたみたい、、、」香織、あんずのカクテルを飲む。
杏樹が戻って来た。
「香織さん。雄大は優しい?」カウンター越しに香織に聞いてきた。
「はい、とっても」少し落ち着いてきた香織、微笑みながら答えた。
「良かった。」杏樹も微笑み返す。杏樹の表情からはバトルの雰囲気は見られない。心から安堵していそうに見えた。
「雄大にはねぇ、長い間、世話ばっかしかけちゃって、早く良い人出来ないかなぁ~って思ってたの。実は。」
「長い間ですか?」【いつからいつまで、どんな世話?】
一昨年おととし までね。小さいころから、、、まっ、詳しい話は雄大に聞いてちょうだい。」
雄大は隣で、ニヤニヤしながら聞いている。
「香織さん。お店案内してあげるわ。どうぞ。」杏樹はカウンターからフロワーに出て、香織を案内し始めた。
カラオケスナック、熟女バー、音楽バー、それぞれに入る。
また反対側の、キャバクラ、ホストクラブ、高級クラブ風ラウンジを回る。
初めて、覗く世界だった。誰かとお酒を飲みに行くことも無く、夜の世界で働こうなんて思いもしなかった香織。
それぞれのお店でホストやホステスと少しおしゃべりをした。音楽の事や映画の事、ファッションの事など。
一様に皆、ママの杏樹を慕っているのが判る。安心したような笑顔。
杏樹も皆を気遣っているのが判る。笑顔の奥の心配そうな目線。
「ここに居る人は皆、むかし色々有った人達。興味で詮索はしないし、今自分に何が出来るか考えてくれてるの、、、楽よ。」
【今、何が出来るかか、、、私は雄大さんに、何が出来るんだろう?機嫌をとるとか、夜の相手をするとかじゃなく、、、、】
「雄大はねぇ、何かして欲しい事って無いかもしれないよ。いつも何かしてあげなきゃって思う人だから、、、、貴方も正直になりなさい。」
香織は杏樹の”正直に”のワードに後ろめたさを、すこし覚えた。【でも今は、、、もう少し待って、、、】

店を出た二人、池袋駅まで歩く。
「不思議なお店でしょ。何かをしたいからあの店に行くんじゃ無くて、行けば何かあるって感じで。」
「そうですね。杏樹さんの世界なんですかね。」
「香織さん、杏樹が、いえ、……良太が俺の初恋の相手で、初めての人です。」
「えっ、、、初めての人?」
「女の人と付き合った事が無いと言ったのは、ずっと良太を、、、あいつの事を守ろうとしていたからなんです。」
「守る?どうやって、、、いつも一緒に居れた訳じゃ、、、」香織、雄大の顔を覗きながら。
「もちろんです。いつもはそれぞれでやりたい事をしてました。ただ、心が弱った時とか、怖い事が起きそうな時、呼ばれればそばに行く、、、
 あ、そう言や~、命を掛けた事は一度ありました。ひたすら土下座してましたが、、、」雄大、苦笑い。
「……命をっ、、、」
「どうなっても良い、、、何をされても良い、、、良太だけには手を出さないでください、返して下さいって。」
「……」
「香織さん、俺は香織さんを守りたいと思ってます。でも良太の時の様に同じでは無いと思います。
 香織さんへは、香織さんに合うやり方を見つけて行きたいんです。、、、すみません。押しつけがましく、、、香織さんが嫌なら、、、面倒臭くなったら、、、言ってください。」
「雄大さん、、、今はそばに居るだけで嬉しいんです。何かして欲しい事は特に、無いです、、、」
「わかりました、、、」
【重たすぎたかな、、、逆に引かれるかな、、、】と雄大、杏樹の事を話した事を少し悔んだ。
【嬉しい、、、有難い、、、全部引き受けて貰えるなら、、、でも、それじゃ私に悔いが残る、、、応えてあげられない私が甘えてはいけない、、、】
香織、嬉しさと申し訳なさの入り混じる思い。

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