始まりは終わりの始まり

※「花束みたいな恋をした」ネタバレ含むかも。支障ない方だけ読んで。

映画を観た。菅田将暉と有村架純のW主演「花束のような恋をした」だ。何となくSNSに流れてくる感想を見ると「リアルすぎる」といったものが多かったように思う。実写の日本の恋愛映画を観るとき、ぼくは限りなく現実に近いものを好む。たまにSF要素などが入ったものもあるけれど、そういうものより現実にある街が舞台のありふれた何てことのない恋愛映画が好き。

今まで観た中でよかったなぁと思うのは、「南瓜とマヨネーズ」や「愛がなんだ」、「ソラニン」など。そして今回観た「花束のような恋をした」も、ぼく好みの内容だった。ちなみに今度、公開されるカツセマサヒコ原作の「明け方の若者たち」の映画化も個人的には胸アツで楽しみにしている。

ぼくは、もともと恋愛映画が苦手だった。いろんな大人が関わっていて商業的なニオイがするし、お涙頂戴的な展開も嫌だった。人の恋模様を傍観して何を思えばいいんだと思っていた。今では、ある程度恋愛経験を重ねて共感できる部分もあるし、客観的に観ることができる(客観的に観るべきなのかはわからないけれど)。

ただ、未だに好きになれない演出もある。例えば、最近の恋愛ドラマでもよくあるけれど、少女漫画的な「こういう展開好きでしょ?」みたいな演出が気に食わない。頭ポンポンしたり、「あ! UFO!」とか言ってヒロインをピンチから救ったり、「もうお前黙れ」と言ってキスで女の子の唇を塞いだり……。そういうある意味「理想的な」展開に胸がときめく人もいるのだろう。

しかしぼくは、そういうものよりも、もっと小さくて静かでありふれた幸せとかちょっとしたすれ違いとか、そういう現実的な恋愛模様を観ていたい。そういう意味では、今回観た「花束みたいな恋をした」は、ドンピシャだった。

正直のところ、男女が出会うまでの過程とか惹かれ合う瞬間については、「そんなことねぇよ」と思ってしまう。その一方で、「やっぱ出会いって奇跡に近いよな」と思う自分もいる。それくらい出会いらしい出会いがないので、心が荒んでしまっているのは致し方ないということにしてほしい。でも惹かれ合うというのは、本当に素敵なことだ。

絹と麦が言葉にせずとも「この人が運命の相手かも」と思うほど、共通点がたくさんあって、好きなものや感覚が同じで「たぶんこの人を好きになるんだろうな」という心の変化は、とても可愛らしくて良かった。付き合うまで敬語だった二人の距離が縮まっていく。

毎日が幸せで24時間一緒にいても飽きなくて、一日48時間あっても足りないくらい満ち足りた日々。ずっとこんな日が続けばいいのにって、誰もが思う。付き合いたての初々しくて舞い上がっている感じ。二人がよければ、ずっとこのままでもよかったはずなのに、周りの雑音に惑わされていく。

「生きることは責任」だとか「搾取する取引先」だとか「就職しなさい」だとか、そういう雑音に惑わされて「今のままじゃダメなのか」って思い始める。そして小さな選択が歯車を狂わせ、静かに終わりへと向かっていく。終わりは、忍び寄ってくるのではなく、無意識に向かっていくものなんだなと思った。

金銭的にも精神的にも大人になれば、今の幸せがずっと続くと思っていた。あわよくば今よりもっと幸せになれると思っていた。「頑張るのは大切な人のため」そのためなら、残業だって頑張るし二人の時間も削る。今を耐えれば、その先には幸せが待ってる。そう信じて頑張り続ける。でもそれは、相手が求めている幸せの形とは限らない。

結局、未来は「今の連続」の先にしかない。「今を耐えれば」とか「あと5年頑張れば」とか、そうやって過ごしているうちに、目の前にあるありふれた幸せがどんどん霞んでいく。仕事仕事仕事。二人のために仕事。幸せのためには、やりたくないこともやらなきゃいけないとかさ。今、この時点で何をどれだけ失っているのか気づけないものなのか。

恋は盲目というのは、周囲が見えないほど熱く燃え上がるという意味だけじゃなくて、知らない間に失ったものも見えなくなるという意味もあるのかもしれない。少しずつ生活の時間がズレてきて、会話の機会が減って、興味関心が変わって、少しずつ少しずつ積み上げていたようで壊れていく。

いつの間にか、「なんかもうどうでもいいや」って思うようになっちゃって、そう思い始めるともう戻れない。あの頃には、もう戻れない。色とりどりで華やかだった花束みたいな恋は、時間とともに徐々に枯れていく。

始まりは、終わりの始まりだ。

「花束みたいな恋をした」を観て、名言がいくつかあったのだけれど、そのほとんどを覚えていない。鑑賞中にメモ書きさせてほしいと思った。一つだけ覚えているのは、「社会性とか協調性って才能を潰すよ」というセリフ。「あ〜、現代を生きる社会人……」と思った。

好きなシーンもいろいろあるけれど、特に記憶に残っているのは、絹が「夜景を見てもときめかない」というシーンと、同じく絹が「白いデニムを履く男性は苦手」というシーンだ。どっちもめちゃくちゃ分かる。

今回、ネットでチケットを予約したのだけれど、ほとんど席が偶数で埋まっている。カップルカップルカップル。たまにWデートしてるカップル。カップルで恋愛映画を観に来れる神経がわからない。「幸せに暮らしましたとさ、チャンチャン♪」みたいなハッピーエンドの恋愛映画ってそうそうない。大体、別れが待っている。それを観たあとのカップルは、一体どんな話をするんだ?

「わたし、絶対別れられへん!」という彼女。
「俺やったら絶対こうするけどな」という彼氏。

つい鼻で笑ってしまいそうになるのをこらえて、ぼくは映画館をあとにした。

散文的になってしまった。

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