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おたねさんちの童話集「子ギツネのコンタ」

子ギツネのコンタ
 
「ママ!ママ!」
子ギツネのコンタはママを探して泣いています。どうやら迷子になったみたいです。ちょっと、珍しい虫を追いかけていただけのはずなのに。ちょっとママの言いつけを守らずに、「ここのいなさい」と言われた場所から離れただけなのに、いつの間にかママの姿はみえなくなっていたのでした。太陽はまわりの空を赤くして、だんだんと大きくなっています。
少し前まで、あんなに温かかったのに、森の中は、ひんやりとしてきました。
「ママ!ママ!」
子ギツネのコンタは、恐いのをがまんして、精一杯に大きな声でママを呼びました。
「ママ!ママ!」
子ギツネのコンタは、帰る道がわかりません。でも、大きな声を出しながら、一生懸命歩きました。
「おや、あれはなんだろう?」
だんだんと暗くなってきた森の中で、子ギツネのコンタは、ぼんやりと光るものをみつけてかけよりました。
そこにはキレイな光る花が咲いていました。
「こんなところで、どうしたんだい?」
子ギツネのコンタがその花に触ろうとしたら、低い声が聞こえてきました。
「ママとはぐれて迷子になっちゃったの」
 コンタが口を開く前に、勝手に心がしゃべり出しました。
「どうせ、ママの言う事を聞かないで、フラフラしていたんだろう?」
「ごめんなさい」子ギツネのコンタは素直にそう言えました。
「おやおや、素直なところもあるじゃないか。よし、お前にこれを貸してあげよう。必要がなくなったら勝手に消えるから、返しに来なくても大丈夫だよ」
コンタの手の上に、いつのまにか茶色い帽子がのっていました。
 さっきまであれほど泣いていたのに、不思議な花をみつけてから、コンタはなんだか安心してしまって、そのまま眠ってしまいました。
「コンタ!コンタ!」
夢の中では、ママが大きな声をだしながらコンタを探して必死に歩き回っていました。
「ママ!ママ!ココだよ!ココにいるよ!」
そう叫ぼうとしたとき、コンタは夢から覚めました。
朝になっていました。
 「ママ!ママ!」
子ギツネのコンタは、すぐに立ち上がるとママを探して歩き出しました。
「あれ、夢じゃなかったんだ」
 コンタの手には、昨日もらった茶色い帽子がありました。
 「へんな帽子」
 コンタはその帽子をかぶりました。
「なんだこれは!」
コンタが帽子をかぶったとたん、目の前の景色がガラリと変わりました。
太陽の光がまるでつぶつぶレモンみたいな形をして、ゆっくりと空から降ってくるのです。そうして、そのつぶつぶレモンを草花がにっこりと深呼吸しながら、吸い込んでいくのです。
「おどろいたかい?」
それは昨日の夜聞いた、光る花の低い声でした。
「この帽子をかぶると、『シアワセ』が見えるようになるのさ。迷ったときは『シアワセ』なモノに尋ねるといいんだよ。『シアワセ』なモノはちゃんと応えてくれるから」
 コンタはママを探して歩き始めました。
 「ママ!ママ!」
大声でママを探していますが、もうコンタは泣いたりしていません。まっすぐに前を向いて歩いています。
「ぼうや、どうしたんだい?」
 コンタの前に現れたのは、シカのお母さんでした。
「ママとはぐれて困っているの?」
「ぼうや!本当にママとはぐれたのかい?」
「どうしてそんなことを聞くの?」
「そりゃ、だって坊やがゼンゼン泣いていないからさ」
コンタはシカのお母さんを眺めました。
朝に見たつぶつぶレモンじゃなくて、薄暗い雲の渦がシカのお母さんの体にグルグツと巻き付いていました。
コンタはもう一度顔を上げて、シカのお母さんをみました。
シカのお母さんは、今度は恐い顔をして言いました。
「ぼうや!嘘をついたってお見通しだよ。どうせ、坊やのママがどこかに隠れて、うちの子たちを狙っているんだろ!どんなに小さく立ってキツネはキツネ。油断させようって考えても、騙されるもんか!」
 キツネのコンタは、あんまりにも恐くなって逃げ出しました。
 「ママ!ママ!」
 コンタはだんだん心細くなってきました。
 「おい、ボウズ!何しているだ!」
 次に声をかけてきたのは、大きなタヌキのオジサンでした。
 タヌキのオジサンからはゆらりゆらりと青く冷たい炎が見えました。
「ママとはぐれて困っているの!」
「ふん!お前らキツネはいっつも俺たちタヌキをバカにしているから、そんな目にあうのさ!」
 タヌキのオジサンは、そう言うと、ドロンを姿を消してしまいました。
「ママ!ママ!」
キツネのコンタは、やっぱり泣きそうな顔になってママを探しています。
「どうして誰も、助けてくれないの!」
キツネのコンタを空を見上げました。
空には太陽があって、やっぱりつぶつぶレモンが降り注いでいました。
「迷ったときは『シアワセ』なモノに尋ねるといいんだよ。『シアワセ』なモノはちゃんと応えてくれるから」
コンタの耳に、あの声が聞こえてきました。
「ママ!ママ!」
 コンタは、今度は太陽にむかって叫びました。
太陽からは、どんどんとつぶつぶレモンが降ってきました。
「ママ!ママ!」
コンタは、つぶつぶレモンを吸い込んでいるミドリのクサキに向かって叫びました。
「バタバタバタ!」
ミドリのクサキは、風に吹かれて西の空を指しました。
「あっちでいいんだね!」
「ママ!ママ!」
コンタは走り出しました。
「ママ!ママ!」
コンタは足を止めました。
そこにはママはいませんでした。
道もありませんでした。
崖の上からは、夕焼け雲と眼下に広がる美しい景色と、そうして遠くの山々が見えるだけでした。
「ママ!ママ!」
コンタはもっと大きな声で叫びました。
「ママ!ママ!」
遠くの山々からコダマだけが帰ってきました。
「ママ!ママ!」
コンタはもっと大きな声で叫びました。
「ママ!ママ!」
やっぱりコダマが帰ってきました。
「ママ!ママ!」
コンタはもっと大きな声で叫びました。
「コンタ!コンタ!」
遠くで響く声がしました。
「ママ!ママ!」
コンタはもっと大きな声で叫びました。
「コンタ!コンタ!」
もっと大きな声がしました。
「ママ!ママ!」
コンタは走り出しました。
「ママ!ママ!」
コンタは走り続けました。
「コンタ!コンタ!」
ママも走り出しました。
「ごめんなさい!ごめんなさい!」
もうママは目の前にいます。
太陽みたいにつぶつぶレモンを降り注ぎながら、ママはコンタを抱きしめてくれました。

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