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福は内

ノラだった頃じゃできない顔で寝て 油断とスキしかない猫でいて

(短歌初出『ネコまる』辰巳出版)

屋外で冬を過ごした経験がある猫を、必要以上に甘やかしてしまう。

2003年2月2日、僕らは、まだ大阪に住んでいた。
夕方、妻が買い物から帰ってくるなり「猫が鳴いているから、一緒に捕まえてほしい」と言ってきた。

妻の話によると、一週間ほど前から同じ場所で大きな声で鳴いているという。

初日に確認したところ、すでに離乳していて、割としっかりしているようだったので、気になりながらも捕まえようとはしなかったらしい。

ところが猫は、次の日も、また次の日も同じ場所で鳴いている。

そして、その日はとても冷え込んで、夜半から雪が降るという予報だった。

妻は(きょうも鳴いていたら、保護しよう)と決意して家を出て、やっぱり鳴いていて、一人では捕獲が難しくて、一度帰宅して、僕に助っ人を依頼した、ということらしい。

現場は、大通り沿いの植込みの中だった。「ビエー、ビエー」という鳴き声が、植込みの中から聞こえる。

何人かの野次馬を巻き込みながら、僕たちはなんとか猫を捕獲した。

身体は、白なのか灰色なのかわからないほど薄汚れていた。鼻の頭に傷があるけれど、きれいな顔立ちの猫だった。

日曜日なので、救急動物病院へ連れていく。診察室でキャリーバッグから出すと、これがまあ、暴れに暴れた。

壁を駆け上がり、壁掛け時計に乗ろうとして、獣医さんをあきれさせた。よほど怖かったのだろう。
おそらく1歳くらいのメス猫で、かなり長い間外で暮らしているだろう、とのことだった。

僕らは、その猫を連れて帰り、例のように少し途方に暮れながら、例のように我が家の猫として歓迎した。

当時はミルキーとくうという先住猫がいたけれど、まあ、なんとかなるだろう、くらいの気持ちだった。

名前は、白とグレーの猫だから「しぐれ」。

ミルキーとくうとしぐれ、3匹合わせて「ミルクしぐれ」。季節外れだけれど、かき氷みたいで悪くない。

しぐれは、現役のノラ猫らしい警戒心で、狭く暗い場所ばかりに潜り込んでいたけれど、最初だけだった。

慣れてくると、ミルキーの気高い感じとも、くうのぼんやりした感じとも違う、独特の天真爛漫さで、勝手に溶け込んでいった。

僕たちは、しぐれがよく食べるのを見ては「ああ、外ではお腹空かせていたんだろうね」と話し、日なたが好きなのを見ては「ああ、外は寒かったんだろうね」と言い合った。

そうして甘やかした結果、しぐれは元気に育ち、そして育ち過ぎた。すごい寝相で眠るしぐれを見るたびに、大いになごみながら、少し反省している。

鬼が外へ出て行ったかどうかは定かではないが、その日我が家に福がやってきたことは確かだ。

そんなそんな。