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おたねさんちの童話集「サクラはいずこ?」

サクラはいずこ?
 
「あっ!サクラが咲いている」
イノシシのシシオが言いました。
「ああ咲いているね」
パパが答えました。
「僕が見つけたんだよ!僕が見つけたんだからね!」
シシオは胸を張って言いました。
あんまりうれしかったものですから、学校でも友達に自慢しました。
「ねえ!見て!見て!サクラだよ!僕が見つけたんだよ!」
みんなが「へー!」って驚く中で、一人の友達が言いました。
「違うよ、これサクラじゃないよ。だってこれはカイドウだもの。サクラはプラムの仲間だけれど、カイドウはリンゴの仲間だよ」
「えっ!そうなのサクラじゃなかったの!!」
シシオは恥ずかしさで顔が真っ赤になりました。
「パパの嘘つき!なんで教えてくれなかったの!サクラじゃなかったじゃないか!」
シシオはお家に帰ってからパパに八つ当たりしてエンエンと泣きました。
「そうか、あれはサクラじゃなかったのか。じゃあ、今度お父さんがサクラを探しに行ってくるよ。大丈夫だよ。こんどはちゃんと周りの動物たちに確かめるから」
さっそく次の日、イノシシのパパはサクラを探しに出かけました。
でも、最初に見た花は、もう散りかけていました。
「もう、サクラは散ってしまったのか。残念だなあ」
イノシシのパパがそうつぶやくと、ウグイスが言いました。
「違うよ。あれはサクラじゃないよ。あれはウメの花さ。サクラはまだまだみられるよ」
イノシシのパパは喜んで、またサクラを探し始めました。
でも……。
「どうして、こんなに似た花がいっぱいあるの!!」
イノシシのパパは叫びそうになりました。
「アンズ、モモ、ナシ、リンゴ、エドヒガン、ユスラウメ……。もう何がなんだかわからないよ!」
それでも、イノシシのパパはあきらめません。イノシシのパパはズンズント山を下っていきました。
そうして……。
「きっと、これに違いない!」
たしかに、それは見事な一本桜のソメイヨシノでした。
「よし、これで明日息子に教えてあげられる」
イノシシのパパがそうつぶやいた時でした。
「イノシシだ!イノシシが里におりてきたぞ!!」
大嫌いな人間たちの声でした。
「うるさい。別に畑を荒らしにきたんじゃない。さっさと帰るからあっちへいけ!」
どんなにイノシシのパパが大声を出しても人間たちには伝わりません。
大勢の人間たちが集まってきて、イノシシのパパを追いかけまわしました。
イノシシのパパはパニックになって、がむしゃらに逃げ回りました。
あまりに猛スピードで逃げ回るものですから、町中大パニックです。人も自転車も犬も猫もオートバイも自動車も、みんな慌ててイノシシから逃げていきます。赤信号も踏切もトラックもイノシシのパパには関係がありません。とにかく全速力で走りました。
でも……。
「バーン!」
それは一瞬の出来事でした。考える余裕もありません。おしりのあたりに激痛が走ったかと思うと、あとは自然と瞼が閉じていったのでした。
イノシシのパパの意識もなくなって時間だけが過ぎてゆきました。
「ここはどこ?」
再びイノシシのパパの目が開いたとき、オリの中にいました。
「やっと麻酔が切れたようだな」
人間たちの会話は、イノシシのパパにはわかりません。
でも、
「もう二度と町に下りてくるんじゃないよ」
なんとなく優しい声のように思えました。
しばらくして、イノシシのパパは森の奥へ戻されました。
息子のシシオが心配してすぐに駆け付けてくれました。
「ごめんな、シシオ。やっとサクラを見つけたと思ったら、このザマだ」
「パパ!ごめんなさい。僕が無理なお願いをしちゃったから」
「そんなことないさ。また、今度は一緒に探しに行こう!」
「うん!」
イノシシのシシオがそううなづいたときでした。
「おや、あれは?」
「パパ、どうしたの?」
「あれも、サクラじゃないかな?」
「えっ!どこ?」
イノシシパパが指さすその先には、見事なヤマザクラが咲いていました。
「ほんどだ!パパ、きれいだね」
「ああ、きれいだね」
風は少し暖かくなってきたようです。おしまい。

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