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【短編小説】 回想 邂逅 買春 回春


 あれから40年。食べちゃいたいくらい可愛かった君。あの時食べておけば良かった、、、では無く、
 俺が24歳の頃の、頂いちゃった子の話。

 その頃の俺は東京にある、とある会社の営業所に居ました。
 その会社は、社会現象にまでなり一世を風靡したゲーム機の製造リースをしていた会社でした。
 他にも流行り始めていたカラオケ設備や、ピークを過ぎてはいましたが人気のあったジュークボックスの販売もしていました。
 得意先のご子息が経営するお店から、ジュークボックスの修理依頼が来て、そのお店を訪ね機械を見た俺は、
 「すみません、、、この機械は良く知りません。修理しても治るかどうか、もっとひどく壊してしまうかもしれません。購入されたところへ依頼された方が、、、。」
 とそのご子息に伝えると、
 「あ、そう。これってさ、親父が随分前にアメリカから持って帰った物なんだよね。それも場末のバーみたいなところだって、、、、治んないか、仕方ないね。諦めるよ。」
 とおっしゃったのです。
 呼ばれたお店と言うのが、1日中アメリカンロックバンドのLPレコードを大音量で流しているロック喫茶と呼ばれていたらしいところでした。
 壁のあらゆるところの棚にアルバムが並べられており、その中にはEP盤と呼ばれた45回転のドーナツ盤も多数ありました。
 ジュークボックスはEP盤専用のプレーヤーとして、ご子息の気分による選曲でレコードが入れられていて、お客さんが100円を投入し1曲聞くことが出来るものでした。
 (EP盤:17センチのドーナツ型45回転レコード。当時1枚、500~650円で売られていました。)
 「あの、うちもジュークボックス売ってます。中古ですけど、、、シーバーグというアメリカの会社が作った物で、それなら修理も出来るし、レコード針も市販のものが使える様にしてあります。これがパンフレットです。」
 と言って、A4紙に白黒コピーした自家製パンフレットを差し出しました。
 「あ、そうなの。じゃあさあ、今のジュークと大きさが変わらないくらいでさ、AUX出力出来るようにしたの売ってよ。店のアンプに繋ぐからさ。」
 という事で、その場で注文が貰えました。早速工場へ発注しました。2週間くらいで納品可能だと後日、ご子息に伝えました。

 一日でも早く欲しいというご子息の要望に応えるべく、工場でメンテナンス完了時に取りに行く事にして、その日に設置する事にしました。
 それが、40年前の5月下旬の事でした。

 工場へ行く当日の朝6時にアパートを出た俺は、南千住から首都高速に乗り東名高速道へ向かいました。
 用賀料金所の手前で、それは起こりました。
 「……ん?、、、、ええ~、動いてるっ!、ここ何処っ?」
 叫び声が営業用1BOXカーの後部座席から聞こえました。
 「……はあ?!、、、、何?、、、、」
 この1BOXカーには、運転席助手席の後ろに厚手の透明ビニールが取り付けられています。冷暖房の効率化の為の仕切りです。長年乗って手入れや掃除をしていないビニールは既に透明では無くなっていました。
 料金所を過ぎて広くなっている左側の壁に沿う様に停車して後部座席ドアを開けました。そこには若い女の子がいました。
 「……こんちは、あんた誰?」
 「ごめんなさい、夕べ寝るところなくて歩いてたらこの車が有って、ドア開けようとしたら開いちゃって、、、、で、、、寝てました。」
 「あ、そう、、、、俺、これからさ海老名まで行くのね。どうする?高速下りたら、降りる?、、その後、竹ノ塚まで行くけどどっかで降ろそうか?」
 「……ん~ん、、、どうして良いか分かんない。どっか都合のいいとこでいいです。」
 「そう、じゃあ、、、、乗ったのが俺のアパートだから、その辺まで乗っとく?、、、良い?」
 「うん、じゃあそれで。」女の子は、可愛らしい笑顔を俺にくれました。
 女の子を助手席に移らせ、工場へと車を走らせます。

 「寝るとこ無いって言ってたけど、家どこなの?」
 「仙台。」
 「はあっ?、、、仙台、、、、何でまた綾瀬あたりを歩いてたの?」
 「え~っとねえ、、、先輩の家、訪ねてきたのね、、、で、その先輩ん家行ったら先輩、女の人と居たの。「突然来るな」って怒られて、追い出されて
  どこか知らないとこ歩いてたら、男の人に声掛けられて、、、連いてったらやられちゃって、お金取られて、また放り出されて、、、歩いてたの。
  ほんでもってこの車で寝たの。」
 「はあ~そうだったんですか、、、、大変だったんですね、、、、、その様子じゃあ、飯食ってないんじゃないの?」
 「うん、昨日から何も食べてない。」
 海老名市内に入って、もうすぐ工場に着くというあたりのファミレスでその子に待ってるように伝えました。
 財布から1万円出してその子に預けて、、、このままとんずらされたらとは思ったのですが、放っておけなかったんだなこれが。

 1BOXカーの後ろにジュークボックスを乗せて貰い、ファミレスへと向かう俺。
 【いるかいないか、、、待ってるのか逃げたのか、、、運が良いのか悪いのか、、、、運が良いって何もしてねえし、、、】
 その子は居ました。ファミレスに入ると手を振ってくれました。それがすごく幼く見えました。
 「ところでさあ、あんた、、、、、大学生か?」歳は幾つだと聞こうとしてその問いに変えました。
 まさか高校生とか中学生だったら、非常にまずいと思ったからでした。
 「えっ、うん、、、専門学校、美容師の、、、、」と下を向いて答えてくれた子。
 【やっぱ、高校生くらいか、、、まあ、しゃ~ない。……何がしゃ~ないんじゃ?】
 俺も軽く食事をして、東京へ向かいました。

 「これを納品するお店に連れて行く訳にいかないからさあ、俺のアパートにでも行っとく?、、、それともこのまま仙台に帰る?」
 用賀料金所を過ぎ首都高に入った時、その子に聞いてみました。
 「う~ん、どうしよう、、、明日帰ろうかな、、、、」
 「家の人心配してないかな。帰った方が良いんじゃないの?」
 「そこは平気。普段いないから、、、、私ねえ、母子家庭でさ、ママは今海外なのよ。帰ってもだ~れも居ないの。」
 「あ、そう。」
 それを聞いて俺は、、、よこしまな心がすべてを覆いつくした気がしました。【泊まることになったら、、、、ヤレるじゃん。】

 それからというもの、俺は顔がにやけていないかズボンが膨らんでいないかとかを気にしながら、アパートへ向かいました。
 その間も話をしたと思いますが、何の話題だったか覚えていません。
 「朝あげたお金まだあるよね。それでさ、何か買って待っててよ。夜の8時頃には帰るからさ。」
 その子にそう告げて、アパートの部屋を開けて合鍵を渡しました。
 それから同じ営業所の人と待ち合わせて、ご子息の店へジュークボックスを設置し終えることが出来ました。
 夜の7時、定時時間になったとたんに俺は営業所を出ました。

 アパートへ着いた俺は部屋に入るなり、
 「晩ごはん食べた?まだならラーメンでも食いに行こう。」と、待っていた子に告げました。
 「はい。お供しやす。」急に距離が縮んだような会話にまた俺の顔は、にやけてしまいました。その時を思い出すと、今でも恥ずかしくなる自分が可愛い。
 
 ラーメン屋から帰った後、
 「これ帰りの新幹線代。足りるか?」と3万円をその子に渡しました。
 「多いよ。返すよ。悪いもん、朝のも残ってるし。」
 「良いよ。取っとけよ、、、、って言うか、、、、、その、、、、、、」
 「ん?何?、、、、やりたいの?、、、良いよ。でも、お金貰っちゃうとアレだよ。」
 「いや、あくまでも交通費だ。あげるんじゃなく貸すんだ。返さなくてもいいけど、、、、」
 「……デヘヘへへ、、、、じゃあそういうことで、、、」
 その子はお金を収め、俺は頂きました。

 1ラウンド目2ラウンド目、3ラウンド目位の後の賢者タイムの時に、その子に聞いてみました。
 「先輩訪ねて来たって言ってたけど、何してる人なん?」
 「ロックバンド、全然売れてないけどね。ピアノ習ってる時の教室にギターを習いに来てた人だったの。待合室で話してるうちに仲良くなってね、、、、って言うか私がいれあげちゃったんだよね。なんかワルッぽくて訳分かんない事言うし、でも優しいし。」
 「東京に居たの?それとも地元で?」
 「あ、地元でね。先輩、この前高校卒業した時に東京へ出て行って、、、もう会えないって言われたんだけど諦められなくってね私が、、、、住所聞いてなくて、前にライブしたって言うライブハウスへ行って、住所教えて貰ったの。」
 「良く教えて貰えたねえ。」
 「妹です。母が入院して、、、兄を探してますって言った。」
 「はあ~、そうですか。」
 その後も数ラウンド行った後、その子は俺の胸で小さなイビキをかいて寝ました。
 なんとかわいい子なんだろうか。このままここに居てほしいとその時は思いました。
 でも、見た目は大人びて見えるその子は、本当は幾つなんだろうかと考えた時、
 【高校生だったとしても良くない事だよな、、、ましてや中学生だったら、、、、、、何の言い訳も聞いてもらえないしな。】

 次の日の昼前、営業所の1BOXを無断で借りて、東京駅八重洲口へとその子を送りました。
 「じゃ、元気で。」
 「うん、ありがとね。」
 連絡先は聞いてません。名前すら聞きませんでした。
 東京へ来てから女性と付き合っていない俺にとって、何年かぶりの素人さんでした。渡したお金は交通費です。しかも貸したのです。返して貰う事の無い貸借契約です。
 それから俺は【女性と付き合いたい】と思うようになりました。
 実際にその数か月後、ある人と付き合う事になりましたが、それも俺の事情で半年しか持ちませんでした。

 あの子も今は、、、熟女か。そりゃそうだ、俺が爺だからな。
 どんな人生を歩んだんだろうか、波乱万丈だろうか、順風満帆だったのだろうか、男に泣かされたんだろうかそれとも泣かしてきたんだろうか、、、

 俺の娘がちょうどあの時の子と同じ年代になりました。
 娘を見たら、あの時の子を思い出したのです。
 あの時、他の選択肢を俺が選んだとしたら、どんな展開になったんでしょうか?
 多分、警察に捕まってたのかな、告発されてたのかな、、、
 あの子はきっと、JCだったんだと思います。昔も今も、駄目なものは駄目です。
 

 あの時の邂逅を回想してみました。
 買春ではありませんでした。
 でも、その時の事を思い出すとドキドキするし、ムクムクともします。(何が?)
 回春真っ盛りの、エロ爺だな。

 (これはあくまでも、短編小説です。)

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