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トンカツ弁当のトンカツの下に敷かれたスパゲッティみたいな人になりたい。

スーパーで割引の値札が貼られたトンカツ弁当を買った。電子レンジで温め直している間に、作り置きしていた緑茶をグラスに注いだ。何も食材の入っていない冷蔵庫は、ただ時折ゴウンゴウンと音を立てては、自分の存在価値をアピールしてくる。

「ピッピッピッ」と等間隔に音が鳴る。トンカツ弁当が温まったことを電子レンジが知らせた。「熱っ」という独り言を小さく言いながら、できるだけ触れないように、爪を立てるようにしてテーブルへと運んだ。

プラスチックの透明の蓋の裏に張り付いた水滴がこぼれ落ちないように、ゆっくりと開ける。そして、モクモクと湯気が立ち昇った。リモコンを手にして、お昼のワイドショーを見ながら目の前の出来事の感想を言うこともなく、黙々と食べ続けた。

トンカツを一切れ箸で掴んだとき、下からスパゲッティが出てきた。この手のお弁当には、もれなくスパゲッティが入っている。特に味付けされることもなく、ただトンカツのかさ増しなのか、動かないようにするためなのか、はたまたトンカツの油を吸うためなのか。お前は、何のためにそこにいる?

トンカツ弁当のトンカツの下に敷かれたスパゲッティ。俺は、お前のこと案外嫌いじゃない。なかったら少し物足りないし、あったらあったで少しうれしい。当たり前にそこにいるけれど、お前がいることでトンカツは主役として引き立たされる。見えないところで、決して主張せず、下からじっと支えている。俺は、お前みたいな人になりたいよ。

決して主役なんかじゃなくたっていい。だけれど、主役のすぐ近くで支える存在でありたい。みんなに好かれなくたっていい。たまに「好きだ」と言ってくれる人がいればいい。目立たなくたっていい。だけれど、当たり前にそこにいて安心感を与えられるような、そんな人になりたい。

味の濃いトンカツソースを食べたあとは、不思議とお前が欲しくなる。だけれどトンカツの衣の油を吸って、意外とこってりしている。スパゲッティを食べたあとは、グロスを塗ったみたいに唇がテカテカになった。目立たないくせに、ここぞというときにはしっかりと足跡を残そうとするんだな。

そんなことを思いながら全部きれいに平らげて、冷えた緑茶を飲み干した。さっきまでそこにいたはずのスパゲッティの気配は、すっかり消えてなくなってしまった。また恋しくなったら、トンカツ弁当を買うよ。たらこスパゲッティじゃなくて、トンカツ弁当を。

きっとまた、そこにお前はいるんだろう?

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