デブへの憎しみ

 こんな最悪なタイトルをつけたが、私は体型なんて人それぞれでいいと思っている。本当だ。
 だけど中学と高校の頃に体格が豊かな人に傷つけられた気持ちが未だに残っていて、ふと憎しみとして表れる。いい加減この憎しみに穏やかな余生を送ってもらいたいので文章にしたためることにする。

 ちなみにデブと表記するのは私の憎しみの表れであり、ある一部分のふくよかな人のことを指す。それ以外のふくよかな人は気を悪くしないでいてくれると嬉しい。

 私は痩せている。とても痩せている。具体的に言うとBMIが16くらいだ。シンデレラ体重どころの話ではない。
 幼い頃から食事量の少ない子どもだった。そもそも食事で美味しいと感じるものが少なかった……ような気がする。幼い頃はそうじゃなかったかもしれない。とにかく、小学生までは体重が増える速さ以上に身長がめきめきと伸びていたので、人生で適正体重を上回ったことはほとんどないと思う。多分ない。
 平成生まれの私は「痩せているのはいいこと」という価値観の中で育ち、確かに自分の細い体を誇りに思っていた。親には心配されたし、親戚や友達のお母さんに「もっと食べなさい」と言われはしたが、それは子供に対する愛情表現の一環だった。「遠慮しないで好きなだけ食べていいんだからね」という意味合いだった。

 それが変わったのは中学校の時だ。
 小学校高学年か中学校に入ったあたりで母が「食べないのは自分のせい」「他のものを食べたければ自分で用意しろ」と言うようになった。言わんとすることはわかる。弁当を用意してあげているのに、当事者意識のない娘が味に文句をつけてくるのは腹が立つだろう。その気持ちと「もういい歳なんだから自分で自分の事はできるだろう」という考えが母親から心配を失わせたわけである。
 しかし残念ながら食に興味が薄い私の場合、料理も買い物もできるけどそうまでして食べる意味がわからず、痩せていった。

 高校の時の私の食生活はこうだ。

 朝:なし。たまにシリアル。
 昼:渡された500円で買える何かを食べる。カップ焼きそばか学食のラーメン、または菓子パン。学食で手に入るものに「お腹にたまる美味しそうなもの」はないので「お腹にたまらない美味しそうなもの」を選ぶ。
 夜:白米茶碗一杯、スープ、おかず(家族で共有、食べなくてもバレないので、白米を食べきったら食事を終了する)

 それで私に対して「なんでそんなに痩せてるの?」って言われたって「ご飯食べてないからだよ」としか言いようがない。
 私が痩せているのは母親が私の食事をまともに用意してくれないからだと感じていたので、この会話自体が屈辱的だった。
 美味しいご飯を食べられる人が、私にむかって「痩せてていいなぁ、私は太ってるからさ」と言ってくるのだ。ムカつくことこの上ない。
 そう思ってるのに世の中には痩せていて困っている人なんてものはいないことにされているので、「そんなことないよ」って声をかけなければいけない。

 当時から母親も大変なんだということはわかっていた。高校生ともなれば料理も作れるというのもわかる。母が毒親だったなどとと言う気は今となってはない。
 ただ私が「食事が嫌い」という特性を持ったまま高校にちゃんと行き、勉強し、遊び、友達を作るには母の補助は全くもって足りていなかった。
 母は私に同級生と同じように国立大学へ進学してほしいと望んだが、それを叶えたければもっと母親に犠牲になってもらわないといけなかった。私は「これ以上は無理」という感覚によってそれに気付いていたけれど、母はそのSOSを勘違いだと断じた。母は淡々と勉強できる人だったし、食事が好きだから理解が得られなかった。

 そういうわけでデブが憎い。
 見た目がコンプレックスだとかいうしょうもない理由で「痩せてていいね」とか軽々しく口にして私に嫌なことを思い出させてくるデブが憎い。
 動けないほどに腹が減ったことはあるか。朝昼を食べずにめまいを抱えて1日過ごしたことはあるか。空腹で血を吐いたことはあるか。食べたくもないものを腹に詰め込んだことはあるか。
 そんな苦労もしたことないデブが憎い。
 自分は「容姿について言われるのつらい」とか言うくせに平気で私に「痩せすぎだよもっと食べなよ」とか言ってくるデブが憎い。

 ねえわかってるでしょ!今令和だよ!あなたをデブなんていうやつなんていないよ!デブだって言われたっていう少数の子たちにシンパシー感じてるだけだよ!もうあなたしかあなたの体型を気にしてないって気づいてるでしょ!
 あとこれは悪口なんだけどデブじゃなくなったところで頭がデカいのと脚が短いのは変わんないよ!体型は天与のものなんだよ!

 これがわからない人とは分かり合えないだろうと思う。でも、これが分からない人は多分今まさにコンプレックスに雁字搦めで苦しんでいるんだろう。本質的に私は理解することができない。人生で一回たりとも太ってると言われたことがないからだ。
 私は他人の体型を気にする人なんていないでしょと本気で思っているけど、私はふくよかな身体に向けられる視線を知らない。ふくよかな子たちが口を揃えて「ダイエットしたいんだけどな」と言うのが、自虐することで自分を守っているのか、本気でそうすべきだと思っているのかがわからない。

 わたしは痩せすぎと言われるのは本気で嫌だ。食べろと言われても「食べられないんだよ!」と思うし、上記の高校あたりの最悪な日々を思い出してしまう。今もまだ食事量は悩みのたねで、どちらかというと活動量を減らすことでバランスを保っている。
 だからこそ太っている人を傷つけたいわけではない。食事はどうしようもない。体型もどうしようもない。どうにかできる人はそういう才能があるだけ。

 この話を読んだ人がいたら痩せている人間も苦労しているということを覚えておいてもらえればと思います。あと体型について言及するのはいついかなるときも最悪だということも。

 なんでこんなに憎いのかは理解できたけど正直全然憎しみ消えなかったな。
 おやすみなさい。

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