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惑星アンドロメダで見たものは

※これは「銀河鉄道999のようなものに乗って」の後編になります。
https://note.com/s_shien/n/nb1df5448623e

歯科医師国家試験に合格し、歯科医師免許を手に入れたウチは、アンドロメダ駅に降り立った。すぐさま月給40万円で召し抱えられた。
最初の1年ほどはとにかく遊んだ。いわゆる社会人デビューだ。今の新人歯科医師が見たらとんでもないと思うぐらいに。
一方でゼロに近かった預金通帳も、あれよあれよという間に増えて行き、借金なしで8桁に届いたときもあった。まさにビンボーから脱出できる夢の超特急に乗っただけのことはあった。

しかしそこは売上至上主義の世界。カルテは作文。不正請求しろとは直接言われないが間接的な「指導」は入る。要するに保険点数を稼ぐことだけ求められた。まるで機械化人間をつくるために生身の人間の魂を奪っているかの如く。
そこでようやく気がづいた。歯科医療ってのは思ったのと違うことを。高収入と引き換えに犠牲になるものがあるということを。ウチの父親は患者さんに対し、時には採算度外視でやってた人であったし、医療道徳的なことは幼少時代から聞かされてきた。恐らく余程のことをしない限り、多少アレなことはあっても十分贅沢出来た時代だったのであろう。残念ながらこの惑星はこの3~40年で様相がすっかり変わってしまったようだ。

最もウチを召し抱えた法人は1970年代初めに開設、半年で借金を完済し、さらに増築したものの患者が増え続け、分院も次々出しながら、本院には初診お断りの張り紙まで出してたと理事長本人や職場の先輩方、古くからの従業員から聞いたことがある。もちろん今では考えられないことだ。

それに嫌気が差して勤務先を辞めようと思ったことは何度もある。経験が浅い頃は他の開業医に移籍することも考えていたが、年数が経つにつれて次第に開業すればここから逃れることが出来るかも知れないと考えた。全く恥ずかしい話だが開業の動機は勤務先から逃れるためだった。そのためにある程度質素倹約してその結果が8桁の預金通帳という訳だ。

実際開業してみて、これはこれで大変だった。
激戦区での開業、出身地とは若干離れているためどこの馬の骨かわからない状態。はじめの1年ほどは今までの預金を切り崩しての生活だった。
加えて軌道に乗り始めた頃に連盟の闇献金事件に対する(とされる)懲罰的改訂。その後も経営が上向くスピードがかなり遅かった。確かに勤務医時代のぶん回し診療をすれば簡単に金稼ぎが出来たであろう。しかしそれは良心が許さなかった。
開業してみて点数上げろと言われるストレスはなくなったが、経営上のストレスが生じてきた。しかし勤務医時代に戻りたいかと言われれば100%ノーと言える。

本家の銀河鉄道999では惑星アンドロメダはやがてブラックホールに吸い込まれて滅亡するとなっている。これになぞらえて、歯科界もやがて滅亡するのではないかと思うようになった。

もちろん疾病そのものがなくなるわけがないので、歯科界そのものがなくなるのではない。但し様々な要素が歯科界を襲うことにより、時空の歪みのようなものは高確率で発生するような気がする。

そんなわけでウチも今アンドロメダを去ろうと考えている。もっと言うと早めに脱出したほうがいいと。

アンドロメダ駅に行くと、あらゆる方面への列車が待機している。惑星ビンボー行きは回送列車だしもちろん乗るつもりはないが、エターナル行きに乗るつもりもない。エターナル行きに乗ったら到着するまでに天寿を全うしてしまうであろう。
結局はアンドロメダの衛星にでも行くのがオチなんだろうな。(了)

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