<K-POPとJ-POPその4>ジャニーズJr.の年齢制限導入とアジアの育成システム

2021年1月16日、ジャニーズ事務所から、ジャニーズJr.に関する制度の改定がアナウンスされました。
満22歳の3月の時点で契約の合意に至らないメンバーはJr.としての活動を終了する…という趣旨のものです。

確かに近年では、Jr.の人数の肥大化や高齢化、それに伴う“飼い殺し”状態、またデビューまでに時間がかかりデビュー時点で既に旬を過ぎている…などの面も見られ、そうした問題の解決に向けて具体的な策を講じられたことは、賛否両論あるとは思いますが、僕は大きな意味があることだと思っています。

また、このジャニーズJr.のシステムは、K-POPの世界にも大きな影響を与えていて、SMエンターテインメントのイ・スマン会長が、ジャニーズを参考にしたことは知られています。
K-POPの世界では「練習生」と呼ばれることが多いですが、この制度も基本的にはジャニーズが開発したシステムが参考になっていると言っていいと思います。

そのため、先述のジャニーズJr.に関する問題点は、K-POPの事務所でも同様に見られることがあります。
例えば、NiziUで注目されているJYPエンターテインメントですが、先日GOT7の契約終了がアナウンスされました。
基本的には7年の契約満了であり、更新されなかった理由は外野にはわかりませんが、ファンの間では近年のGOT7について、事務所から干されていたり待遇が悪かったり、などの不満が言われています。
そのようにこれまでの事務所を支えた貢献者が不満を抱える一方で、ITZY・BOY STORY・NiziUと新人のデビューが相次ぎ、現時点でもJ.Y.ParkとPSYによるオーディション番組が行われ、更に北米でのボーイズ・グループや男性版虹プロジェクトも計画されているなど、新しい事業が拡大し続ける一方で、これまでの個別のアーティストへのケアが不十分ではないか、という批判も存在しています。

このように、メリットもデメリットも存在するシステムですが、こうしたJr.や練習生の制度というのは、日本や韓国などアジア特有のものなのかもしれません。

アイドル・タレントは、法律上は個人事業主とされます。
会社に雇用されている労働者とは異なり、いわば自分の身ひとつで商売をしている形になります。
そのため、本来であれば、タレントがスキルを身に付けたいとしたら、自分でお金を払ってアクターズ・スクールなりダンス・スタジオなりボイス・トレーニングなりを受けることになります。
そうしてスキルを身につけ、自らの商品価値を高めたうえで、エージェンシーにマネージメント業務を業務委託し、エージェンシーから紹介されたオーディションを受けたりしながらタレント業務を進めていく、という形になります。
ハリウッドなど欧米のシステムは、基本的にこの形だと思います。

しかし、ジャニーズを始めとした日本の多くの芸能事務所、そしてそれを参考にしたK-POPの練習生システムは、会社が若い練習生を、給料を払ったり宿舎を用意したりしながら、ダンスや歌・演技を習わせる形をとっています。
お金も衣食住も心配なくスキルを身につけられるわけで、まさに至れり尽くせりではありますが、一方でこのシステムはいろんな問題を起こす要因にもなっています。

大きな問題の1つが、タレントの独立。
売れたタレントは、更なる待遇や自由を求めて、独立したり事務所移籍を求めますが、その際に事務所サイドから出る論理が「育成にかかった投資費用の回収」というものです。
練習生は、それ自体はお金をうむものではないので、彼らを抱えるにあたってかかる給料や家賃・レッスン代などの費用は、同じ事務所の先輩にあたる稼ぎ頭達の仕事による収入で賄われます。
そのため、タレントが売れた途端に独立されては、練習生時代に投資した金額が回収できず、今の練習生を抱えることが出来なくなり事務所の運用が立ち行かなくなり、独立を認められない…ということになります。
こうした事務所側の論理も、その立場からしたらごもっともだとは思うのですが、逆にタレント側からしたら、言葉は悪いですが”最初に大きな借金を背負わされ自由を奪われた奴隷契約”という風に受け止められることもあるでしょう。

また、デビューできて売れればまだいい方で、このシステムの裏には、デビューもできずに”飼い殺し”になっている練習生達も多く、彼ら・彼女らのキャリアステップの問題もあります。
個人事業主のタレントであれば、売れないのも自己責任ではありますが、Jr.・練習生制度では、デビューできるかどうかは事務所の胸先三寸という面もあり、「別の事務所ならデビューできたかも」という思いがあるでしょう。
実際、例えばSIXTEENの脱落者達は、その後にJYPを辞め、ソミはI.O.I、ジウォンはfromis_9、チェヨンはIZ*ONE、ナッティもソロ、などでデビューできています。

その他にもいろいろな問題があるとは思いますが、ここで僕が言いたいのは、アジア型は問題があるからダメで、ハリウッド型の個人事業主の形態がベストであると、思っているわけではないということです。
こうしたアジア型ならではともいえるシステムが生み出した、独特の文化もあると思うからです。
また、事務所とタレントの問題など、多くの場合ファンはタレント側について、事務所が悪者にされがちですが、そうした見方もフェアではないと思います。

今回のジャニーズ事務所からのリリースも、ファンの中では賛否両論で、「Jr.がかわいそう」という意見もあるようです。
しかし、この問題というのは、上述のように「本来は個人事業主であるタレントを、事務所がお金を払って抱える」という、根本のところで矛盾をはらんだシステムを何とか現代に合わせてアップデートする試みの一つとして、大きく評価されてしかるべきだと思っていますし、今後のジャニーズ事務所の行く末や、この発表が他の事務所にどんな影響を与えるか…などにも注目をし続けたいと思っています。

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