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文学の舞台「伊豆」

文学の舞台「伊豆」

 伊豆地域は、多くの文人が訪れ、伊豆を舞台にした作品も数多くあります。
 伊豆を舞台にした作品は、日本人初のノーベル文学賞を受賞した川端康成の「伊豆の踊子」を筆頭に、尾崎紅葉の「金色夜叉」、岡本綺堂の「修禅寺物語」、太宰治の「斜陽」、井上靖の「しろばんば」、松本清張の「天城越え」などがあり、みなさんも一度はその名を聞いたことのある作品ばかりではないでしょうか。
 
 伊豆の温泉の湯の香り、季節ごとに表情を変える伊豆の山々、豊かな自然が多くの文人を惹きつけてきましたが、作品に描かれた伊豆の情景は、今も伊豆の各地に残っています。
 
 中でも、川端康成の「伊豆の踊子」に登場する「旧天城トンネル(天城山隧道)」(伊豆市湯ヶ島)や旅館「福田家」(河津町湯ヶ野)は、現在でも当時の姿のまま残っており、「伊豆の踊子」の世界を追体験できます。
 

小説「伊豆の踊子」とは

 「伊豆の踊子」は1926年(昭和元年)に文芸雑誌「文藝時代」に発表された短編小説です。
 この作品は、川端自身が19歳の頃(1918年:大正7年)に初めて伊豆を旅した時に交わした旅芸人とのやりとりにもとづいて書かれた作品と言われています。その旅から約7年後に、伊豆の踊子を書き上げています。
 
 物語のあらすじは、
 『20歳の一高生の「私」が、自身の性格に悩み、これを克服しなければという思いからくる息苦しさに耐えきれず一人で伊豆に旅に出ます。
 「私」は湯ヶ島(現:伊豆市湯ヶ島)の道中で出会った旅芸人一座と旅を共にし、身分の違いを気にせず人間同士の交流をし、人の温かさを肌で感じる中で自分の性格が治っていくような気がします。
 「私」は踊子への淡い恋心も芽生えますが、下田での踊子との別れの日、下田港から遠ざかっていく船の中で「私」は涙をポロポロ流し、その後には何も残らないような甘い快さだけが残った。』というものです。

<伊豆の踊子ゆかりのスポット>
1 旧天城トンネル(天城山隧道)
 伊豆の踊子の中で「峠のトンネル」として書かれている旧天城トンネル(天城山隧道)は、現在の静岡県伊豆市と河津町を結ぶ旧道のトンネルで、1905年(明治38年)に開通しました。
 全長445.5mの日本初の総石造りの道路トンネルで、伊豆の国市の吉田石の切石で作られており、現存する石造トンネルでは国内最長です。
 2001年(平成13年)には道路トンネルとして初めて、国の重要文化財(建造物)に指定されています。
 現在でも旧天城トンネルに向かう道は砂利舗装のままで、昔のままの雰囲気が残されています。

旧天城トンネル
伊豆の踊子像(浄蓮の滝)

2 伊豆近代文学博物館
 道の駅「天城越え」にある博物館で、伊豆にゆかりのある文学者120名の資料が展示されています。
 その中には、川端康成の伊豆の踊子の生原稿、交流のあった伊豆市ゆかりの井上靖に宛てた手紙や映画「伊豆の踊子」で踊子役を演じた俳優の吉永小百合さんのロケ風景を見つめる川端の写真など、貴重な品を見ることができます。
 
住所 伊豆市湯ヶ島892-6 開館時間 8:30~16:30(休館日 第3水曜日)
入場料 大人(中学生以上) 300円、小人(小学生)100円

井上靖旧邸

SPAC観光演劇「伊豆の踊子」

 この川端康成の小説を舞台化した観光演劇「伊豆の踊子」が、2023年の10月7日から始まる静岡公演を皮切りに、下田、修善寺、浜北、沼津の県内各地で公演が行われます。
 今回、劇中に伊豆で撮り下ろされた映像を組み込み、舞台を見ると実際にその場所を訪れたくなる「観光演劇」として、地域の文化・観光資源にスポットを当てるという試みを行っています。
 この機会に、是非観光演劇「伊豆の踊子」を御覧になってはいかがでしょうか。

演出家の多田淳之介さんにこの演劇の魅力をお伺いしました

出演者の皆さんと「伊豆の踊子」の舞台である伊豆にフィールドワークに行ったと伺いましたが
 「9月に「伊豆」にフィールドワークに行って、天城山隧道や川端康成や学生が泊まった宿を見ました。実際に物語の舞台となった場所に行くのは、すごく良い体験でした。景色や杉林などはその当時のままで、本当にここに学生や踊子がいたんだという何とも言えない感動がありました。
 一緒に行った出演者もすごく喜んでいました。小説の中では学生と栄吉(※)が二人で先を歩いて、女性達は後からついていくという場面が多いのですが、実際に小説と同じような人数で歩くと山道だから男性の足の方が早くなるねとか、距離が離れるからこういう会話が成立したんだということが分かりました。」
※栄吉…踊子の兄で旅芸人。

伊豆でのフィールドワーク
旧天城トンネルを歩く

その他、伊豆で感じた魅力はありますか

 「伊豆は海も山も温泉もあって全てが揃っているなと思いました。僕は爬虫類が好きでトカゲや蛇を飼っているので、iZooやKawaZooがある伊豆は個人的には聖地です(笑) 
 最近、若い人に熱海など昔人気のあった温泉地が受けていたり、ハイキングや登山なども人気が出ているので、伊豆は可能性があるなと思います。」
 

映像を演劇に組み込む演出のねらいを教えてください

  「自分の演劇で劇中全体を通して映像を使うのは初めてで、このために映像を撮影し背景に使っています。実際に物語の人物達が通った場所があって、そこを映像で映し出すということにはとても意味があります。
 演劇の良さは実際の人間(俳優)を目の前にするので、テレビや映画などの映像を見るのと比較すると情報量が多くなることです。伊豆の景色を背景にして演じている人間を見ると、実際そこに行ったような、一緒に旅をしているような気分になると思います。今回、観光と演劇を掛け合わせる試みをしているので、見た人が伊豆に行きたくなると思います。」

ネタばれしない程度に見どころを教えてください

 「話自体は大正時代のものですが、衣裳やキャラクターの造形は現代風にしています。今の人たちが楽しめるように、旅芸人の仲間にも途中から原作にいないキャラクターが加わったりしますのでそういったところにも注目してください。」 

公演のある東部地域の人たちへのPRを御願いします

 「伊豆の踊子だけでなく、「文学」は伊豆の財産であると思うので、それを活かす活動の仕方のヒントになればいいなと思っています。若い人も何かのきっかけがあると小説を読んでくれて、現地にも行くようになると思います。
 地域にゆかりの深い演劇を上演するのは大事だと思っていて、自分たちの住んでいる所の歴史や文化を改めて再認識するきっかけになると思います。今回、地元の中高生もたくさん見てくれるので自分たちの地域を知るきっかけになればいいと思います。」

 今回は、若い世代の観劇に繋げる取組として、小中高生への鑑賞チケットプレゼントも実施されています。この機会に、御家族で観劇してみるのもいいですね。
対象者:静岡県内在住の小学生から高校生
対象公演:静岡・下田・修善寺・浜北・沼津の各一般公演
各公演定員あり・先着順

この秋、東部地域では文学に関連する事業が実施されます

  静岡県は2023年の東アジア文化都市に認定され、文化による地域の魅力発信や国際交流を進めています。静岡から日本文化の魅力を東アジア3カ国をはじめ世界に発信する様々な事業を1年間にわたり実施しています。
 上記のSPACの観光演劇「伊豆の踊子」をはじめ、日本文学の魅力を広く国内外に発信するための事業が東部地域で実施されますので、是非御参加ください。
 

伊豆文学祭


日にち:2023年10月14日(土)、15日(日)
会場:アクシスかつらぎ(静岡県伊豆の国市古奈255)
1日目 13:30~15:30 伊豆文学フォーラム
2日目 10:00~11:30 伊豆文学サミットin伊豆
    13:00~17:00 ふるさとと文学2023~異郷としての日本~
    10:00~16:00 ブックマルシェ伊豆
入場料 無料

井上靖文学館開館50周年開館50周年記念講演会


日時:2023年11月18日(土)14:00~15:30
会場:長泉町文化センターベルフォーレ(長泉町下土狩821-1)

 

県の関連事業


東アジア文化都市2023静岡県