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道路交通法38条の沿革

道路交通法38条の立法および改正の経緯を確認した。このまとめは、過去に記した以下の記事の観点に絡む。

上記の話題の中で、道交法38条1項と2項の、改正経緯の観点の意見を聞いた。その意見者の意見を要約すると、以下のようなものであった。

以下、道路交通法を単に法と略記する。

法38条1項は当初、道路の左側の歩行者に対してだけ一時停止義務が課せられていた。その後に法38条1項が反対車線を含むように法改正されている。そのため、法38条2項も反対車線を含む解釈になるのが自然。

これを受けて、法38条1項と2項を中心に、法38条の改正経緯を確認し、記事にまとめることとした。

なお、交通法規の専門家ではないので、正確性は国会会議録や紹介書籍や裁判例検索サイト、さらに正確性を望むなら弁護士相談やお知り合いの警察官との会話などで補完してほしい。


1960年(昭和35年)、第34回国会

新法、道路交通法の制定である。道路交通取締法と同法施行令を廃止し、代わりに道路交通法を新たに制定している。

参照情報

改正内容

このときの法38条は、横断歩道とは関係ない。交差点における歩行者の通行を妨げてはならない義務が制定されている。

(歩行者の保護)
第38条 車両等は、交通整理の行なわれている交差点で左折し、又は右折するときは、信号機の表示する信号又は警察官の手信号等に従って道路を横断している歩行者の通行を妨げてはならない。
2 車両等は、交通整理の行われていない交差点又はその附近において歩行者が道路を横断しているときは、その歩行者の通行を妨げてはならない。

第34回国会 参議院 地方行政委員会 第4号 昭和35年2月18日
p.14

それでは横断歩道上の歩行者に対する保護はどうなっているか。それは、法71条1項3号に規定されている。ちょうど現行の法38条1項後段に近い。ただし、保護対象は横断中の歩行者に限られており、横断しようとする歩行者は含まれない。また、一時停止でなく徐行でもよいとされている。通行妨害禁止規定はこの頃からある。

(運転者の遵守事項)
第71条 車両等の運転者は、車両等を運転するときは、第64条から第66条まで及び前3条に定めるもののほか、次の各号に掲げる事項を守らなければならない。
三 歩行者が横断歩道を通行しているときは、一時停止し、又は徐行して、その通行を妨げないようにすること

第34回国会 参議院 地方行政委員会 第4号 昭和35年2月18日
p.17

国会会議録抜粋

 この法律案は、現行の道路交通取締法及び同法施行令を廃止し、新たに道路交通法を制定しようとするものであります。
 現行の道路交通取締法は、昭和二十二年に制定され、以来、数次の部分的な改正を加えられて今日に至っているものでありますが、この間わが国における交通事情は、自動車の急激な発達、普及及び増加に伴い、まことに著しく変化し、特に最近における大都市の道路交通は、同法制定当時と比較しますと、異常なまでに発展、変貌を遂げ、しかも、近い将来におきましては、さらに一そうの複雑と困難が加わることが予想される状況であります。このような実情に対し、現行法令の規定では、すでに、種々の点で不十分なことが痛感されるのみならず、今後の交通事情の変化には、とうてい対処し得ないものと判断されるに至りましたので、今回同法及び同法施行令について全面的に検討を加え、新しい時代に即応した道路交通の基本法としてこの法律案を立案いたしたものであります。  この法律案は、現行法令と比較して、相当広い範囲にわたって規定の整備、新設をいたしておりますが、その重要な点は、次の通りであります。
……
 第四は、歩行者の通行に関する規定を整備するとともに、歩行者の保護の徹底をはかったことであります。歩行者の通行につきましては、特に一章を設けまして、その通行方法の基本を明らかにしますとともに、これらの規定には、原則として罰則を付さず、違反者に対しては、警察官が必要な指示を行なうことといたしました。また、車両等の交通方法に関する規定において歩行者の通行の保護をはかることといたしました

第34回国会 参議院 地方行政委員会 第4号 昭和35年2月18日
004 石原幹市郎

 ただいま提案理由の説明のございました道路交通法案の内容につきまして、さらに補足して御説明申し上げます。
 この法案は、八章百二十四条と附則二十条からなっております。
……
 第三十八条は、交差点において道路を横断している歩行者の保護について規定したものでありますが、規定内容を整備して、歩行者の保護の徹底をはかることといたしました。
……
 第六十八条から第七十一条までは、車両等の運転者の最高速度及び最低速度を遵守すべき義務、安全運転を行なうべき義務並びにその他の一般的な遵守事項について規定したものでありまして、現行規定と同様の趣旨のものでありますが、第六十九条は、第二十四条の規定に対応して、最低速度の遵守について規定したものでありまして、新設の規定であります。

第34回国会 参議院 地方行政委員会 第4号 昭和35年2月18日
006 柏村信男

1963年(昭和38年)、第43回国会

現行の法38条1項後段、横断歩道上に歩行者がいる場合の一時停止義務化は、第43回国会で成立した。当時は法71条1項3号となっており、この改正前は、歩行者の通行を妨げない方法は徐行でも構わないものとなっていた。

参照情報

改正内容

第71条……、同条第3号を次のように改める。

三 歩行者が横断歩道により道路の左側部分(当該道路が一方通行となっているときは、当該道路)を横断し、又は横断しようとしているときは、当該横断歩道の直前で一時停止し、かつ、その通行を妨げないようにすること。

第43回国会 参議院 地方行政委員会 第8号 昭和38年2月26日
p.4 2段目

新旧比較すると、一時停止義務化されているほか、横断中に限らず横断しようとする歩行者も保護対象としている。ただし、反対車線側から横断しようとする歩行者を含まず、道路の左側部分だけを対象としている。

(旧)
歩行者が横断歩道を通行しているときは、一時停止し、又は徐行して、その通行を妨げないようにすること。

(新)
歩行者が横断歩道により道路の左側部分(当該道路が一方通行となっているときは、当該道路)を横断し、又は横断しようとしているときは、当該横断歩道の直前で一時停止し、かつ、その通行を妨げないようにすること。

国会会議録抜粋

 道路交通法においては、歩行者の保護についても相当な配慮をいたしているのでありますが、最近の道路交通事情の著しい変化にかんがみますと、さらに、その保護の徹底をはかる必要のあることが痛感されるのであります。このため、未舗装道路においても、必要な個所には横断歩道を設けることができることとし、また、横断歩道における歩行者の通行の安全のために車両等の運転者に対して、横断歩道の直前で一時停止し、歩行者の通行を妨げてはならないことを義務づけ、さらに、政令で定める程度の身体の障害のある者にも白色に塗ったつえを携えて通行することを認めることにより、歩行者保護の徹底をはかることといたしております。

第43回国会 参議院 地方行政委員会 第8号 昭和38年2月26日
002 篠田弘作

次に、第七十一条第三号の改正規定についてであります。
 現行規定においては車両等の運転者は、横断歩道を通行する歩行者の通行を妨げてはならないと規定されておりますので、歩行者の通行の保護は一応はかられているのでありますが、その方法として、一時停止または徐行のいずれの方法であってもよいこととされており、また停止すべき位置も不明確でありますため、歩行者保護を期する点においてはなお不十分であります。
 最近における交通量の著しい増加にかんがみまして、さらに歩行者の保護の徹底をはかる必要が痛感されますので、この規定を改め、歩行者が道路の左側の横断歩道を通行し、または通行しようとしているときは、車両等の運転者は、横断歩道の直前で一時停止し、歩行者の通行を妨げてはならないこととしようとするものであります。

第43回国会 参議院 地方行政委員会 第8号 昭和38年2月26日
004 柏村信雄

補足:「道路の左側部分」について(1)


国会会議録には以下の内容が残っている。

 今までの現行法規で申し上げますと、これは単路の場合、単路といいますと、交差点じゃない途中の横断歩道でございますが、その場合には一時停止または徐行して歩行者の通行を妨げてはならないというふうになっておるわけでございます。今度の改正案では、横断歩道全部といっても、これはなかなか実情は無理でございますので、横断歩道の中央部分から左の方、つまり自動車からいいますと進行方向になりますが、その横断歩道上に歩行者がおり、また通行しようとしておる場合においては、横断歩道の直前、今までは場所がはっきりしていなかったわけです。「一時停止し、又は徐行」であったのを必ず「横断歩道の直前で一時停止」する、徐行はいけない。一時停止をして、それから通行を妨げないようにしなければいけないというふうにして歩行者の保護をはかる。これはただし横断歩道上だけのことであります。ですから、横断歩道のまん中から向こう側の部分のときには、これは差しつかえないわけです。横断歩道の中央から左というふうに限定いたして、その場合には横断歩道の直前で一時停止というふうにいたしておるのでございます。

第43回国会 衆議院 地方行政委員会 第16号 昭和38年3月15日
051 冨永誠実

「なかなか無理」と記されている。甘い基準ではないかと思うかもしれない。これにはふたつの理由があると思う。そのうちのひとつをこの節に記す。残りの理由は「『道路の左側部分』について(3)」に記す。

国会会議録を見たところ、標識や標示が分かりにくく、横断歩道の手前に予告を表す菱形マークがないこと、横断歩道手前に停止線が引かれていないことも多く、横断歩道内のゼブラが引いていないことすらあるといったように、そこに横断歩道が存在するということが今ほど明確でなかったという事情があるように見える。これが理由にあるように見える。

横断歩道の存在を認識しやすくするという話は、法38条1項前段が制定されてからも引き続き、会議録に記されている。

上で示した困難な理由を示すと思われる会議録、そして、横断歩道の存在を認識しやすいようにという試みを示すと思われる会議録を抜粋していく。この節の法改正が1963年(昭和38年)だということを念頭に、いつの会議録なのかを気にしながら見ていただきたい。

◆標識や標示

この節の法改正の4年後の会議録より。法38条2項の新設に対する討議内容。標識や標示が分かりにくいという説明が行われている。

 以上が一般的な道交法に対する私どもの見方でございますが、次に、今度の改正案の問題点を指摘してみたいと思います。
 一つは、改正案にあります横断歩行者の徹底した保護規定を強化していることでありますが、趣旨にはたいへん賛成であります。ただし、先ほども言いましたように、横断歩道のためにとまっておるのかどうかわからないというのが今日の道路現状であります。それは横断歩道等の標識や指示標識その他が不明確でありますから、何でとまっておるかわからないという事態もしばしばだと思います。その際に、いたずらに今度の改正のように罰則だけ強化しましても、実効が伴わないのではないか。むしろ横断歩道であるという標識等の明示等がたいへん必要ではないかと思います。

第55回国会 衆議院 地方行政委員会 第29号 昭和42年6月30日
011 甲斐国三郎

 法律の改正の第一条の点でございますけれども、横断歩道の前で一時停止しなければならない、しかも側方から通過してその前方に出てはならないという規定でございます。私これは当然だとは思いますが、こまかく申しますと、先ほどからもお話がございましたように、横断歩道の位置が必ずしもはっきりわかってない場合が非常に多いのでございます。特に地方都市になりますとそういうこともございますし、東京の町が、ショーウインドーはきわめて明るいのでございますが、ということは、道路が暗いということになりまして、横断歩道がどこにあるのか、なぜ前の車がとまっているのかを注意するということのために、私どもたいへん当惑することがございます。それは車を持っている者の当然の義務だといえばそれまででございますけれども、自動車時代に、自動車が十分な能率を発揮して走ることが、私どもの経済生活あるいは日本の経済成長、能率的な生活上必要なことでございますので、私は希望といたしましては横断歩道に明るい燭光の電気をつけてほしいということと、横断歩道のマークが白いものが消えてしまっている、雨に打たれて消えているという例がかなりございますので、そういう点で施設を十分にしていただきたいと思います

第55回国会 衆議院 地方行政委員会 第29号 昭和42年6月30日
015 今野源八郎

発言順序は前後するところ、対策はいろいろ講じられている様子。

 なお、そのほかに、横断歩道につきましては、もう少し遠くから標識がドライバーに見えるようにということで、この標識の改良も考えております。最近東京でもお見かけになると思いますけれども、オーバー・ハングの灯火式の標識ですね。大きな、遠くからでもドライバーに見えるような標識、横断歩道については気をつけろ、ここに横断歩道がありますよということのしるしを遠くから目立たせるということで標識の改良も漸次やってまいりたいというふうに考えております。なるべく目立ちやすくし、また、設置の状況がきわめて不ぐあいであるということにつきましては、常時協議いたしまして、いつでも見やすいような立て方に変更するというような事実上の措置も講じながら、いろいろな観点から目立ちやすい道路標識ということを常に心がけておる次第でございます。

第55回国会 参議院 産業公害及び交通対策特別委員会 第10号 昭和42年6月21日
027 鈴木光一

◆菱形マーク

この節の法改正の2年後の会議録より。横断歩道の手前に予告を設けるという構想は、かなり初期からあったようだ。

御質問の前段にありました横断歩道の明確な標示の問題でございます。この点につきましては先ほどもお答え申し上げましたように、歩行者にはもちろんでございますが、横断歩道をはっきり運転者にも知らせるという考え方から、信号機のないところの横断歩道につきましては、特に道路標示におきまして明確な横断歩道の標示をする、御承知のようにゼブラ型の色彩がありますが、あれをつけて、しかも前方から横断歩道があるぞという予告線を引いていくという考え方で、現在そういう方向に改めてまいりたいということと同時に、御指摘のありましたように、特に夜間等におきまして——昼間はそれで間に合うかと思いますけれども、夜間の場合には非常に不明確だという問題もございますので、横断歩道を夜間よくわかるように標示することにつきましてただいま検討しておりまして、神奈川県で一部つけたと思いますが、だんだんそういうものをつけてまいりたいと存じております。

第48回国会 衆議院 地方行政委員会 第37号 昭和40年5月17日
028 鈴木光一

この節の法改正の4年後の会議録より。横断歩道手前の追い越しは第30条第3号で禁止されており、横断歩道手前に追越し禁止の黄色線を引くことによって、横断歩道の予告を兼ねるというのが初期の構想だったらしい。

……、なお、いまのお話のように急にとまれないという問題もございますので、現在横断歩道の前三十メートル以内では追い越してはいけないという規定がございまして、その三十メートル以内の部分につきまして黄色い線で追い越し禁止の標示をしておるわけでございますが、これがかねて横断歩道の予告の線ということにいたしまして、黄色い線の引いてあるところに入りますれば、いつでもとまれるような状態で徐行するという仕組みにしておる次第でございますが、……

第55回国会 衆議院 地方行政委員会 第30号 昭和42年7月4日
068 鈴木光一

この節の法改正の9年後の会議録より。ここになってようやく、菱形マークが「最近目につく」と表現されるようになってきた。現行法における法38条1項前段、安全速度接近義務が規定されたのはこの前年、1971年(昭和46年)であり、この規定が設けられるのと前後して、菱形マークが設置されるようになったと読み取れる。

そこで、最近目につくのは、横断歩道がある少し前に何かひし形のマークつけました。あれ、私はたいへんいいと思います。いままで私も車に乗っていて一番心配なのは、こっちが正しい運転をしていても、いつうしろから追突をされないか、これが一番心配なんです。そうしますと、今度の横断歩道の前にひし形のマークをつけたのはとってもいいと思うんです。

第68回国会 参議院 地方行政委員会 第15号 昭和47年5月16日
211 中沢伊登子

標識令の沿革を見れば、菱形マークの正確な導入時期を確認できるだろうところ、日本法令検索では標識令の沿革を辿ることができるのは平成12年までであるうえ、府省令だからか、審議経過を確認することはできなかった。

◆横断歩道手前の停止線

この節の法改正の翌年の会議録。停止線がないので横断歩道の間際まで車が来るという話が出ている。菱形マークの予告はまだこの時期にはなく、停止線もないというケースもしばしばあり、どこで停まればいいのかという感じだったようだ。

 それからあとはこまかいことに入るかもわかりませんのでお許しいただきたいわけですけれども、たとえば私どもが道路を横断する場合を考えてみますと、いま世間でいろいろ言われていることの一つに、横断歩道の手前と言うのですか、そこで停止線があるところと、ないところがございます。しかし、停止線のあるところはまあまあとして、停止線のないところでは、自動車がかなりなスピードできて、直前でぴたっととまる場合があります。そうすると、車と人間とぶつかればどちらが損をするか、おっかないか、危険があるか、これもおのずとわかってくるものですから、やはりこちらが遠慮している。それに今度は、運転者のほうはそれが気持ちがいいのかもわかりませんけれども、それらに対して、おもしろ半分ということはないかもわかりませんけれども、そういうことが往々にしてあるのではないかという心持ちもしてまいります。……
……
……、とまるつもりがちょっと伸びちゃったのでぶつかったということもないとも限らない。これは私は、横断歩道がある限りにおいては、停止線を定めるなり、停止線なしといえども二メートル前でとまれとかなんとかいうことは法律の中に織り込むべきではないかと思います。……

第46回国会 衆議院 地方行政委員会 第43号 昭和39年5月12日
040 秋山徳雄

◆横断歩道内のゼブラ模様

この節の法改正の4年後の会議録。停止線がないどころか、ゼブラ模様が引いていないこともあったようだ。予告の菱形マークも、停止線も、ゼブラ模様もない。こうでは一時停止義務を履行することが難しいのも分かるだろう。

実は大阪へ行きますと、大阪の横断歩道というのはゼブラ模様が書いてないのです。ゼブラの模様がない。線が二本引いてある。向こうにも二本線が引いてある。そうすると四本引いてあるわけですけれども、四本引いてあると、どこが横断歩道かちょっとわからない。これが離れておればいいのですけれども、四本が離れてない。まん中はよかろうということでまん中の広いところを通って、うば車を押していく方を拝見しましたよ。なぜゼブラ模様を書かないのですかと聞いたらば、五十万円かかります。その五十万円の予算が出ません、ですから信号機のあるところは信号に従うのであるから、横断歩道の外側だけ表示しておけばいいでしょう、中の白いゼブラ模様は節約してあります。安全思想もここまでくるとみみっち過ぎて、りっぱと申しますか何と申しますか、驚きました。そういうことでございますから、安全施設の費用というものは、にわかに焦点を浴びておるだけに非常にお金がかかるわけです。それに対して、いまあなたのおっしゃるように迷惑はかけない、迷惑をかけずに必ず起債なりその他補助率の引き上げ等によってまかないますとおっしゃってくださるならば、これは急速に進むものと思います。これは藤枝自治大臣としても交通対策本部のメンバーとして、ひとつ大いにがんばっていただきたいと思うのです。

第55回国会 衆議院 地方行政委員会 第19号 昭和42年6月2日
102 太田一夫

別日に、上の発言を念頭に嫌味をチクリ。

098 藤枝泉介
○藤枝国務大臣 しばしばお答え申し上げたように、この交通対策、事故対策はいろいろな施策を調和をとってやっていかなければ実効が上がらないとは申すまでもございません。たとえば根本的には道路の整備、さらにそれについての安全施設というようなことが大切でありますし、あるいはまた労務管理というような問題もございます。警察におきましても指導に重点を置いてやっていかなければならないということでございます。そういうことのために、緊急整備三カ年計画も立てたわけでございますが、これでは十分でないということで、国会におきましても、通学、通園道あるいは踏切道についての特別措置法の御制定を考えておられるわけでございまして、そういう点もあわせまして今後やっていかなければならぬと思います。ことに標識が見にくいというようないろいろな御批判は十分承っておるわけでございまして、単にたとえば横断歩道をゼブラ型のものをはっきりさせるばかりでなく、そこに横断歩道があるということの標識というようなものを考えなければなりませんし、さらにそういう標識をできるだけ上に掲げる。横に置くのではなくて、上に掲げる方式等をとりまして、そして交通標識その他がはっきりいたしますように今後さらにつとめてまいりたいと思います。

099 太田一夫
○太田委員 大阪へ行ったら、信号機のすぐそばにある横断のゼブラ模様が予算が五十万円ないからやれない、それからよごれていて見にくい標識を塗りかえる予算がない、そういうみみっちいことを絶対言わぬように頼みます。

第55回国会 衆議院 地方行政委員会 第32号 昭和42年7月11日
098 藤枝泉介
099 太田一夫

◆遠くから見やすい標識

この節の法改正の4年後の会議録。横断歩道の存在を認識しやすいようにという試みである。

……。それ以外の所につきましては、横断歩道は、現在、御承知のように、交差点以外の単路のところが一番問題でございますが、ペンキでゼブラの目立つような歩道の標示をいたしまして、しかも道路標識を明確にしようというので、従来、御承知のように、横断歩道の道路標識はわりあいに小さな背の低いものでございましたが、最近、東京都内でもお見受けと思いますけれども、灯火式のオーバーハングの大きなもので夜でも目立つように、ドライバーによく目立つようなものに漸次切りかえていく。……

第55回国会 参議院 産業公害及び交通対策特別委員会 第7号 昭和42年6月7日
164 鈴木光一

◆道路照明の設置場所

この法改正の20年以上後の話。横断歩道を認識しやすくしていく試みは、法改正から20年経った後も続く。

 私は、ヒューマンファクター、特に心理学の立場から、研究者として交通問題にかかわってまいりました。そのため、きょうお話し申し上げることも、実務的レベルからちょっと離れることが多いかもしれませんけれども、その点どうぞお許し願いたい、こういうふうに感じております。
……
 私は、いろいろな研究者の考えを参考にして、事故原因となる三つの危険因子を想定しました。これに対してそれぞれ三つの安全対策を考えております。
……
 事例を挙げますと、我々は、昭和五十九年に北海道北見市で学会を開催しました。そのとき、市の依頼を受けて、事故多発横断歩道の交通診断を照明専門の学会のメンバーを中心にして行いました。ここは、道路照明をしたにもかかわらず、横断歩行者の事故が頻発して困っておりました。いろいろ調べた結果、照明器具の設置場所が悪いため、ドライバーから横断歩道上の歩行者を十分に視認できないということがわかり、その照明器具を十メートルほど前方に移すことによって万事解決したのでございます。その研究者の説明によると、道路照明の仕組みというのはヘッドライトとは違って、ポジフィルムのように横断歩道全体を照明し、その中に歩行者をシルエットのように浮かび上がらせるものなのだそうでございます。

第112回国会 衆議院 交通安全対策特別委員会 第6号 昭和63年5月12日
002 宇留野藤雄

◆この節のまとめ

法38条1項が道路の左方に限定されていたのは、横断歩道に関する周辺環境が十分に整備されていなかったことによる部分が大きいと感じた。この解消は、1971年(昭和46年)、法38条1項前段の安全速度接近義務の制定を待つ必要がある。

1967年(昭和42年)、第55回国会

法38条2項と3項の成立である。このタイミングに合わせて、法38条1項と法71条3号の統合が行われている。

改正前の法38条は、交差点における横断歩行者の保護を規定しているものだった。1項が交通整理の行われている交差点、2項が交通整理の行われていない交差点となっていた。この区別をなくし、横断歩道の有無で分けることとした。横断歩道がある場合には、交差点か否かを問わず、改正後の法38条1項でカバーすることとした。そして、横断歩道がなくとも交差点附近であれば、改正後の法38条の2でカバーすることとした。

法38条がらみの改正概要(現行の法38条2項と3項を除く)

法71条3号 → 法38条1項
 …… まったく同じ、交差点併設にかかわらず横断歩道全般に適用
法38条1項・2項 → 法38条の2
 …… 統合

参照情報

改正内容:法38条1項

前記のとおり、改正前の法38条「交差点付近を横断する歩行者の保護」、これと改正前の法71条3号「横断歩道上の歩行者の保護」を統合したものとなっている。内容は、法71条3号と全く同じとなっている。

現行法の法38条1項後段に相当する。ただし、依然として道路の左側部分に限定されている。

道路交通法の一部を改正する法律案
……
第3章中第38条を削り、第6節の次に次の一節を加える
第6節の2 横断歩行者の保護のための通行方法
(横断歩道における歩行者の優先)
第38条 車両等は、歩行者が横断歩道により道路の左側部分(当該道路が一方通行となっているときは、当該道路)を横断し、又は横断しようとしているときは、当該横断歩道の直前で一時停止し、かつその通行を妨げないようにしなければならない。

第55回国会 衆議院 地方行政委員会 第25号 昭和42年6月22日
p.11

旧(法71条3号)
歩行者が横断歩道により道路の左側部分(当該道路が一方通行となっているときは、当該道路)を横断し、又は横断しようとしているときは、当該横断歩道の直前で一時停止し、かつ、その通行を妨げないようにすること

新(法38条1項)
車両等は、歩行者が横断歩道により道路の左側部分(当該道路が一方通行となっているときは、当該道路)を横断し、又は横断しようとしているときは、当該横断歩道の直前で一時停止し、かつその通行を妨げないようにしなければならない

改正内容:法38条2項と3項

法38条の2項と3項は新設の条項である。

現行法と比較すると、交通整理が行われていない交差点に限定されている。現行法との比較は、次の改訂、1971年(昭和46年)のところで確認している。

道路交通法の一部を改正する法律案
……
第3章中第38条を削り、第6節の次に次の一節を加える
第6節の2 横断歩行者の保護のための通行方法
(横断歩道における歩行者の優先)
……
2 車両等は、交通整理の行われていない横断歩道の直前で停止している車両等がある場合において、当該停止している車両等の側方を通過してその前方に出ようとするときは、当該横断歩道の直前で一時停止しなければならない。
3 車両等は、交通整理の行われていない横断歩道及びその手前の側端から前に30m以内の道路の部分においては、第30条第3号の規定に該当する場合のほか、その前方を進行している他の車両等(軽車両を除く。)の側方を通過してその前方に出てはならない。

第55回国会 衆議院 地方行政委員会 第25号 昭和42年6月22日
p.11

改正内容:法38条の2

交差点付近の横断歩行者の保護の扱いは、旧来は、交通整理の有無で分けられていた。改正によって横断歩道の有無で分けられることとなった。そのため、交差点付近においては交通整理の有無如何にかかわらず、横断歩道がない場合には本項で扱われることとなる。

法38条がらみの改正概要(現行の法38条2項と3項を除く)

この条項は、現行のものとまったく同じ内容になっている。

道路交通法の一部を改正する法律案
……
第3章中第38条を削り、第6節の次に次の一節を加える
第6節の2 横断歩行者の保護のための通行方法
……
(横断歩道のない交差点における歩行者の優先)
第38条の2
車両等は、交差点又はその直近で横断歩道の設けられていない場所において歩行者が道路を横断しているときは、その歩行者の通行を妨げてはならない。

第55回国会 衆議院 地方行政委員会 第25号 昭和42年6月22日
p.11

(旧)(法38条1項、2項)
車両等は、交通整理の行なわれている交差点で左折し、又は右折するときは、信号機の表示する信号又は警察官の手信号等に従って道路を横断している歩行者の通行を妨げてはならない。
2 車両等は、交通整理の行われていない交差点又はその附近において歩行者が道路を横断しているときは、その歩行者の通行を妨げてはならない。

(新)(法38条の2)
車両等は、交差点又はその直近で横断歩道の設けられていない場所において歩行者が道路を横断しているときは、その歩行者の通行を妨げてはならない。

国会会議録抜粋

 この法律案は、最近における道路交通の実情にかんがみ、交通事故の防止をはかるため、歩行者の保護のための車両等の通行方法に関する規制を強化し、……をその内容としております。
 まず、交通事故の防止をはかるための改正規定について御説明いたします。これは、この法律案の第一条に規定されております。
 第一は、横断歩行者の保護の徹底をはかるため、車両等の通行方法の規定を整備することでありますが、これは、前車の側方を通過する車両等による横断歩道上の危険を防止するため、交通整理の行なわれていない横断歩道を通過する車両等の通行方法に関する規制を強化すること等がその内容となっております。

第55回国会 衆議院 地方行政委員会 第25号 昭和42年6月22日
002 藤枝泉介

道路交通法の一部を改正する法律案につきまして、補足して御説明いたします。
 まず、第一条の改正規定から御説明いたします。
 第一は、横断歩行者の保護をはかるための車両等の通行方法の規定の整備についてであります。
 第三十八条第二項及び第三項の規定は、交通整理の行なわれていない横断歩道を通過する車両等について、横断歩道の直前で停止している車両等の側方を通過してその前方に出ようとするときは、その横断歩道の直前で一時停止しなければならないこととし、また、横断歩道及びその手前の三十メートル以内の部分においては、前方を進行している車両等の側方を通過してその前方に出てはならないこととしようとするものであります。
 現行規定におきましても、車両等は、横断歩道を歩行者が通行し、または通行しようとしているときは、一時停止してその通行を妨げないようにしなければならないこととなっており、また、横断歩道の手前の三十メートル以内の部分は、追い越し禁止場所となっているのでありますが、歩行者の通行を妨げないようにするため横断歩道の直前で一時停止している車両等の側方を通過してその前方に出たため、あるいは、いわゆる追い抜き等追い越し禁止に触れない形態で進行中の前車の側方を通過してその前方に出たため、前車の陰になっていた歩行者の発見がおくれ、横断歩道上で交通事故を起こす車両が少なくないことにかんがみまして、さらに横断歩道における歩行者の保護の徹底をはかろうとするものであります。
 なお、この改正と関連いたしまして、横断歩行者の保護に関する規定を第三章第六節の二にまとめて規定することとし、あわせて現行の第三十八条の規定と第七十一条第三号の規定の関係を整理することといたしました

第55回国会 衆議院 地方行政委員会 第25号 昭和42年6月22日
004 新井裕

補足:法38条2項と反対車線の関係

この記事を作成する前に、法38条2項と反対車線の関係を記事にまとめている。

上記の記事でも会議録を抜粋しているところ、この法改正の会議録を一通り読み返した限り、反対車線を含むとは読み取れなかった。

補足:現行法の法38条1項前段との関係

法38条2項が反対車線を含まない理由として、ある裁判、昭和45(う)1257を用いている解説を見たことがある。その裁判に触れつつも、ここではその観点でなく、現行法の法38条1項前段との関係性に触れる。

以下、この節では法38条1項前段・後段を単に、前段・後段と記す。

この時点の法38条には、現行法の前段にあたる明文規定はない。では、前段にあたる義務はないのか。つまり、横断歩道に横断歩行者あるいは横断しようとする歩行者がいる場合の一時停止に備えて、横断歩道に接近する際に減速しておく義務はないのか。この裁判は、この義務に言及している。

答えから書くと、現行法の前段にあたる義務は存在する。そして、道路の右側部分、つまり反対車線から横断してくる歩行者に対する注意義務も存在することになる。おそらくこれが、現行法の前段の原点と思われる。

この点を、判決文に照らして確認していく。この裁判で問われた事故は、昭和43年4月26日に発生しており、法38条に関する適用法令としてはこの節、1967年(昭和42年)改正のものとなる。

まずは、現行法の前段にあたる義務が存在することが記された箇所を抜粋してみる。

……、一時停止をしなければならぬ状況の発生をあらかじめ明確に予知することは困難な関係にあるわけであるから、車両等の運転者としては、一時停止を必要とする状況の発生がいやしくも予想されうる状態のもとにおいては、その状況がいつ発生するかわからないことを念頭に置いてこれに備え速度を調節すべき……である。このことは、横断歩道直前における一時停止義務の場合とは区別して考うべきであつて、右の一時停止義務は歩行者が現に「横断し、横断しようとしているとき」に発生すると解すべきこと道路交通 法三八条一項の規定上明らかであるのに対し(検察官の控訴趣意中に、横断歩行者の有無が明確でない場合にも一時停止義務があると主張する部分があるが、この点は採用しがたい。)、この速度調節義務は事前のことであり将来発生するかもしれない状況に対処するためのものであるから、その状況の発生しないであろうことが明確な場合に限つて、その義務がないとされるのである。……

昭和45(う)1257

道路左側に限定されているのは、現に横断歩行者あるいは横断しようとする歩行者がいる場合の一時停止義務の話となっている。それに至る以前の速度調整義務は、歩行者がいるかもしれないと備えるべき歩行者の位置は、道路の左側に限定されていないことも読み取れる。進路に相当する道路の左側、その位置に向かう歩行者は左からの場合も右からの場合も含むということになる。

……、原判決は、車両は歩行者が現に左側部分を横断しまたは横断しようとしているときに限つて一時停止または徐行の義務を負うと説示しているけれども、これは横断歩道直前における一時停止義務とその以前の段階における減速義務とを混同する誤りを犯したもので、……
……
 そこで、以上の諸点を総合して考えると、本件事故は横断歩道上で発生したものであつて、すてに述べたように横断歩道に近づく車両の運転者には、他の場所におけるのと異なつて、横断歩道上で発生することのあるべき状況に備えて速度を調節する義務が特に課せられているのであり、しかもその場合その状況発生の蓋然性は必ずしも高度のものである必要はないのであるから、本件の場合、被害者である幼児が前記のように(当方注、道路右側の渋滞車列の間から)左側横断歩道上に飛び出してくる蓋然性がある程度存したと認められる以上、被告人としてはそのことをも考慮に入れて速度を調節すべきであつたといわなければならない。

昭和45(う)1257

上記の義務を明記したものが、現行法における前段といえるように思う。

なお、運転者は道路右側の渋滞車列の間から左側横断歩道上に飛び出してくることを想定して減速していた。しかしその減速は、大人が歩いて接近してきた場合に事故回避できる程度であった。小児が走って接近してきた場合に事故回避できる程度に減速できていなかった。これを過失と認定されている。この点、現行法解釈においても同様であり、運転においても注意すべき点だと思う。その必要な減速の度合いは、今回の事案においては約20km/hと判示されている。

……。そして、原判決の判示するところによると、被告人は本件横断歩道直前における万が一の急停車に備えて時速を四〇キロメートルから三五キロメートルに減速し、足をブレーキペダルに乗せて歩行者の発見につとめつつ進行していたから、もし大人の歩行者が通常の歩度で右から道路左側へ横断してきたのであつたなら横断歩道の直前で一時停止することが可能であつたと判断される、というのであつて、証拠によれば、この認定もまた十分首肯しうるところである。したがつて、本件の場合、被告人もまた前に説示した趣旨に従い、横断歩道直前で急停車しなければならない事態の発生に一応備えてある程度減速の措置を執つたことはこれを認めることができる。……
……
 ……。したがつて、以上のことを前提として考えれば、横断歩道に近づく車両等の運転者としては、道路左側部分を通常の歩度で横断する歩行者ばかりでなく、走つて横断する者(小児・幼児を含む。)のあるであろうことの蓋然性が否定される状況にないかぎり、そのことをも考慮に入れて、これに対応する速度にまで自車の速度を減する義務があるといわなければならず、そのため車両等の運行にある程度の遅れを生じても、それは歩行者の安全保護のためにはやむをえないものとしなければならない。
……
 ……次に、進んで、被告人が具体的にどの程度に減速すべきてあつたかを検討するのに、司法警察負作成の実況見分調書および原審裁判所の検証調書によれば、原判決が正当に計算したように「被告人が急制動によつて横断歩道の直前にて本件車両を一時停止し衝突を避けようとするならば、少くとも時速を約二〇キロメートル(空走距離約五・五メートル、制動距離約二・二メートル)以下に減速徐行して進行してこなければならなかつた」と判断される。
 しかるに、関係証拠によれば、被告人は時速約四〇キロメートルで進行してきたのに、本件横断歩道にさしかかる附近から約三五キロメートルに減速したことが認められるから、この程度の減速をもつてしては、前掲の減速するを要する程度に比較して不充分であることは明らかであつて、被告人は前記一に説明した速度調節義務に違背し、ひいて業務上の注意義務を怠つたものと解しなければならない。

昭和45(う)1257

補足:法38条2項と昭和45(う)1257との関係

前の節を踏まえたうえで、あらためて法38条2項と昭和45(う)1257の関係を読み解く。法38条2項が反対車線を含まない理由として、昭和45(う)1257を用いることが妥当であるかという話である。

答えから書くと「主張の根拠には使える。ただし裁判所からそのように判示されたとは言えないので、裁判例という意味での根拠には使えない」と考える。

検察は予備的訴因に法38条2項を示しているわけでなく、裁判官は法38条2項への訴因変更を打診していないのだから、この裁判当時、法曹関係者の間では法38条2項が反対車線に及ぶとは考えていなかっただろうことは読み取れる。ただし、言えるのはそこまでである。判示されたレベル、裁判例レベルの根拠とはなり得ない。

加えて、この刑事裁判の判決が、現行法においてもなお同じ効果をもたらすのかは別の話である。その検討なしに、現行法においても法38条2項が反対車線に及ばないとするのは短絡過ぎる。

ただし、今回この記事をまとめて、法38条まわりの変遷を追いかけた限り、現行法においてもなお同じだと思う。つまり「主張の根拠には使える。ただし裁判所からそのように判示されたとは言えないので、裁判例という意味での根拠には使えない」という状況だと思う。

1971年(昭和46年)、第65回国会

この改正で、法38条1項前段が追加されている。また、法38条2項と3項は、交通整理されている場合でも、歩行者赤信号でない限りは適用されることとなった。これらの改正により、現行法にかなり近い内容となっている。自転車保護に関する部分、法38条3項の先行車両の部分が若干異なる程度である。

また、某所で問題となっている「その前方に出る前に」という文言は、このタイミングで追加されたようだ。従来「当該横断歩道の直前で」となっていたものを、「その前方に出る前に」に改正している。ただし、その点に関する説明や討議は見つけられなかった。

参照情報

改正内容:法38条1項

法38条1項前段が追加されている。この改訂により、自転車保護の部分を除き、現行法とまったく同じ内容となった。

法38条1項後段についても、改正前は「道路の左側」と記されていたところ、現行法の形に変更されている。この点についての掘り下げは、「『道路の左側部分』について(2)」と題して別の節にまとめた。

道路交通法の一部を改正する法律案
……
第38条第1項を次のように改める。
 車両等は、横断歩道に接近する場合には、当該横断歩道を通過する際に当該横断歩道によりその進路の前方を横断しようとする歩行者がないことが明らかな場合を除き、当該横断歩道の直前(道路標識等による停止線が設けられているときは、その停止線の直前。以下この項において同じ。)で停止することができるような速度で進行しなければならない。この場合において、横断歩道によりその進路の前方を横断し、又は横断しようとする歩行者があるときは、当該横断歩道の直前で一時停止し、かつ、その通行を妨げないようにしなければならない。

第65回国会 衆議院 地方行政委員会 第19号 昭和46年3月26日
p.18

法38条1項後段を比較

(旧)
車両等は、歩行者が横断歩道により道路の左側部分(当該道路が一方通行となっているときは、当該道路)を横断し、又は横断しようとしているときは、当該横断歩道の直前で一時停止し、かつその通行を妨げないようにしなければならない。

(新)
この場合において、横断歩道によりその進路の前方を横断し、又は横断しようとする歩行者があるときは、当該横断歩道の直前で一時停止し、かつ、その通行を妨げないようにしなければならない。

改正内容:法38条2項

改正前は、交通整理の行われていない横断歩道が対象となっていた。この改正により、交通整理が行われている場合でも、歩行者赤信号でない限りは適用されることとなった。

微妙な改訂が行われている。某所で問題となっている「その前方に出る前に」という文言は、このタイミングで追加されたようだ。従来「当該横断歩道の直前で」となっていたものを、「その前方に出る前に」に改正している。それに合わせて、停止車両の位置も「横断歩道の直前」だけでなく「横断歩道の手前の直前」に改められている。

趣旨は当然、横断歩道から離れて停止、たとえば停止線で停止している車両の側方を停止せずに通過し、横断歩道の直前まで進んで停止するということをされては、歩行者の保護としては不十分だからだろう。これには、これまで横断歩道手前の停止線の整備が十分でなかったことも影響するのだと思う。

道路交通法の一部を改正する法律案
……
第38条第2項中「交通整理の行われていない横断歩道の直前で停止」を「横断歩道(当該車両等が通過する際に信号機の表示する信号又は警察官等の手信号により当該横断歩道による歩行者の横断が禁止されているものを除く。次項において同じ。)又はその手前の直前で停止」に、「当該横断歩道の直前で」を「その前方に出る前に」に改め、……

第65回国会 衆議院 地方行政委員会 第19号 昭和46年3月26日
p.18

法38条2項を比較

(旧)
車両等は、交通整理の行われていない横断歩道の直前で停止している車両等がある場合において、当該停止している車両等の側方を通過してその前方に出ようとするときは、当該横断歩道の直前で一時停止しなければならない。

(新)
車両等は、横断歩道(当該車両等が通過する際に信号機の表示する信号又は警察官等の手信号により当該横断歩道による歩行者の横断が禁止されているものを除く。次項において同じ。)又はその手前の直前で停止している車両等がある場合において、当該停止している車両等の側方を通過してその前方に出ようとするときは、その前方に出る前に一時停止しなければならない。

改正内容:法38条3項

改正前は、交通整理の行われていない横断歩道が対象となっていた。この改正により、交通整理が行われている場合でも、歩行者赤信号でない限りは適用されることとなった。なお、2項に「次項において同じ」と記すことにより、3項の改訂量を抑える改定内容となっている。

道路交通法の一部を改正する法律案
……
……、同条第3項中「交通整理の行われていない」を削り、……。

第65回国会 衆議院 地方行政委員会 第19号 昭和46年3月26日
p.18

法38条3項を比較

(旧)
車両等は、交通整理の行われていない横断歩道及びその手前の側端から前に30m以内の道路の部分においては、第30条第3号の規定に該当する場合のほか、その前方を進行している他の車両等(軽車両を除く。)の側方を通過してその前方に出てはならない。

(新)
車両等は、横断歩道及びその手前の側端から前に30m以内の道路の部分においては、第30条第3号の規定に該当する場合のほか、その前方を進行している他の車両等(軽車両を除く。)の側方を通過してその前方に出てはならない。

国会会議録抜粋

この改正の冒頭で記した通り、法38条2項「当該横断歩道の直前で」→「その前方に出る前に」の改正に関する説明や討議は見つけられなかった。

国会会議録をざっと追いかけたところ、横断歩道橋の討議が多いと感じた。横断歩道橋を設置することで事故を減らしていこうという話や、「主婦であるならば乳母車を引いたり、あるいはからだの不自由な方はいろいろないわゆる松葉づえをついたり、あるいは下半身のきかなくなった方なんかは特殊な機械を使っている、そのためには横断歩道橋が役に立たない」などといった、横断歩道橋では対応できないケースをどうするかといった話が目立ち、法38条含め法案の中に踏み込んだ話はなかったようだった。

 その一は、歩行者の通行の安全の確保のための規定の整備でありますが、これは、車両の通行規制による歩行者用道路に関し、歩行者の通行方法の特例、やむを得ない理由があるため特に通行が認められる車両の特別の注意義務等について規定を設けること、道路標示によって車道と路側帯とを分離することができることとし、一定の路側帯を歩道と同様に取り扱うこと、歩行者の側方を通過する車両及び横断歩道に接近する車両等の運転車の注意義務を強化すること等がその内容であります。

第65回国会 衆議院 地方行政委員会 第19号 昭和46年3月26日
155 荒木萬壽夫

 次に、第十八条第二項、第三十八条第一項等の改正規定は、車両等の注意義務として、車両等が歩行者の側方を通過する場合には、歩行者との間に安全な間隔を保ち、または徐行しなければならないこととし、また、横断歩道に接近する場合には、横断歩道により横断しようとすそ歩行者がいるときは横断歩道の直前で停止することができるような速度で進行しなければならないこととしようとするものであります。
 次に、第十条第一項ただし書き及び第十二条第二項の規定並びに第十四条、第四十四条第三号等の改正規定は、歩行者の通行方法について、がけ等があるため道路の右側端を通行することが危険であるときその他やむを得ないときは道路の左側端に寄って通行することができることとし、交差点において道路標識等により認められているときは斜めに道路を横断することができることとするほか、横断歩道の手前だけでなく先方についても五メートル以内の部分については停車及び駐車を禁止する場所にするなど、歩行者の安全に関する規定を整備しようとするものであります。
……
 第五十条等の規定は、交通整理の行なわれている交差点において、前方の交通の状況によりその中に入った場合には停止することとなり交差道路における車両等の通行の妨害となるおそれがあるときは、車両等は信号が青の場合であっても交差点に入ってはならないこととし、また、横断歩道、踏切または道路標示によって区画された消防署の前等の場所についても、前方の交通の状況によりその中で停止するおそれがあるときは、車両等はその場所に入ってはならないこととしようとするものであります。
……
 次に、道路標識及び道路標示の活用をはかるための規定の整備についてであります。
 第十七条第五項、第三十三条第一項、第三十八条第一項、第四十三条第一項等の改正規定は、車両が入ってはならない道路の部分をしま状の道路標示で表示することができることとし、また、踏切、横断歩道または交差点において停止する場合の停止位置を表示する停止線を設けることができることとしようとするものであります。

第65回国会 衆議院 地方行政委員会 第20号 昭和46年4月13日
002 後藤田正晴

補足:「道路の左側部分」について(2)

条文の以下の点についての補足。

歩行者が横断歩道により道路の左側部分(当該道路が一方通行となっているときは、当該道路)を横断し、又は横断しようとしているときは、当該横断歩道の直前で一時停止し、かつ、その通行を妨げないようにすること。

この「道路の左側部分」とされている点が、現行法に比べて対象が狭いとみる見解があるようだ。この記事冒頭に記した以下の見解も、現行法は旧法に比べて範囲が広げられていると見ていることが根底にあるように見える。

法38条1項は当初、道路の左側の歩行者に対してだけ一時停止義務が課せられていた。その後に法38条1項が反対車線を含むように法改正されている。そのため、法38条2項も反対車線を含む解釈になるのが自然。

ここで法38条1項後段の新旧対比を改めて示す。表現を除いた実質的な違いは、以下太字部分だけである。

(旧)
車両等は、歩行者が横断歩道により道路の左側部分(当該道路が一方通行となっているときは、当該道路)を横断し、又は横断しようとしているときは、当該横断歩道の直前で一時停止し、かつその通行を妨げないようにしなければならない。

(新)
この場合において、横断歩道によりその進路の前方を横断し、又は横断しようとする歩行者があるときは、当該横断歩道の直前で一時停止し、かつ、その通行を妨げないようにしなければならない。

法38条1項後段の新旧対比

改正後の法における、法38条1項後段の適用範囲となる歩行者の範囲を図で示す。図は、『19訂版執務資料道路交通法解説』p.369の図(62)を参考に作成した。

以下のように横断歩道に向かって進行する車両があるとする。簡素化して考えるために車道の幅は省略した。

「進路」は下図の範囲を指す。

「進路」の範囲

「進路の前方」は下図の範囲を指す。進路の左右に広がるエリアは安全バッファであり、一義的に定めることはできないものの、法18条2項(歩行者の側方を通過する際の安全間隔保持義務)との関係から、1m程度とする見解が有力である。

「進路の前方」の範囲

「進路の前方を横断する歩行者」は下図の範囲にいる歩行者を指す。

「進路の前方を横断する歩行者」の範囲

「進路の前方を横断しようとする歩行者」は下図の範囲にいる歩行者を指す。ただし、進路の方向に接近してくる歩行者だけに限られる。

左右への広がりは、車両が横断歩道を通過し終えるまでに、歩行者が進路のに到達できる範囲を指す。その範囲は、歩速によっても異なるため一義的に定めることはできないが、『19訂版執務資料道路交通法解説』p.370には警視庁道交法を紹介しており、それには5mくらいに接近していれば該当すると記されている。

補記(2024/08/26)。黄色のエリアを、1mの安全バッファを取ったうえでそこから5m先まで伸びている理解で下図や解説を記していたが、それは誤りである。正しくは、車幅から5mである。車幅から1m以内が「横断する歩行者」、車幅から1m~5m離れた場所が「横断しようとする歩行者」である。以降の図をそのように読み取ってほしい。

「進路の前方を横断しようとする歩行者」の範囲

車道と歩道を区別した形にすれば、下図のようになると思う。反対車線の歩道が5m以上離れてくると、反対車線の歩道を含まなくなる。

「進路の前方を横断しようとする歩行者」の範囲
横断歩道が短く、進路から5m以内で歩道に到達する場合

さて、改正前後で「横断し、又は横断しようとする歩行者」の部分は変わっていない。「進路の前方を横断しようとする歩行者」の範囲、その左右への広がりは、改正前も変わらないとみるのが妥当であろう。

つまり、改正後はもちろん改正前も、反対車線方向約5m以内にいる歩行者は十分に「道路の左側部分を横断しようとする歩行者」に該当すると解釈するのが適切と考える。

改正前後で「横断する歩行者」「横断しようとする歩行者」の範囲がどう変わったかを下図に記す。下図左が「道路の左側部分」、下図右が「進路の前方」となっている。下図のように、幅員が広い道路や車線が複数あるような道路で違いが顕著になる。逆に幅員が狭く、左右に1m以上の安全バッファを確保できないような場合は、改正後がより広いこともあり得る。ただし、車道幅基準でなく進路幅基準となったということは、基本的には狭まったと捉えるのが適切だと思う。

法38条1後段の改正における、一時停止を必要とする歩行者位置の範囲
左図は「道路の左側部分」のままの場合、右図は「進路の前方」の場合
赤色は「横断している歩行者」の範囲
黄色は「横断しようとしている歩行者」の範囲

つまり、改正前は「道路の左側部分」全体となっていたところ、改正後は「進路+安全バッファ」程度に範囲が狭められていると解釈するのが適切と考える。そのため、「道路の左側部分に限定されていた一時停止義務が、反対車線に歩行者がいる場合も含むように改正された」という解釈は正しくないように思う。

補足:「道路の左側部分」について(3)

ここで「『道路の左側部分』について(1)」で据え置きとなっていた点を記す。つまり、「道路の左側部分」に改正された昭和38年改正の、もうひとつの改正理由である。問題としていた会議録は、以下の「これはなかなか実情は無理」という部分である。

 今までの現行法規で申し上げますと、これは単路の場合、単路といいますと、交差点じゃない途中の横断歩道でございますが、その場合には一時停止または徐行して歩行者の通行を妨げてはならないというふうになっておるわけでございます。今度の改正案では、横断歩道全部といっても、これはなかなか実情は無理でございますので、……

第43回国会 衆議院 地方行政委員会 第16号 昭和38年3月15日
051 冨永誠実

この部分の改正内容をおさらいする。

(昭和35年改正)
歩行者が横断歩道を通行しているときは、一時停止し、又は徐行して、その通行を妨げないようにすること。

(昭和38年改正)
歩行者が横断歩道により道路の左側部分(当該道路が一方通行となっているときは、当該道路)を横断し、又は横断しようとしているときは、当該横断歩道の直前で一時停止し、かつ、その通行を妨げないようにすること。

法71条3号 新旧比較

改正後の法71条3号の重要なポイントは、「横断しようとしている歩行者」が追加されていることである。これが追加され、しかし道路の左側部分に限定していなければ、下図左の範囲となっていたことだろう。横断歩道右端の右に、左同様に「横断しようとしている歩行者」の範囲が広がっている。一時停止義務を課すにしては広がりすぎている。これに対して「実情はなかなか無理」と言っている。そのため、下図右の範囲に改正した。このように解釈すべきと思う。

法71条3号の改正における、一時停止を必要とする歩行者位置の範囲
左図は「横断歩道」のままの場合、右図は「道路の左側部分」の場合
赤色は「横断している歩行者」の範囲
黄色は「横断しようとしている歩行者」の範囲

つまり、昭和38年改正で、歩行者が反対車線にいる場合を完全に排除していたというのは誤りである。その後、昭和46年改正で、反対車線を含むように改正されたというのも誤りである。どちらの改正も、法38条1項後段の適用範囲がより限定的となる改正である。適用範囲がより限定的となる改正だから、法38条2項の範囲が広がる根拠とはなり得ないことが分かる。

補足:法38条2項と昭和45(う)1257との関係(再)

前の節を踏まえたうえで、あらためて法38条2項と昭和45(う)1257の関係を読み解く。法38条2項が反対車線を含まない理由として、昭和45(う)1257を用いることが妥当であるかという話である。

言うまでもなく、以前の節で記したとおり「主張の根拠には使える。ただし裁判所からそのように判示されたとは言えないので、裁判例という意味での根拠には使えない」のままとなると考える。

法38条1項の一時停止義務の範囲は、昭和38年改正と昭和46年改正それぞれ、狭まっている。法38条2項の範囲が反対車線に広がる根拠とはなり得ない。そうなると、昭和45(う)1257の解釈、現行法への適用状況は依然として変わらない。このように判断するのが適切と思う。

1978年(昭和53年)、第84回国会

この改正で、自転車保護に伴う改訂が行われている。

条項の文章構造は同じで、自転車横断帯における自転車保護を、横断歩道における歩行者保護と同様に扱うよう、改正されている。

参照情報

改正内容:法38条1項

自転車保護に伴う改訂により、現行法とまったく同じ内容となった。

以下の関係性が紛らわしい、赤の部分も含んでいると誤読されやすい構成になっていると問題視されるところである。この点は少し下に掘り下げて説明を加えている。

法38条1項の歩行者と自転車の保護範囲
緑は適用され、赤は適用されない

道路交通法の一部を改正する法律案
……
第38条の見出しを「(横断歩道等における歩行者等の優先)」に改め、同条第1項中「横断歩道に接近」を「横断歩道又は自転車横断帯(以下この条において「横断歩道等」という。)に接近」に、「当該横断歩道」を「当該横断歩道等」に、「歩行者がないこと」を「歩行者又は自転車(以下この条において「歩行者等」という。)がないこと」に「、横断歩道により」を「、横断歩道等により」に、「歩行者があるとき」を「歩行者等があるとき」に改め、……

第84回国会 参議院 地方行政委員会 第4号 昭和53年3月28日
p.48

法38条1項を比較

(旧)
 車両等は、横断歩道に接近する場合には、当該横断歩道を通過する際に当該横断歩道によりその進路の前方を横断しようとする歩行者がないことが明らかな場合を除き、当該横断歩道の直前(道路標識等による停止線が設けられているときは、その停止線の直前。以下この項において同じ。)で停止することができるような速度で進行しなければならない。この場合において、横断歩道によりその進路の前方を横断し、又は横断しようとする歩行者があるときは、当該横断歩道の直前で一時停止し、かつ、その通行を妨げないようにしなければならない。

(新)
 車両等は、横断歩道又は自転車横断帯(以下この条において「横断歩道等」という。)に接近する場合には、当該横断歩道等を通過する際に当該横断歩道等によりその進路の前方を横断しようとする歩行者又は自転車(以下この条において「歩行者等」という。)がないことが明らかな場合を除き、当該横断歩道等の直前(道路標識等による停止線が設けられているときは、その停止線の直前。以下この項において同じ。)で停止することができるような速度で進行しなければならない。この場合において、横断歩道等によりその進路の前方を横断し、又は横断しようとする歩行者等があるときは、当該横断歩道等の直前で一時停止し、かつ、その通行を妨げないようにしなければならない。

改正内容:法38条2項、法38条3項

こちらも法38条1項同様、自転車保護に伴う改訂となっている。これにより、現行法とほぼ同じとなった。法38条3項の先行車両の部分が若干異なる程度である。

道路交通法の一部を改正する法律案
……
……、同条第2項中「横断歩道」を「横断歩道等」に、「歩行者」を「歩行者等」に改め、同条第3項中「横断歩道」を「横断歩道等」に改める。

第84回国会 参議院 地方行政委員会 第4号 昭和53年3月28日
p.48

差異はほとんどないため、新旧比較は省略。

国会会議録抜粋

 その二は、自転車の通行の安全を確保するための規定の整備でありますが、これは、自転車の定義を設けるほか、自転車の交通方法の特例について新たに節を設けて関係規定を整備すること、自転車は自転車横断帯により道路を横断または通行しなければならないこととし、自転車横断帯を通行している自転車の保護についての規定を整備すること、歩道等を通行することができる自転車の大きさ等を定め、歩道を通行する場合における自転車の通行方法についての規定を整備すること、自転車の運転者は、制動装置または反射器材を備えていない自転車を運転してはならないこととすること等がその内容であります。

第84回国会 参議院 地方行政委員会 第12号 昭和53年5月9日
005 加藤武徳

補足:横断歩道を通行する自転車の保護

以下の関係性が紛らわしい。赤の部分も含んでいると誤読されやすい構成になっていると問題視されることがしばしばある。この点を少し掘り下げる。

法38条1項の歩行者と自転車の保護範囲
緑は適用され、赤は適用されない

法令の改正時に「必要最小限の部分だけ直す」(『法律を読む技術・学ぶ技術 改訂第4版』PART1、第2章3項)というのは良く用いられる手法ではある。これもその種の改正方法だろうと思う。

条文のうち、歩行者は横断歩道に係り、自転車は自転車横断帯に係る。そのため、横断歩道を通行する自転車は法38条1項後段の保護を受けない。自転車横断帯を横断する歩行者も同様である。ただし歩行者の場合、法18条2項(歩行者の側方通過時の安全間隔保持義務や徐行義務)の保護を受ける。また、歩行者と自転車のどちらの場合も、法70条(安全運転義務)の保護を受ける。

ネットでは、横断歩道を通行する自転車乗りがいる場合に、法38条1項後段による一時停止義務と通行を妨げない義務が生じるとする見解を示しているサイトがある。上図で言う、左下から右上への矢印も適用対象だとする見解となる。しかしそうではない。それは以下の書籍に明記されている。

ウ「横断歩道を通行する自転車乗り」について
(問)横断歩道を自転車に乗って通行する者があるが、この者に対しても(当方注、法38条1項)後段の義務があるか。
(答)歩行者とは、歩いている人はもとより、二輪の車両を押して歩いている人(法第2条3項2号)をいうから、自転車に乗って通行している人は、歩行者ということはできない。自転車に乗って横断歩道を通行している者がいても、(当方注、法38条1項)後段の義務は生じない。この場合に法第70条(安全運転義務)の義務があることは当然である。

『19訂版執務資料道路交通法解説』p.375~376

3 この法律の規定の適用については、次に掲げる者は、歩行者とする。
二 次条の大型自動二輪車又は普通自動二輪車、二輪の原動機付自転車、二輪又は三輪の自転車その他車体の大きさ及び構造が他の歩行者の通行を妨げるおそれのないものとして内閣府令で定める基準に該当する車両(これらの車両で側車付きのもの及び他の車両を牽引しているものを除く。)を押して歩いている者

道路交通法第2条3項2号

横断歩道を通行する自転車乗りがいる場合に、法38条1項後段が適用されるという意見をよく見ると、法70条(安全運転義務)において状況次第で生じる一時停止義務との混同のように見える。

法38条2項が反対車線の停止車両を含むとする見解にも、この種の混同は見られる。以下を区別して考えられるかという話に行き着くと思う。

① 事故が起これば注意義務違反と扱われる運転態様
② 事故が起こる前でも検挙対象として道交法違反と扱われる運転態様

①のすべてが②とされているわけではない。①の一部に道交法違反の規制を課し、さらにはその規制の一部が検挙対象とされている。どこまでを②と扱うかは交通政策上の話となる。①に該当するような安全でない運転だから②なのだというのは、交通政策を考えていない意見であり、結果の先取りに過ぎない。

他に注意すべき点がある。法38条1項前段がどうなるのかという話である。

自転車を押して歩くと、歩行者扱いとなる。

3 この法律の規定の適用については、次に掲げる者は、歩行者とする。
二 次条の大型自動二輪車又は普通自動二輪車、二輪の原動機付自転車、二輪又は三輪の自転車その他車体の大きさ及び構造が他の歩行者の通行を妨げるおそれのないものとして内閣府令で定める基準に該当する車両(これらの車両で側車付きのもの及び他の車両を牽引しているものを除く。)を押して歩いている者

道路交通法第2条3項2号

そして、自転車は秒で歩行者になり得る。低速あるいは停止中の自転車がいる場合には、自転車から降りることで容易に歩行者になり得る。そのため、横断歩道付近に低速あるいは停止中の自転車がいれば、そのままでは法38条1項後段の保護を受けないとはいえ、法38条1項前段はほぼ適用されると考えるのが無難に思う。秒で歩行者に変わる者がそこにいるからには、法38条1項前段「歩行者がないことが明らか」と言えることはほとんどないと思う。

この「自転車は秒で歩行者になり得る」を表す適切な動画がどこかにあったのだが、見失ってしまった。本当に1秒以内に歩行者になっている動画である。自転車で横断歩道に接近し、ドラレコ搭載車両が警戒しながら減速していると、横断歩道に到達して1秒以内で自転車から降りて歩行者になっているというもの。横断歩道手前で一時停止しなければ、当然に法38条1項後段違反である。

2022年(令和4年)、第208回国会

この改正で、特定小型原動機付自転車に伴う改訂が行われている。

参照情報

改正内容:法38条3項

特定小型原動機付自転車に伴う改訂により、現行法とまったく同じ内容となった。

「軽車両」とされていた様々な部分が「特定小型原動機付自転車等」になっている。「特定小型原動機付自転車等」=「特定小型原動機付自転車」+「軽車両」であるため、特定小型原動機付自転車が追加された形である。

道路交通法の一部を改正する法律案
……
第18条第1項中……、「軽車両」を「特定小型原動機付自転車及び軽車両(以下「特定小型原動機付自転車等」という。)に改める。
第38条第3項中「軽車両」を「特定小型原動機付自転車等」に改める。

第84回国会 参議院 地方行政委員会 第4号 昭和53年3月28日
p.48

法38条3項を比較

(旧)
 車両等は、横断歩道及びその手前の側端から前に30m以内の道路の部分においては、第30条第3号の規定に該当する場合のほか、その前方を進行している他の車両等(軽車両を除く。)の側方を通過してその前方に出てはならない。

(新)
 車両等は、横断歩道及びその手前の側端から前に30m以内の道路の部分においては、第30条第3号の規定に該当する場合のほか、その前方を進行している他の車両等(軽車両等を除く。)の側方を通過してその前方に出てはならない。

国会会議録抜粋

 この法律案は、最近における道路交通をめぐる情勢等に鑑み、特定自動運行に係る許可制度を創設するとともに、特定小型原動機付自転車及び遠隔操作型小型車の交通方法等に関する規定並びに特定免許情報の個人番号カードへの記録に関する規定の整備等を行うことをその内容としております。

第208回国会 参議院 内閣委員会 第8号 令和4年4月7日
204 二之湯智

その他、気になった国会会議録

その他、読み漁る中で気になった国会会議録を抜粋した。

永久免許剥奪。
ドイツでは、悪質な運転に対しては、刑事裁判で免許剥奪もあると聞く。

やはりこういった法の盲点というものがあるわけなんで、これらの点でやはりいろいろなことはあるけれども、この緊急の場合を切り抜けていくためには思い切って免許の取り消しをきびしくする必要がある。諸外国では、これは米国あたりだと思いますけれども、あのゼブラのところ、横断歩道あたりで事故を起こして人を殺したら永久に免許を取り上げているじゃないですか。やはりそういうことがいま国民世論の中できびしく要求されてきておる。われわれもやはりこういった点について十二分に考慮する必要があるのではないか。これではあまりにもやわらか過ぎるのではないか、こういうふうに考えられるのですが、この点についてお考えになったこと、あるいは今後どうするかというようなことについて御意見があれば承っておきたい。

第52回国会 衆議院 地方行政委員会 第3号 昭和41年10月11日
010 阪上安太郎

ブレーキランプ的なものを前にもつける。ちょっと斬新に感じる。

 たとえば、歩道に立って車道を渡ろうとするとき、この車はとまってくれるかとまってくれないかということがわからない。それがために、とまってくれるだろうと思って渡りかけたら、その車はとまらずに走ってきた。それがためにその人はたいへんな事故を起こしてなくなった、あるいはけがをした、こういう事故が往々にしてあるのです。ところが、うしろから続いていく車は、ブレーキを踏むとストップライトがつくから、前の車はとまるということがわかるから追突せずに済むわけです。この横断をする人が安心して渡れる方法の一つとして、ブレーキに足をかけたら前にもライトがつくようにすれば、あの車はとまってくれるなということがわかって安心して渡ることができるのじゃないかと思うが、こういう機構的な改造をしていただいたらどうか。これについてお答えをいただきたい。

第55回国会 衆議院 交通安全対策特別委員会 第6号 昭和42年5月18日
075 丹羽久章

押しボタン信号付き横断歩道。これはかなり実現された政策ではないだろうか。

もう一つは、やはり単路の場合には、通学通園路等については押しボタンの信号機をつけていこうじゃないか、歩道橋をつけない所には押しボタンの信号機をつけて、そして随時学童園児が渡れるように、しかも車両の交通を円滑にということを考えながら押しボタンの信号機をもう少し導入したらどうかということで、現在その方向で努力している次第でございます。

第55回国会 参議院 産業公害及び交通対策特別委員会 第7号 昭和42年6月7日
164 鈴木光一

照度まわりの話。
このあたり、最新事情では色々と変わっているのだろうところ、

057 原田立
○原田立君 ここに「運転管理」という本があるのですけれども、これには、都市部の道路においては二カンデラというのですか、それだけの基準が示されている。ところが、日本の場合には、そこまでいってないんじゃないですか。これはお読みになっているだろうと思うけれども、専門家だから。

058 吉兼三郎
○説明員(吉兼三郎君) そのお手元の雑誌は、私は拝見いたしておりませんが、私どものほうの照明施設の設置基準は、道路の重要度に応じましてその規格を変えております。重要度と申しますのは、交通量の多いところ、まあそれに準じまして分類をいたしておるのでございますが、その交通量の二万五千台以上あるようなところには当然連続いたしまして照明施設を設置いたしますが、そういうところには特に明るい照明施設を設ける。大体の基準といたしましては、カンデラで申し上げますれば、〇・五から一・五というような範囲内において設置しなさいというふうな基準を示しております。

059 原田立
○原田立君 その〇・五から一・五ということですけれども、それは国際照明委員会の推奨平均輝度からいけば、低いんじゃないですか。それで、去年おたくのほうで通達を出した中に、一万五千台以上の場合は、路面で最低十五ルクス、七千台以上は十ルクス、七千台未満は七ルクス、沿道が明るいところ、横断歩道等においては三十ルクスまで引き上げるというようなことが新聞報道されているわけですけれども、その建設省で打ち出した照明基準は、国際照明委員会の推奨平均輝度と比べてみて、これは暗いんじゃないですか。

060 吉兼三郎
○説明員(吉兼三郎君) 国際照明関係の委員会の基準というものをちょっと私、いま手元に持ち合わしておりませんので即答いたしかねる点がございますが、現在の私どもで示しておりますところの基準でまいりましても、各道路管理者の状況等を耳にいたしておりますが、まあ特にあの基準でもって暗いというふうなことは、私どもは聞いておりません。むしろ、これは非常に金がかかってかなわぬから、もう少し下げてくれというふうな声があるくらいでございますが、お尋ねの点につきましては、ちょっと手元に持ち合わしておりませんので、その関係について明確にお答えができないことは申しわけないと思います。

第58回国会 参議院 産業公害及び交通対策特別委員会 第8号 昭和43年4月17日
057 原田立
058 吉兼三郎
059 原田立
060 吉兼三郎

絵だけで伝えることの難しさ。そして当時の標識はどんな図柄だったのだろうか。

○中村太郎君 それからこれはまあ古い話で警察庁も御案内だと思いますけれども、去年の四十九年十月二十七日の「サンケイ新聞」に、「交通標識、全面的に見直しを」とあるんですよね。これは、要するに、小学校一年生が横断禁止の標識を横断歩道の標識と間違えて渡っちゃった、そのために横断歩道でひかれて死んじゃったと、こういう事故ですが、そのときの提言の中に、いままでの標識というものはあくまでも大人向けであった、あるいは自動車向けであった、子供向けではないということが提案されているんです。特に、たとえば「横断禁止」の漢字にしても、小学校学習指導要領の学年別に漢字配当表によれば、「止」という字は三年生で覚える。それから同じく横断の「横」は四年生、禁止の「禁」と横断の「断」の字は六年生になっている。これは私は貴重な提言だと思うのですね。いままで大人だけ相手にしておって、自動車だけ相手にして、いまの標識全体がやっぱりそういう感覚の中でとらえられていることは、やっぱりこの際私も、私どもも長い間気がつかなかったのですけれども、大事なことだと思うのですね。サブシステムの補助信号機、こういうようなものを考える必要があると思うのですが、やっぱり、きめの細かい、あるいは子供用、そういうところにも十分配慮すべきだと思うのですが、いかがでございますか。

第75回国会 参議院 交通安全対策特別委員会 第7号 昭和50年6月18日
075 中村太郎

教育のありかたと絡めた話。
手を差し伸べることが是か否かが難しい時代になってきた部分はありそう。

 次に、交通安全教育の問題についていろいろとお尋ねしたいと思います。
 初めに文部省の方に、年少者、高齢者など交通弱者による交通被害が現に少なくありません。年少者は飛び出し事故や駐車車両直前直後の横断など不注意によるものが多く、高齢者は体力の衰えによるものが多いと統計にはあります。一方、戦後の日本は個人主義思想の普及などと相まって、自己のことのみを考え、他人を思いやるやさしさなり助け合うという連帯の気持ちが薄れております。この際、義務教育において学校教育の体育や道徳教育など正規な授業の中に交通安全教育を組み入れ、交通安全思想の普及の徹底を図る必要があろうと思います。この安全教育を通じ、自己の交通安全を図るとともに、心身障害者や高齢者などには手を差し伸べて一緒に横断歩道を渡るようなやさしい心と社会連帯の意識を子供たちに教えることが望ましいと思うのです。この問題に対します教育基本法なり学校教育法なりそうした教育理念の問題については文教委員会で改めて行うとしまして、きょうお見えの担当の課長さんから一言お願いします。

第94回国会 衆議院 交通安全対策特別委員会 第5号 昭和56年3月20日
169 三浦隆

50年以上前の会議録。

本当なのかという印象もあるが、時代や分野によっては、必ずしも昔の日本人はマナーがよかったというわけではないということだろうか。

たしかに『戦前の少年犯罪』を読むと昔からマナーがよかったわけではないことは想像つくが、戦後の一時期、昔の文化と戦後教育文化が混ざり合ったあたりには、マナーがよいといわれる時期があったと思うし、諸外国から今なおマナーがよいという評価を受けているように思う。

後半に記されているように街の作りという面もあるだろうか。いずれにしろ、より良い形の日本になっていくことを願う。

 歩行者に対する交通法違反に対する罰則をどうするかという点につきまして、私のほうで全世界を調べたわけではございませんが、私たまたまアメリカに三年以上おりました体験から申し上げますと、歩行者に対する罰則はないようであります。むしろ交通道徳の問題ということでございまして、たとえば、いわゆる交通安全週間というものが行なわれますときに、マスコミ等の協力で、違反をしている人の写真を新聞等に出しまして、こういうことをやると命があぶないぞということで、もっぱら道徳的なもので処理していこうということであろうと思います。たとえば、横断歩道のないところでの横断を見ていますと、日本でありますと、自動車が来なければ、かりに横断歩道が百メートル歩くところにございましても、そこを横切ろうとする心理がわれわれにも働くわけでございますが、アメリカの町を歩いておりますときには、だれしもが百メートルあるいは二百メートルの横断歩道のところに行きまして渡るというようなことになっております。これは子供のときからの交通教育というものが徹底しているのではないかということが第一点と、もう一つは、町並みがそのようにやはりつくられているのではないか。言いかえますれば、大都市におきましては、いわゆる八百屋、雑貨屋、グロウサリーというようなものがビルの一隅にあるわけでございます。日本の場合で見ますと、大体まあ街頭にも並んでいる。そうするとすぐ横切ってそこに行きやすいのでございますが、アメリカの場合でありますと、そこに行くのにやはり大きなビルの一隅に入っていくというふうな感じがございますので、直ちに横切ってそこへ直進するという気持ちにはならないのではなかろうか。私ども、歩行者について罰則をどの程度つけるか、つけた場合にどうするかという点につきましては、警察庁とも協議いたす立場にあるものでございますが、歩行者優先という単なる標語というよりも、その前提となる交通道徳というものを高めるというほうにもう少し努力していきたいと、かように考えております。

第58回国会 参議院 法務委員会 第14号 昭和43年5月7日
084 石原一彦

先の、法38条2項が反対車線に及ぶのか、その違反で検挙された人の話を思い出した。

 これはこの前の交通の委員会でやりましたが、いわゆる歩行者妨害の横断歩道の左折、右折の車両のあり方、これは法律では著しく歩行者の横断を妨げてはならない、こういうふうに書いてある。しかし、その判定は警察官のそのときの判断で決めてしまう。これはそれぞれ論争のあるところですけれども、では八メートル道路の場合はどうだ、十六メートル道路の場合はどうだ、あるいは四メートル道路の場合はどうだと、それぞれ私もその部分に応じて聞いたことがあります。では、車線が分離をされている場合に、一方はいない、一方から、向こうから半歩踏み出した、そのときは渡りかけというのか、歩行者妨害というのかという具体的に詰めて、結果的にはそれは歩行者妨害ではない、そういう答弁になったわけです。だから、著しく歩行者の横断を妨げてはならないというその言葉の表現を判断する者が、単なる警官一人の判断でその後それぞれ処置をされていくことについては極めて間違いを起こしやすい
 普通ならこれは委員長に言って、この段階においてこの穴を埋める措置を、今の苦情処理じゃないのです、国民の持つ固有の権利、主張権、そういうものを確保してもらうという措置は必要なんですね。何か苦情相談所で繰り言みたいなことを言って物が終わるというものではなくて、法体系としてやはり自分の主張が言える。それじゃ、後、裁判所に行きなさい。この前も言うように、四千円や五千円ぐらいの反則金で一々弁護士を頼んで裁判所に現在の国民が行けるかといったら、これは現実問題として泣き寝入りなんですよね
 ……

第102回国会 衆議院 交通安全対策特別委員会 第5号 昭和60年5月15日
084 沢田広

最後に


この記事をまとめることに時期を同じくして、ある動画で語られた話が響いた。それは以下の言葉である。

過去の常識を今に持ってこない。
今の常識を過去に持っていかない。

これは、法律や法改正とは全く無関係の文脈で語られていた言葉である。もう少し言えば、弥助というキーワードとともに語られていた言葉である。ここでは弥助については控えておく。

◆今の常識を過去に持っていかない

過去の物事を見るときに、今の常識で見てはいけない。それは、この法改正を追うときに強く感じたことであった。

横断歩道がそこにあると認識することが容易でない。この前提があることを知らなかった。今の常識で見てしまうと、ひし形マークがあり、見やすい位置に標識があり、ゼブラ様の横断歩道がある、この前提で見てしまっていた。それを知ることができ、得たものが大きかった。

◆過去の常識を今に持ってこない

そしてもうひとつ、過去の常識を今に持ってこないということ。これにも触れておく。これには、過去に記した以下の記事を思い出した。

上の記事に、「過去の常識を今に持ってこない」という観点で補足する。

当方は法38条2項は反対車線の停止車両を含んでいないと考えている。そして、解釈は現状に照らしてもなお、そのままの解釈でよいと考えている。

反対車線のような、歩行者がいる高度の蓋然性が認められないケースでは、運転者の判断、それに基づく法70条(安全運転義務)による徐行や最徐行や一時停止に委ねる程度で十分と考えている。

別のところに投じたものを、誤字など一部訂正して記す。

 他のあるチャンネルで見た
「過去の常識を今に持ってこない」
「今の常識を過去に持っていかない」
……ということ

今の時代で何が一番いいのか、そこを念頭に、

過去の時代背景をベースに作られた過去の法律が、依然として今の時代に通用するのか、今の法律でいい方向に向かうことができるか、法改正がいいのか、

前回コメントいただいた内容を踏まえて、このように感じた。

そして、「今の時代で何が一番いいのか」ということを踏まえずに、今ある法律をいわば攻撃武器として使うという感覚であってはいけないのだろうと感じた。

過去の解釈がどうであるかということだけでなく、「今の時代で何が一番いいのか」を踏まえたうえで、それでもなお、法38条2項は反対車線の停止車両を含んでいないという解釈のままでよいと考えている。

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