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【ありふれた日常から】偽りの巨木(ビッグツリー)

毎朝、家から駅に向かう車の中から、巨木が見える。
ぼくはそれをビッグツリーと呼んでいる。

それは下り坂の遥か向こうに見える。
季節によっては朝日を背にその勇姿が映える。

この地に20年近く住んでいるが、その巨木がどこにあるのかわからなかった。
そこでぼくはある日歩いてその巨木を探した行くことにした。

散々歩いて探してみたが、なかなか見つからない。

諦めて帰ろうと思った時、私有地にある小高い丘が見に入った。
その丘の先端ある木。
いつも見ているあの木の形とそっくりだ。

そう、それは巨木じゃなくて丘の上にあるひょろっとした木だった。

がっかりだった。
あの朝日に立つ勇姿が、こんな貧そう木だったのか。
探しに行かなきゃよかったと後悔しながら帰路に着いた。

翌朝、また駅へと車で向かった。
昨日のことはもう忘れていた。

いつもの坂道に差し掛かると、あの巨木が見えた。
やっぱりあれはビッグツリーだ。

虚像でもいい。
長くぼくを奮い立たせてくれたあの勇姿は、やはりビッグツリーだ。


▼日常の中でふと思うこと、エッセイのような、詩のような、サラリーマンのつぶやき

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