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広島協奏曲 VOL.4 振り子 (3) 投稿 3 高校生のパンツ

 投稿 3 高校生のパンツ

高校生になりました。
 明日身と一緒に、隣の市にある普通科の高校へ進学しました。
 受験の時の倍率は、普通科で 1.06 でした。
 受験する生徒には、「有名私立との併願受験があるし、こっちが滑り止めで、よっぽどの素行不良が無い限り大丈夫だ。」と中学校の進路指導では言われていました。

明日美はやっぱりモテました。
 バレー部で、背が高くモデル体型で胸もそこそこあり、コートで躍動する姿と上下するバストで男子生徒はメロメロでした。
 でも明日美とクラスはバラバラになり、中学の様な取り巻きにはなれません。つまり私に声を掛けてくる男子生徒は、業務連絡のみです。
 でも私はそれでよかったのです。明日美の件から男性恐怖症になっていました。
 自宅でも、風呂上がりの父親の裸に嫌悪感が増してゆき、中学校でもエロ本を持ってくる男子が気持ち悪くて仕方ありませんでした。
 男の頭の中は全て、エロい事(女の裸)で出来ていると言う江戸時代の浮世絵を見てからと言うもの、怖くて怖くて後ずさりしていました。

そんな私でも、カッコいい男子には憧れがあります。
 あの人なら、エロくても良いかも。と都合の良い考えが頭の中を支配するときも有ります。
 高校一年の時、サッカー部の背は高くないけどよく走る同級生が好きになりかけました。
 その人が良いね。と言うクラスメートはいませんでした。もし私が行動的になれば、チャンスです。そう思っていました。
 彼を追いかける私の視線に気が付いた同じクラスの女の子が、彼に「青木があんたの事、好きじゃと。」と伝えてくれました。
 私は陰に隠れて見ていました。恥ずかしそうにしてくれたら、、、、笑顔になってくれたら、、、彼の前に出て行こう。そう、決めていました。
 「はあ~?、、、青木ってあのちびでデブの?、、、わしゃええわ。好みじゃなあけぇ。でもあの体は小そうても抱き心地良さそうなよのぉ~」
 ブスだけ言わなかったのが不幸中の幸いだったのでしょうか?
 瞬間に、、、恋愛とか、男なんて私には縁が無いんだ。そう思いました。
 わかっていたはずでした。それでも夢を見た私が悪いんです。
 これから先、ゲテモノ好きが現れるまで我慢しよう。
 そんな事を、泣きながら布団の中で誓った日でした。

高校2年の春、毎週土曜日にバスで広島へ行っていると言う明日美に、部活帰りに一緒になったので、マクドナルドで聞きました。
 「ねえ、明日美は毎週広島行きょうるん?何しよるん。」
 「塾。午前中が英検で、午後から大学入試対策。」
 「明日美、大学行くん?どこ行きたいん?」
 「遠くにゃいけんけぇ、広島かねぇ、、、広島なら安田か比治山、文化学園、公立なら県立かね、、、何処でも良いんよ。卒業したら、東京か大阪、いやアメリカに行きたいし。」
 「えっ、アメリカ、、、、ほじゃねぇ、明日美は英語得意じゃし他の科目も成績ええし、、、」
 「雪子はどうするん?大学?就職?」
 「まだ決めとらん。大学行きたい気はするけど、、、、その先に何になりたいか分からんし、、、」
 「先ずは、お父さんとお母さんに聞かにゃいけんね。大学行ってもええか?って。駄目じゃゆうちゃったら、考えりゃええが。」
 夕食の時、お父さんとお母さんに聞いてみました。
 「うち、大学行きたいんじゃけど、、、イケんかね?」
 予想外の答えが返ってきました。
 「おう、雪子が行きたいんなら行ってもええど。ただ、卒業したらこの家に戻って来てくれるか。」
 「お父さん、もうそういう時代じゃなあよ。雪子を貰うちゃろうゆう人がおったら、嫁に行って後ときどき面倒見てくれりゃいいんじゃし。」
 「う~ん、、、そうよのぉ、、、婿入りしてくれるんは、高卒とかどうでもええ奴ばっかししかもうおらんよのお、、、」
 「高卒の男がイケんゆうんじゃないよ、雪子。高卒でも賢い人はおってじゃけど、この辺に残っとるんは何か事情を抱えとってじゃけぇねぇ、、、」
 「帰るんにしても、広島でて良え人見つけるんも、大学出とりゃそれなりの人が周りに集まるけぇのぉ。将来の安定を掴むにゃ、それなりの投資が要るし、、、大学、行ってもええど。金はどうにかするし。」
大学へ行く事にしました。
 でも、試験を受けて合格できる学力があるかどうかよくわかりません。
 「進学塾へ行きたい。」と言いました。しかも「明日美と一緒の所が良い。分からない所、聞けるし。」と加えました。
 「明日美ちゃん、どこ行きょぅるん?」
 「広島じゃと、、、土曜日だけの、塾。大学入試専門らしい、、、」
 「明日美ちゃんと一緒なら、まあ、、、ええか。今度見学させて貰ぉうてみい。ほいで入塾金とか授業料とかパンフレット貰うてけぇ。」

次の土曜日、明日美に付いて行く様に広島の塾に行きました。
 朝7時には家を出て、自転車で三次バスターミナルまで行き、そこから広島バスセンターへと行きます。片道約2時間。
 明日美は授業を受け、私は説明を受け塾の中を案内して貰いました。その後、入塾テストを受けました。
 12時過ぎに明日美の授業が終り、近くのマクドナルドで昼食を取ります。
 1時頃、明日美が、「雪子、ちょっと待っとって、、うちちょっと用事済ましてくるけぇ。」と言って、マクドナルドから出て行きました。
 30分くらいして明日美が戻ってきました。「何?用事って、、、」と聞きましたが、「うん、、、ちょっと、、、」と恥ずかしそうにしただけでした。
 でも、制服のポケットから封筒を出し千円札を数枚、財布へ入れています。「どしたん?、、、そのお金、、、」
 「うん、、、また話す。じゃ、、、うちは午後の授業行くし、雪子はどうする、先に帰る?」
 「……うん、待ちょうるわ。本屋にも行きたいし、キャラクターもんも見たいし。」さっきのお金が気になっていました。聞き出したいし。
 「うん、分かった。6時に終わるけん。塾で待ちょって。」明日美は、塾へと向かいました。

高速道路の走行音がうるさいくらい聞こえる、帰りのバスの中。
 「明日美、さっきのお金、、、どしたん?」
 「えっ、、、うん、、、お小遣い稼ぎ、、、、生パン。」
 「えっ、生パン?、、、何それ、、、」
 「大きい声、しちゃイケん、、、、穿いとるパンツ。」
 「……え、え~、、、、そ、それどうするん、、、」
 「お店に売るんよ、、、ブルセラ。大人のお店。」
 「……」
 「売る時に、穿いとるところ、、、スカート捲ってお尻突き出して、ポラロイド写真を撮るんよ。
  で、穿いとるパンツ脱いで渡して、ジップロックにそのパンツと撮った写真入れて、お店に並べるんじゃと、、、
 去年の夏から広島来ょうるんじゃけど、本通りの裏歩きょったら、声掛けられたんよ。『お小遣い稼ぎ、せん?』ゆうて、中年のおじさんに、、、
 胡散臭っ、援助交際かって思うたら、『一枚、3千円で。』ってゆうてんよ。何?3三千円って、、、…一枚って、、何?、、、『何ですかそれ?』って聞き返したんよ。
 興味津々の顔、しとったんじゃろうねぇ、、、、そしたら、『穿いとるパンツ。もし興味あったら、この店の電話番号へ掛けて来て。絶対にいかがわしい事はせんけぇ。』
 ほんでね、次の週はその店が見える所まで行ってみたんよ。離れたところにダイソーがあってそこに入って、遠巻きで、、、
 そしたらねぇ、、、お店の横隣の事務所みたいなところへ制服着た女子高生が入っていきょうるんよ。何人も、、、15分くらいで7,8人かな。
 頭のええ学校の制服や、市内5校の制服やら色々じゃった。そしたら前に声掛けてきちゃったおじさんが、その事務所から紙袋下げて、隣のお店に入っちゃったけぇ、、、嘘じゃないんじゃ、思うてそこで直ぐに電話した。
 着替えのパンツはあるか?ゆうてじゃけぇ、目の前のダイソーで買うて、横の事務所へ行って、、、3千円。とういう訳。」
私は唖然として聞いていました。
ようやく携帯電話が普及し始め、広島への塾通いという事で買って貰ったパカパカ携帯で早速調べました。
 そう言うものは以前から需要がある事。スカウトの様な人が別件で話しかけ、そう言うバイトもあるよと言う事。実際にそう言う事をしている人。
 「明日美、何でそういうことしようと思ったん、、、お小遣い足りんのん、、、家、苦しいん?ゴメン、失礼な事聞いた。ゴメン、、、」
 「貯金しょうるんよ。大学入学金やら授業料やら高いし、一人暮らしになろうし、全部が全部、家に頼るんよ~なぁし、、、
  洋服やら化粧品やらどうしても欲しゅうなるし、、、入学してからバイトすりゃええんじゃが、蓄えは持っときたいし、、、貯金ゆうても月1万くらいじゃし、、、」
 「うん。分かった。誰にも言わんけぇ、、、」
 そう明日美には言ったものの、もやもやしていました。

私は何故、こんなにもやもやしてるんだろうと考えました。
 明日美が良くない事をしている?...良くない事じゃ無い気がする。恥ずかしい事かも知れない。
 そう言う大人の性に関する事に関わってい?...男とはそういうもの。嫌いだけど仕方ない。
 女性として自分を売ってる?...直接身体を売っている訳じゃない。明日美は穢れていない。
 貯金する為、自分で稼いでいる。...正直、羨ましい。明日美の行動力と言うか突破力と言うか。

羨ましいんだ、私は明日美の事が。
 私と違って、頭は良いし、スポーツは出来るし、男子にはモテるし、告られても付き合ってもいないみたいだし、、、正直、当て付けか。と思う事もあるし、、、
 【嫉妬じゃん、、、妬みじゃん、、、僻んでるだけじゃん、、、、だって、、、、悔しいもん、、、】
 自分が自分で情けなくなりました。
 と同時に、”私も何かブレークスルーしたい”と、思いました。

「ねえ、明日美。例のパンツ売り、私もやりたい。紹介して。」
 翌週の土曜日、学習塾へ正式に入塾すると同時に、パンツ売りの少女としてもデビューする事にしました。

余談。
 高校3年生になろうかと言う頃、お店の人からこんな申し出がありました。
 「お客さんでねえ、、、聖水が欲しいって言う人がおってんじゃが今度、来てくれんかねぇ。」
 聖水。おしっこです。噂では聞いていました。ペットボトルとかに入れて持って行くと信用して貰えないそうです。誰のおしっこか分からないとかで。
 事務所でお客さんと直接会って、事務所のトイレで、持参して貰った水筒に入れるんだそうです。
 一人一万円ずつ、頂きました。ちょっと豪華なパフェを不二家で食べて、ゲーセン行って遊んで、半分は貯金しました。
 それから2,3回、売れました。いい思い出です。

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