響子と咲奈とおじさんと (5)

  同じ名前

翌朝、咲奈が目を覚ます。携帯を手に取り画面を見ると、デジタル時計は9時20分だった。
【何時に寝たんだろう。良く寝れたのかな、、、すっごい身体が重い。】
ゆっくりとベッドに腰掛け、振り返り枕を見るとタオルに少し血が着いていた。
あわててタオルだけを剥がし、枕を見るとやっぱり少し血が着いていた。
【あぁ~、どうしよう。洗う?】
敷き布団の上で丸まっていたタオルにも血が少し着いていた。敷き布団にも着いていたのでカバーも剥がし始めた。
枕とタオル2枚、敷き布団カバーを抱えて机に置く
足元の丸まった掛け布団も見たが、大丈夫そうだった。【私の寝相のおかげか?】

【あっ、おじさん、いるかな?謝らなくっちゃ。】咲奈は部屋からでてリビングに向かうと、誰の気配もしない。
「おはようございます。すみません。おはようございます。」と続けたが、反応が無い。
【出かけちゃったのかな?、今日は仕事だったの?。……え、なのに昨日、呼んじゃったの?あたし。】
テーブルの上を見ると、便箋があった。マスコットのついた鍵もあった。【何か書いてある。】咲奈は椅子に座り便箋を見た。

 おはよう。私は仕事に行きます。
 顔の腫れや、鼻血が良くなっていたら帰ってもいい
 鍵は一階エントランスの郵便箱(1203)へ
 冷蔵庫の中の物や、テーブルの上の物は食べていい
 洗濯物のシミは落ちていない すまない 新しいのを買ってくれ
 病院へ行きなさい 鼻を診て貰いなさい
 帰りたくなければ暫く居てもいい

便箋下に封筒があった。中を見ると 1万円札が見えた。数えると5枚あった。
【えぇ~、駄目だよ。貰えないよぉ~。どうすりゃいいのぉ~】
咲奈は天井を見上げた。困惑した。でも少しうれしかった。
【何、うれしがってんの!。お返し出来ないのに!。……でも、これだけあれば助かるよね~、、、。】
暫く天井を見たまま考え込んだ。
【……何をしてあげれば良いんだろう?。】

回りを見渡すと、昨日着ていた服がブティックハンガーに干してあった。【…凄い、、、何でも出来るんだね、あの人、、、】
リビングの壁にテレビがある。隣にはテーブルのようなものに写真立てに焼き菓子、コップに白い花が一輪差してあった。
近づいてみると電子ピアノだった。写真には3人、おじさんと奥さんと娘さん、どこかの入学式の様だった。
寝ていた部屋の机が学習机だったのを思い出し、咲奈はその部屋に戻った。
机にはさっき丸めたタオルやシーツがあった。急いで洗濯機に持って行き、洗濯機の上にあるボール型洗剤と一緒に放り込んだ。
開始ボタンを押し、部屋にまた戻った。
机の上は他に何も無く、引き出しを開けてみた。右の小さな引き出しの中に学生証があった。

 ”信愛女子学園 中等部 二年 A組 出席番号 12      高杉 咲奈”

【……あっ。同じ名前だ。しかも同じ字。】
ベッドに腰掛け、枕元にあった携帯で、信愛女子学園を検索した。ホームページを見た。お嬢様学校っぽい。
大学入学実績の項目があり、クリックしてみた。
 令和元年度実績
  東京大学 23名
  京都大学  4名
  筑波大学 18名
  慶応大学 24名
  …..
【凄いっ! 、、進学校じゃん。かなりのトップクラスの。】
携帯を持って、リビングに戻り、ソファーに座り、また天井を見上げる。
【同じ名前だったからか、直ぐに迎えに来てくれたの、、、娘さんは?……どこにいるの?。】
【奥さんと一緒に亡くなったの?、部屋も机も荷物が全然無いし、、、】

いろんな事が頭を駆け巡り、収拾のつかない咲奈。ただ天井を見上げて時間が過ぎた。

洗濯機の終了チャイムが鳴り、我に返った咲奈は洗濯物を取出し、ランドリーバスケットに入れる。
リビングのカーテン、サッシの窓を開けベランダに出てみた。
東京湾が見える。空港も見える。レインボーブリッジも見える。
左側にエアコンの室外機が有り、横に丸椅子とスタンド型の灰皿がある。
【あれっ、おじさん、タバコ吸ってたっけ?。】咲奈は思い出そうとしたが、見たことは無かった。
ベランダのフェンスにある物干し竿とタオル。【ここにもタオル?……あ、竿を拭くんだ。タオルをぬらして。】
タオルをもって洗面所まで行き、洗って軽く絞りベランダへ行く。差してある竿を拭き、シーツ、タオル、枕カバーを干す。
竿には紐付きピンチが通してあり、枕もいくつかのピンチで止める事が出来た。
風は強いが、穴あきフェンスの内側の為か、洗濯物は殆どなびかない。
咲奈は丸椅子に座り、しばらく眺めの良い景色を眺めていた。
【こんなところに住めたらいいな。こんなところに生まれたらよかったのにな、、、。】

中に戻り、昨日買ってもらったケーキやゼリー飲料を食べた。
ソファーに横になり、何かを考えるでもなく天井を見上げていたが、その内、寝入ってしまった。

暫く寝ていた咲奈、起きたら夕方だった。起きてベランダへ出て洗濯物を取込み、借りていた部屋へ運ぶ。
【おじさん、何時帰ってくるかな?何か作って待ってた方がいいのかな、、、。】
冷蔵庫を開けてみた。ビールや、数本のペットボトル。昨日買ったゼリー飲料、おにぎり、うどん、ケーキ、醤油、ソースぐらいしか無かった。
【……作れるもの何も無いな、、、どうしよう。】


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