Serenity -静寂- (2) 両性具有
富田 雄二(ゆうじ)、このお店のママ綾香は、島根県の南部、邑智郡という所に生まれた。
雄二が生まれてすぐ、両親は広島市へと引っ越した。収入を増やし、生まれた子供の教育の為と、親類へは話したという。
父親は自動車メーカーの工場勤務となり、昼勤夜勤をこなし、子供を塾に通わせ、リトルリーグで少年野球を習わせ、どこにでもいる幸せな家庭を一家は築いて行った。
雄二が小学校5年生の時、腹痛のため小児科で診てもらうことになる。
下腹部の痛みが治まらない。臍 の下、恥骨の奥が痛い。膀胱炎かと思い検査しても違う。
小児科医師の高橋は、レントゲンを撮ってみた。
映し出された画像に違和感がある。
【……これは、、、卵巣、これが子宮、、、、、】雄二の下着の中には、陰茎と睾丸が確かにある。
【両性具有、、、、、なのか?、、、、女性の身体で本来は男性というのは聞いたことはあるが、、、】実際に、診た事は今まで無かった。
【初潮、したがっているのかな?、、、、】婦人科の知識が足りていない。調べるか誰かに預けるか迷う高橋。
炎症を抑える薬と痛み止めの点滴を行い、同様の薬を渡し、こちらから連絡するとして、雄二を帰した。
出生時直ぐに、もしくは暫くして両性具有と分かればより多くの場合、卵巣と子宮を摘出する手術が行われる。
身体が女性、染色体が男性だった場合、成長期以降に陰核の肥大等や性別違和感で自覚する場合が多いと聞く。
外見の性別に合わせる事を、より多くの医師は選択する。
未成年しかも年少者である本人の意向がどうなのかが判断できない為、親の意向を尊重せざるを得ないとなれば、逆の選択をすることはまず無い。
高橋は、パートナーでもあり婦人科医の幸子へ連絡した。
「両性具有の少年がいる。お前のところで詳しく見てもらえないか。」
「両性具有?、、、いいけど、大学の産婦人科だよ。男の子が来れるとこじゃないよ。親子連れでもさ。」
「……轟先生のとこ、先に行ってもらおうか、、、」
「えっ、精神科の?、、、異常がありそうなの?、、、、」
「いや無い。いたって正常な男子だ。ただ、、、」
「ただ、何?」
「これからが病んでしまいそうでさ、、、、あの臓器があるって事は、女性ホルモンが増えてくるんじゃないかって、、、、意識と身体が不一致って言うか、、、」
「じゃ、精神科じゃ無くってさ、、、、、どこ?、、、、、、分かった。私がそこへ行くわ。土曜日の午後にその子、来て貰える?」
「うちの設備で良いのか。大した事できないぞ。」
「画像と検体を持って帰って調べてみるわ。」
「そうか、、、今はそれしか無いか、、、、じゃ、後は家で話そう。」
「うん、分かった。」
トランスジェンダーとか性同一障害という情報は、医療雑誌や学会報告で知ってはいた。
これまで、小児科医の自分を訪ねて来る患者には、そういう呼称の患者はいなかった。
【これからどうする、、、価値観、倫理観を押し付けて、、、それで良いのか。】
そんな思いをパートナーの幸子と話し合った、小児科医の高橋幸太郎。
雄二、後の綾香が高校卒業まで、心の支えとなってくれた主治医である。
「じゃあ、ママさん。今日は帰る。今度、釣りにでも行こうよ。教えるからさ。」
「そうね。ありがとう、考えておきまっさ。」
関西で、”考えておきまっさ”は、もういい加減、諦めなさい。これ以上その話は無し。の意である。
【やれやれ、、、】
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