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おたねさんちの童話集「デンデンムシのお正月」

デンデンムシのお正月
 
でんでんむしむしカタツムリ、みんなで一緒にスゴロクだ!
デンキチ、マイジロ、ツムオにカムデン!!
みんなで一緒にスゴロクだ!
しとしと雨降るアジサイの上、サイコロふって大はしゃぎ。
だってだってのお正月!
アジサイ咲いたらお正月!
でんでんむしのお正月!
パパ、ママ、みんなでお正月!
家族一緒にスゴロクだ!
「次はだれ?」
「カムデンだ!」
「③がでた!」
さあさあ急げ!さあ急げ!
エッチラオッチラ進みます。
走るほどではないけれど、ゆっくり進めば日が沈む。
どんどん進め!カタツムリ!ベンベンズシズシカタツムリ!
「アジサイ咲いたぞ、4マス進め!」
「次はいったい誰のばん?」
「デンキチはやくサイコロ投げろ!」
「今日も晴天、2マス戻れ!」
「次はオレサマ!マイジロだ!」
「梅雨の到来!10マス進め!」
「次は、パパだよ!サイコロ投げて!」
「カラスに狙われ一回休み!」
でんでんむしむしカタツムリ、みんなで一緒にスゴロクだ!
しとしと雨降るアジサイの上、サイコロふって大はしゃぎ。
でんでんムシのスゴロクだから、ゴールに着く前、日はくれる!
そんなの、そんなの毎年のこと!
勝ち負けなんて二の次だ!
「あのね、パパ!パパは大きくなったら何になりたい?」
変な質問、カムデンだ。
なんだろうと、パパは考え、気がついた!
そんな質問するときは、きっと言いたいことがある。
「カムデンは、大きくなったら何になりたい?」
「僕はね!ケーキ屋さんになるんだよ!アジサイの花からたくさんの蜜を集めて、ステキなステキなスイーツをつくるの!」
カムデンがしゃべり出すと、ほかのみんなもしゃべり出す!
一番ウルサいマイジロは、
「僕は絶対、絵描きさん!キレイな花をたくさん描くの!」
一番上のデンキチも、
「僕は絵が得意じゃないから、写真家がいい!」
最後にツムオは、ちょっとおどおど話し出す。
「僕は、ホントはチョウチョになりたいな。キレイなキレイなチョウチョになりないな。こんなノロマなカタツムリじゃなく、キレイで優雅なチョウチョになりたい!」
誰も、ツムオを笑わない。
誰も、ツムオを笑わなかった。
けれども、急に静かになった。
スゴロクも、なんだか少しもりあがらない。
振り出しに戻ったように静かになった。
その夜、パパは夢を見た。
子供の頃に見ていた夢を、不思議とその夜、パパは見た。
とっても恐い夢だった。
真っ黒な鳥があらわれて、パパのパパをくわえていった。
ぼくらが空を飛べたなら、きっとどこかへ逃げられたかも……。
もしもぼくらに翼があれば、どんな世界が見えるだろう?
けれども、ぼくらはカタツムリ。どうしてどうしてカタツムリ。
なんどもなんども考えた。
あの頃ずっと考えていたのに、そんなことさえ、忘れていたよ。
「翼なんてなくったって、走るのが遅くたって、ぼくらはみんな家をもっている。」
小さい頃から、自分自身に言い聞かせていた。
けれども、やっぱりうらやましかった。
今まで見た事のない景色!
今までであった事のない風!
どれほど、ぼくらは憧れてきただろう。
ぼくらの命を振り出しに、一旦戻って別世界!
とっても長い夢だった。
次の朝、パパは大きな凧をつくった。
葉っぱをチョウチョの形に切って、とっても大きな凧をつくった。
ぼくらは空は飛べないけれど、これくらいならぼくらにできる!
葉っぱの繊維を糸にして、大きな凧にくくりつけた。
デンキチ、マイジロ、ツムオにカムデン!!
みんなで一緒に凧あげだ!
「ぼくのが一番高い」と、マイジロ!
「いえいえ、ぼくのが一番さ!」
ツムオも大きな声で言う!
みんなの嫌いな晴天の下、みんなでいっしょに凧あげだ!
ビュー!ビュー!ビュー!
一瞬大きな風が吹く。
アジサイの葉も大きく揺れた。
みんなの凧も糸が切れ、遠くに遠くに飛ばされた。
みんなの凧は飛ばされて、みんなは地面に落っこちた。
「アイタタ!アイタタ!大丈夫?」
パパはみんなの顔をみる。
みんなの凧は飛ばされたけど、みんなはなんだかうれしそう。
ねえねえ、ぼくら、空とんだ!
ほんの一瞬ふわりとなった!
ねえねえ、も一度、凧あげしよう!
も一度、みんなで凧を作ろう!
今まで、嫌いな晴れの日だったけど、今日から晴れも大好きだ!
凧!凧!あがれ!天まであがれ!
葉っぱの下の水たまり。
緑の凧が並んでみえた。

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