見出し画像

“ニチアサ時代劇歌劇”として大傑作、しかし再演不可能な宝塚星組「柳生忍法帖」:最高のオープニングと遥斗勇帆を愛でる

小林靖子にゃん(特撮界の天才脚本家)も宝塚書かないかな~~。柳生のDVD送れば書いてくれるんじゃないかな~~。という話です。少女歌劇というには余りに晴れがましい、日曜朝のテレビ朝日系列特撮番組のような胸のすく快作に仕上がった宝塚版「柳生忍法帖」、そのオープニングを毎日景気づけに観て、聴いている。礼真琴の「叫べ!!!!!」に合わせて堀一族の女たちとともにコーラスを入れ、いつ見ても最高に晴れがましい遥斗勇帆(サムネ参照)率いる群舞とともに礼真琴に挑んでは斬られている。こんな最高のオープニングを久々に観た。このオープニングだけでいいので、気鬱に沈んでいる人にあまねく観てほしい。とても気持ちがいい。

オープニング……って書いてるけど別に宝塚の芝居の型にオープニングとかアヴァンタイトルとかが設定されているわけではない。余りにニチアサっぽい曲展開なのでこう呼んでしまう。正式な曲名は「柳生十兵衛見参!」(笑)やっぱりオープニングじゃん……最高に筆が乗っていた頃の山本正之が『逆転!イッパツマン』などに書いた、あの辺りのモーレツに気分を上げる高揚感がこの曲とフリにある。なんせ曲の入りからすごい。暴虐非道な主君に逆らった堀一族が舐める辛酸、緊迫すぎる10分強の芝居を受けてようやくオーケストラピットから登場した柳生十兵衛が、復讐の覚悟を誓う女たちに「(お前たちには)ことごとく死んで頂き申す!」と地を揺らす声で叫んだ即座、テレビ時代劇全盛の頃のしっかりオーケストラ使ったジャ~ララ~~というものものしい前奏が劇場を包み、その重いリズムを呼吸で掴みながら柳生十兵衛 feat. 礼真琴は手向かう女たちを鈴も鳴らさぬ体幹でさばいていく。そして西郷輝彦ばりの艶のある声で、めっちゃかっこいい歌詞を朗々と歌いだす。余りのつかみっぷりにヒュ~と口笛のひとつも吹くモブの顔になるのだが、ここからがすごい。

礼真琴は徐々に疾走するリズムにジャキジャキ音がするほどキレよく乗り、風の如く銀橋を駆け抜けながら本格的に殺陣をこなし、しかし息も上げずに録音と同レベルなほど、曲のすみずみまで繊細に、轟音のまま歌い切る。尋常にすごい、いや尋常ならざる、日体大とかに合格させていい(?)芸だと思う。これに関しては礼さんが宣伝番組で「礼真琴史上、一番キツかった」とこぼしていた(そして「そう見えないんだよね……」と愛月さんに慰め?られていた)。「礼真琴史上」とは傲岸な言いぶりとも取られそうだが、礼真琴(に課せられる修業のインフレ)史上という意味であって、なかなか泣けるのだ。そろそろ大事にしてあげてほしい。千葉真一だって歌いながらは斬ってないのに。

一番が終わり間奏、その礼真琴十兵衛を囲んで、主要キャスト群がアニメの主題歌におけるカット割りのように右から左から、こっちのセリからあっちのセリから次々現れる。スター揃いの星組男役7人による、橋本じゅんの顔面配備のごとく気合の入った顔をした七本槍。美しすぎるラスボスこと芦名銅伯とその娘の妖女ゆら。最後は十兵衛と運命をともにする勇ましい堀一族の七人の女。わ~~~~、楽しい~~~~!星組名物顔芸!衣装が全部きれい!もう文句なく上がる。楽しい。それらのカットを、鳥の群れのように広がったり縮んだりしてつなぐ群舞の中、ひとり浅葱色の装束をつけた背の高い美丈夫が遥斗勇帆で、もう一回目についちゃうとダメ、ずっと観てしまう。とても目立つ。演出上許されているのかいないのか、群舞の中心でそれは楽しそうに何度も何度も斬られている。もう最高なんですよ、顔が。楽しそうで(サムネ参照)。

柳生忍法帖の血なまぐささをどうするのかというのは事前にもかなり話題になっていて、実際に観劇を敬遠した方もいる。これからもいるかと思うけれど、このオープニングを、この遥斗勇帆をぜひ観てほしい。宝塚の柳生においては、斬り合いも果し合いも型として昇華され、女体の屈辱は描かれず、そこから生じた感情と意志だけが舞台を進めていく。短い生でも、舞台の隅でも中央でも、悪人も善人も、己の意志を爆発させて疾走して果てる生の楽しさがここにある。礼真琴の当代随一の歌唱、遥斗さん率いる群舞の意味不明に楽しげなキレが、この無茶苦茶で強烈な世界観をしょっぱなで成功させているのだ。

ほんとにオープニングをほめてるだけでこの文字数になってしまった。「再演不可能」と書いたのは、たぶん礼真琴&この星組以上に柳生十兵衛を面白くやるようなジェンヌは出ないだろうし、劇団にとってそれほどペイできる演目でもないだろうためです。愛月さんの最後の演目としてもふさわしくないと随分批判があったようだけど、このラスボス感、品格と積年の恨みと異なる人格と……愛月さんが「私の集大成」と仰ったのも本当なんだろうと思う。会津の場面、戦況につれて変わっていく表情には息をのんでしまう。最高ですよね。

誉めても誉めても足りない。楽しい。もうこんな舞台ないだろうな……。というのが繰り返されるのが、宝塚なんだろうけど。とても面白いので、ぜひBluray買ってみてください。

劇団に提案なのだが、2020年の休演期間に「おうちでタカラヅカ」と冠して行っていたyoutubeでのミュージッククリップ無料公開は今後も定期的に行ったらどうか。あれのキラールージュ&アルジェの男で筆者は落ちた。宝塚のなんとも昭和でメロディアスな、明治やブルボン菓子のような高度に大衆化を極めた主題歌にのせて、マツケンサンバのように視界の網点があちこちでモアレやハレーションを起こす色彩の洪水。宝塚の「どうかしてる」感を3分で知らしめるああした動画、各組ごとに定置網として常設することを勧めたい。で、「柳生忍法帖」については無編集でいいので、このオープニングを最上の吊り針として活用していってほしい。柳生のオープニングが最高だった話でした。

※遥斗勇帆さんの写真を引用するわけにいかないので、いらすとやさんから探したイメージを使っています。ほんものの遥斗勇帆さんはいつも最高に羽振りのいい、晴れがましい男ぶりの美男子です。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?