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選挙妨害

東京15区の選挙妨害の話を聞く。あってはならないことだと思っている。

新聞には取り上げられているところ、テレビ公式のYoutubeチャンネルには見当たらない。テレビはこの話題を取り上げているのだろうか。

札幌地裁や札幌高裁の判決によって、警察の対応が及び腰になっているのではないかという意見も見た。

これら、選挙妨害についてまとめることとした。

なお、法の専門家ではないので、正確性に欠ける素人の感想と捉えてほしい。正確性を求める場合は紹介サイトや紹介書籍や紹介裁判例、さらに正確性を望むなら弁護士への相談などで補完してほしい。


情報源

新聞報道

前記のとおり、新聞の取り上げはある。新聞記事を中心に、記事の発表順に取り上げておく。まとめた結果、産経系列、時事通信、日刊スポーツと、限られた取り上げ方だった。

ネット情報

当方の登録チャンネルでの取り上げも併せて示しておく。

関係する過去の裁判と私見

最高裁第二小判昭和23年12月24日

大阪高裁だと思っていたところ、最高裁だった。

 論旨は、原判示第一の事実に関して、原判決が被告人の所為を選挙妨害の程度と認定したことを非難している。しかし原判決がその挙示の証拠によつて認定したところによれば、被告人は、市長候補者の政見発表演説会の会場入口に於て、応援弁士B及びCの演説に対し大声に反駁怒号し、弁士の論旨の徹底を妨げ、さらに被告人を制止しようとして出て来た応援弁士Aと口論の末、罵声を浴せ、同人を引倒し、手拳を以てその前額部を殴打し、全聴衆の耳目を一時被告人に集中させたというのであるから、原判決がこれを以て、衆議院議員選挙法第一一五条第二号(原判決文に「第一号」とあるのは、「第二号」の誤記であること明かである)に規定する選挙に関し演説を妨害したものに該当するものと判断したのは相当であつて、所論のような誤りはない。仮りに所論のように演説自体が継続せられたとしても、挙示の証拠によつて明かなように、聴衆がこれを聴き取ることを不可能又は困難ならしめるような所為があつた以上、これはやはり演説の妨害である。又被告人の行為の原因や意思が所論の通りであつたとしても、演説妨害の行為があつた以上その責任を問われるのは当然である。更らに被告人の選挙権停止を附随する罰則を適用した原判決を不当とするのは、結局量刑不当の主張に帰するから、適法な上告理由とはならない。

最高裁第二小判昭和23年12月24日、昭和23(れ)1324

暴力的な行為は応援弁士Aだけに行われている。演説を行った市長候補者や応援弁士BCに暴力的な行為を行った事実はない。それでもなお、選挙妨害と判断されている。演説をする者が直接的暴力的に演説を妨害されたという状況がなくとも、選挙妨害は成立するといえる。

一番のポイントとなるのは「……演説自体が継続せられたとしても、……聴衆がこれを聴き取ることを不可能又は困難ならしめるような所為があつた以上、これはやはり演説の妨害である。……」という部分だと思う。

仮に演説が継続していても、その演説を「聴衆が聴き取ることを不可能又は困難ならしめるような所為」があれば、選挙妨害は成立する。この考えは「全聴衆の耳目を一時被告人に集中させた」という部分にも表れていると思う。直接的暴力的な妨害を選挙妨害の主要素と考えるなら、この一文は現れなかったと思う。

つまり、選挙妨害とは、演説をする側の権利を保護するものというよりは、演説を聴く側の権利を保護するものと捉えるのが適切に思う。知る権利、選挙参加の権利、選挙の公平性、こういったものを保護するためのものと捉えるのが適切に思う。

上記が、過去につぶやいた以下の内容を掘り下げたものとなる。過去のつぶやきには誤って大阪高裁と書いてしまっている。

札幌地判令和4年3月25日

札幌における参議院議員候補者の応援に安倍元総理が訪れ、応援演説をしているとき、野次を飛ばした者がいる。野次を問題視され、警察に行動が妨害されたことを不服とし、国家賠償請求訴訟を起こした地裁の裁判。原告勝訴となっている。
(訂正:野次で行動が妨害……→野次を問題視され、警察に行動を妨害)

判決文を読んで違和感があるのは、前項「聴衆が聴き取ることを不可能又は困難ならしめるような所為」という意味での選挙妨害が争点となっていない点。

原告も被告も、「演説者や聴衆に対する有形力の行使」という意味での選挙妨害、その前提で警察官職務執行法の要件を充足しているかという点が争点となっている。一部抜粋する。

まずは警察側の主張。

第3 争点に対する当事者の主張
1 争点(1)(本件行為1(1)の適法性)について
(被告の主張)
(1) 警職法4条1項の要件充足性
 当時、周囲の聴衆からは原告1に対する怒号が上がるなどしており、また、実際に、自撮り棒を持つ男性が原告1を拳で押していたのであって、原告1及び聴衆に対する「生命若しくは身体」に危険を及ぼすおそれのある「危険な事態」があった。
 そして、直ちに原告1を聴衆の中から避難させなければ、原告1及び聴衆に対する危害を回避することはできなかったのであるから、「特に急を要する場合」にもあった。
 したがって、「危害を受ける虞のある者」である原告1に対し、必要最小限度の有形力を用いて、聴衆の中(地点1)から安全な場所(地点2)まで避難させた警察官らの措置は、警職法4条1項の要件を充足しており、適法であった。
(2) 警職法5条の要件充足性
 原告1は罵声を上げるために強硬な姿勢を示しており、また原告1と周囲の聴衆との間でもめ事が生じることも予想された。したがって、原告1がわずかな身体接触等を契機に暴行、傷害等の犯罪に及ぶ可能性が認められたのであって、警察官らは「犯罪がまさに行われようとするのを認めた」ものであった。そして、原告1は警察官の警告を無視したものであり、直ちに原告1を制止しなければならない「急を要する場合」にもあった。したがって、原告1による犯罪の制止を目的として、必要最小限度の有形力を用いて原告1を移動させた警察官らの措置は、警職法5条の要件を充足しており、適法であった。

札幌地判令和4年3月25日、令和1(ワ)2369 p.6~7

そして拘束された側の主張。2名のうち、抜粋は原告1のみに留めた。

第3 争点に対する当事者の主張
1 争点(1)(本件行為1(1)の適法性)について
……
(原告1の主張)
(1) 警職法4条1項の要件充足性について
 撮影された動画からも明らかなとおり、当時、周囲の聴衆から反発の声はなく、小競り合いもなかったのであって、犯罪行為が発生するような緊迫した状況にはなかった。また、男性が原告1を拳で押したという事実は存在しなかった。そして、原告1に危険な事態など発生しておらず、強制的措置を講じなければ危害を避けられないほどの「特に急を要する場合」にもなかった。したがって、本件行為1(1)は、警職法4条1項の要件を充足しておらず、違法な行為であった。なお、仮に原告1が聴衆から危害を加えられそうな状況にあったのであれば、そのような聴衆に警告したり、間に割って入ったりすれば十分であって、警察官らのした行為は必要な限度の実力行使を超えるものであり、本件行為1(1)はこの点でも違法であった。
(2) 警職法5条の要件充足性について
 上記(1)のとおり、原告1は聴衆との小競り合いなど生じさせておらず、ただ声を上げていただけであって、聴衆の生命・身体に危険が及ぶという現実の危険性は全く生じていなかった。したがって、本件行為1(1)は、警職法5条の要件を充足しておらず、違法な行為であった。なお、警察官らは、原告1に対し、何らの警告もせずに複数人で排除行為に及んだものであり、必要な限度の実力行使を超えるものであって、本件行為1(1)はこの点でも違法であった。

札幌地判令和4年3月25日、令和1(ワ)2369 p.7

上記の中には「『生命若しくは身体』に危険を及ぼすおそれ」「暴行、傷害等の犯罪に及ぶ可能性」「小競り合いもなかった」「聴衆の生命・身体に危険が及ぶという現実の危険性」といったキーワードが並ぶ。これらが観点が争点となっていることが分かる。

逆に、原告は「ただ声を上げていただけ」ということを問題としていない。そしてそれを被告も問題とせず、争点にもなっていない。「ただ声を上げていただけ」であっても、その音量や時間次第で「聴衆が聴き取ることを不可能又は困難ならしめるような所為」となり得る。そうであれば、前記の判例にもとづけば選挙妨害となり得ると思う。「ただ声を上げていただけ」を以って選挙妨害だとする観点が、原告被告双方にない。この点を疑問に感じる。

その結果、以下のような判断となっている。

第4 当裁判所の判断
……
4 争点(3)(本件行為1(3)の適法性)について
……
2) しかし、上記認定のとおり、警察官らは原告1を地点7まで移動させた後、原告1に対し、「演説してるから、それ邪魔しちゃだめだよ。」、「選挙の自由妨害する。」などと発言していたものである(上記1(3)カ)。これらの発言からは、警察官らは、原告1が物を投げたり、直接危害を加えたりする危険性を感じたために原告1を地点7まで移動させたのではなく、単に、原告1の発言が演説の「邪魔」になり、「選挙の自由」を「妨害する」ものであると考えたために、街頭演説の現場から排除しようと移動させたのではないかと疑わざるを得ない。
……
……、本件行為1(3)が警職法5条の要件を充足するとの被告の上記主張は採用することができない。
 
したがって、本件行為1(3)における有形力の行使は、国家賠償法1条1 項の適用上、違法といわざるを得ない。

札幌地判令和4年3月25日、令和1(ワ)2369 p.30

第4 当裁判所の判断
……
(1) 警職法4条1項の要件充足性について
……
イ しかし、上記認定のとおり、警察官らは後に、原告2から「あそこで急にさ、取り押さえられて」などと言われた際、直ちに「だっていきなり声上げたじゃーん。」、「急に大声上げたじゃん。」と発言し、もって原告2が声を上げたために原告2をつかんで移動させたと述べていたものである。
 しかも、警察官らは、「法律に引っかかってるとかじゃなくて、みんなの……」、「みんな聞きたい人がいるからさ。聞きたい人にとって、大声出されたら聞きたいこと聞けなくなっちゃうっしょ、ね。」などと発言し、もって、原告2の行為は法律に抵触するものではなく、ただ原告2の大声により周囲の聴衆が演説を聞けないことになるとして、その行為を正当化していたものである(上記1(4)ウ)。これらの発言からは、警察官らは、暴行、傷害等の犯罪が発生する危険を認めて原告2の肩や腕をつかんで移動させたのではなく、単に、原告2が街頭演説に際して大声を上げ、もって聴衆が「聞きたいこと聞けなくなっちゃう」ために、原告2を街頭演説の現場から排除したにすぎないのではないかと疑わざるを得ない。

札幌地判令和4年3月25日、令和1(ワ)2369 p.31

ここにあるように、演説を聴きたい人が聴けなくなることを「法律に抵触するものではなく」と認定している。これは前節に示した「聴衆が聴き取ることを不可能又は困難ならしめるような所為」を選挙妨害だとすることに相反する司法判断、最高裁判例を無視する司法判断だと思う。

とはいうものの……

よく考えると、警察が「聴衆が聴き取ることを不可能又は困難ならしめるような所為」を理由とした選挙妨害を争点としなかったことも分からなくはない。その理由は警察官職務執行法にある。

裁判で争点としていたのは警察官職務執行法4条1項と5条。4条1項は危害を受ける者の避難等の措置。5条は犯罪の予防と制止。これらの適用の適法性が問われていた。

先に、条文がより簡潔な5条を示す。

(犯罪の予防及び制止)
第五条 警察官は、犯罪がまさに行われようとするのを認めたときは、その予防のため関係者に必要な警告を発し、又、もしその行為により人の生命若しくは身体に危険が及び、又は財産に重大な損害を受ける虞があつて、急を要する場合においては、その行為を制止することができる。

警察官職務執行法5条

この条文の要素は以下に分けられる。
① 犯罪がまさに行われようとしているか
② 警告が事前に行われたか
③ 侵害が、生命、身体、財産に及ぶか
 ③ー補 財産の場合、それは重大な損害となるか
④ 急を要するか

このうち③に問題がある。「聴衆が聴き取ることを不可能又は困難ならしめるような所為」という態様の選挙妨害では、侵害が生命や身体や財産に及ばない。そのため、警察官職務執行法5条を根拠に犯罪の予防や制止を行えないということではないだろうか。

ここには①も絡むと思う。侵害が生命や身体に及ぶ態様の犯罪の場合、犯罪がまさに行われようとしているかの判断は分かりやすい。侵害が財産に及ぶ態様の犯罪も、それほど難しい判断ではない。重大と言えるかという観点は難しいかもしれない。

しかし、「聴衆が聴き取ることを不可能又は困難ならしめるような所為」という態様の選挙妨害を考えた場合に、どの程度であれば「聴衆が聴き取ることを不可能又は困難ならしめる」といえるか、ここはそれほど明白でないようにも思う。

ただ、一番の問題は③の部分だと思う。

②④は問題にならないと思う。②は事前警告を行うだけで満たされる。④について。選挙演説は時間が限られている。選挙妨害によって選挙演説時間が過ぎてしまえば被害は回復しようもない。そのような性質を考えれば、犯罪の制止には急を要するだろう。

4条1項も示しておく。

(避難等の措置)
第四条 警察官は、人の生命若しくは身体に危険を及ぼし、又は財産に重大な損害を及ぼす虞のある天災、事変、工作物の損壊、交通事故、危険物の爆発、狂犬、奔馬の類等の出現、極端な雑踏等危険な事態がある場合においては、その場に居合わせた者、その事物の管理者その他関係者に必要な警告を発し、及び特に急を要する場合においては、危害を受ける虞のある者に対し、その場の危害を避けしめるために必要な限度でこれを引き留め、若しくは避難させ、又はその場に居合わせた者、その事物の管理者その他関係者に対し、危害防止のため通常必要と認められる措置をとることを命じ、又は自らその措置をとることができる。

警察官職務執行法4条1項

その場に居合わせたものと管理者が併記されており、危害を受けるおそれのある者が別に規定されているなど、やや構成が複雑ではある。ただし5条に示した③の観点は変わらない。つまりこの措置をとることができるケースは、侵害が生命や身体や財産に及ぶ場合に限るとなっている。

「聴衆が聴き取ることを不可能又は困難ならしめるような所為」という態様の選挙妨害では、被害を受けるのは多数になる。大勢の民衆を妨害者から避難させることは現実的でない。5条をベースに考えるのが適切であろうことから、4条1項に手を入れる必要はないと思う。

札幌高判令和5年6月22日

前項の裁判の控訴審。裁判例検索ではこの裁判例は出てこない模様。

国賠の原告サイドの人が判決文PDFを公開しているので見てみた。ただし、原告サイドの人であり当方とは立場を異にする人であるため、PDFの場所は記さないこととした。

双方の主張、その争点はほぼ原審と同じ。ただし、事実認定の部分で原審とは異なる結果となり、原告1は敗訴になっている。原告2の勝訴は変わらず。

聴衆のひとりが動画撮影をしていたところ、原告1による繰り返した大声によって撮影が妨害されたことをきっかけに、その聴衆が原告1に軽めの暴力行為を行っていると事実認定されている。ここから揉め事への発展、原告1が暴行等を受ける具体的かつ現実的な危険性が逼迫している、つまり4条1項にいう「特に急を要する場合」に相当すると認定されている。その結果、警察の行動を適法と判断している。

ただしその適法の根拠となっているのは、あくまで揉め事に発展しそうな様相という点である。「聴衆が聴き取ることを不可能又は困難ならしめるような所為」という態様の選挙妨害が根拠となったわけではない。

地裁の判決文と比して、法的判断が何か変わったわけではない。単に事実認定が変わったことによって、原告1に対する警察の違法性が否定されたに過ぎない。そう考えると、とくに見るべきところはなかった。

今回の報道となった騒動の事情

上記の裁判は、演説者に異の意見を持つ一般国民だった。

今回、東京15区における騒動は、上記の裁判と異なり、騒動を起こした者が演説者とは別の候補者らしい。妨害者が言論の自由や選挙の自由を盾に、他の候補者を妨害しているという構図だろう。

選挙妨害を演説を聴く側の権利に依拠すると捉えたい。そうすれば妨害者が候補者であろうがなかろうが、「聴衆が聴き取ることを不可能又は困難ならしめるような所為」である限りは、選挙妨害といえると思う。

まとめ

制止手段

札幌での2つの裁判よりも後に、暴力的な選挙妨害がある。2つの銃撃事件である。札幌の裁判結果によって警察の動きが鈍っているという印象を受ける。

途中にも書いたところ、選挙演説は短時間のため、妨害を即座にやめさせる手段を講じない限り、簡単に目的を遂げることができてしまう。妨害を即座にやめさせるには、逮捕または警察官職務執行法による避難措置(4条1項)あるいは制止(5条)、いずれかが必要な気がする。

ただし、上に記した裁判の内容にあるとおり、警察官職務執行法による避難措置(4条1項)あるいは制止(5条)には期待できないところがある。

現行法ベースで考えれば……

「聴衆が聴き取ることを不可能又は困難ならしめるような所為」の選挙妨害を確認した聴衆のひとりが、現行犯逮捕を宣言して私人逮捕を試みる。それを見た警察が、揉め事に移行する可能性が高いと判断して、警察官職務執行法4条1項に基づく避難措置を行う。場合によっては、揉め事当事者双方を傷害容疑で逮捕する。こういった対応でいいような気もする。

あるいは、警察が積極的に動けるような法改正か運用確認だろうか……

「聴衆が聴き取ることを不可能又は困難ならしめるような所為」の選挙妨害を適用可能とするような警察官職務執行法5条の改正。「聴衆が聴き取ることを不可能又は困難ならしめるような所為」の選挙妨害を逮捕するための基準制定。これらによって、警察が積極的に動いてほしいと思う。

意見を異とする者への対応

妨害を受けた者のなかには、個人的に、意見の合わない候補者もいる。だからといって、妨害を受けたことを「ざまあ見ろ」的視点で見るつもりはない。

当方は当の選挙民でない。選挙民の判断、選挙の結果で決められるべきものと思う。その意味では部外者ではある。ただ、日本における選挙が妨害によって歪められることがないようにと願っている。


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