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008 マイナスの借金の相続

前回は、遺産分割協議の対象財産について述べました。相続、そして、遺産の承継においては、法律の規定内容よりも、相続人間における遺産分割協議における合意形成が何よりも重要であることを述べました。今回は、相続財産の中でも、マイナスの借金について、述べたいと思います。相続は、被相続人が保有していた財産について、プラスの財産からマイナスの借金まで包括的に相続人が引き継ぐ制度です。平成28年12月19日によれば、プラスの相続財産は凡そ不可分であり、遺産分割協議を経て誰が何を承継するのか具体的に決めなければなりません。それでは、マイナスの借金についてはどうでしょうか。判例によれば、債務者が死亡し、相続人が数人ある場合に、被相続人の金銭債務その他の可分債務は、法律上当然分割され、各共同相続人がその相続分に応じてこれを承継するものと判示されています(昭和34年6月19日判例など)。要するに、借金は可分(2分の1や3分の1といった法定相続分に従って「スパッ!スパッ!」と割り切れるもの)であり、相続開始と同時に法定相続分に従って相続人に対して分割して承継されると判示しているのです。言い換えれば、マイナスの借金は、法定相続分に従って相続しなければならないということです(家庭裁判所において所定の手続きを行い、相続の放棄や相続の限定承認を行った場合には異なる結論になりますが、これらの手続きを行わない通常の相続では、この結論になります)。さらに誤解を恐れずにざっくばらんに言いますと、相続のルールは、プラスの財産に関するルール(すなわち、プラスの相続財産は不可分な財産であり、相続開始と同時に法定相続分に従って分割承継される財産など見当たらず、遺産分割協議を経て、誰が何を承継するのか具体的に決めなければならない)と、マイナスの借金に関するルール(すなわち、マイナスの相続財産は可分であり、相続開始と同時に法定相続分に従って引き継がなければならない)とでは異なるということです。私は、このことは相続のイロハのイであると思っていますが、意外にもしっかりと理解されている方は少ないように感じていますが、いかがでしょうか。

この判例について、さらに詳細な情報を必要とされる方は、裁判所のウェブサイトの裁判例検索をご参照いただければと思います。https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=54861

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