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祈り 「Kazeyo」

たどり着いたのは小さな港町。

全てを捨ててここへやってきた。

ゼロから人生をやり直したかった。

あなたとの想い出も、楽しかった日々も、もう何も私を慰めてはくれない。

放してしまった手はもう手繰りよせることはできないの。



あなたは確かに私を愛してくれた。

だけれど、自分の世界を壊すことは結局なかった。

「もう少し早く出会っていたら、きっと一緒になっていただろうね」

そんな言葉は何の慰めにもならない。嬉しくも何ともない。

なぜ、私の心を欲しがったの?

自分のものにした後で、なぜ私を守ってくれなかったの?

「そんなつもりじゃなかった」

それで済むと思っていたの?

人の心を何だと思っているの…。



誰も知らない街は、私には優しかった。

何も聞かれることはないし、心配されることもない。

私が笑顔でさえいれば、誰も何も疑ったりしないし忠告されることなど何もない。


ふと思う。ここはどこ?


誰でもない私。誰のものでもない私。

何の肩書きもなく、守るものもなく、流れ流れてここまでたどり着いたけれど。


顔を上げて、胸を張って生きて行きたい。

いつか、自由に飛んでいきたい。

でも今はまだ 傷だらけの羽を広げるだけ。


祈りは どこへ届くだろう。

願いは いつ叶うのだろう。


顔の見えない、名前も知らない人たちは、こんな私にとても優しい。

だからここで少し休んだら、いつの日か。

胸はって、自分の大空を。

飛んで いかせて。


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大好きな藤井風の「風よ」にインスピレーションを受けて浮かんだ掌編です。

切ないピアノのメロディとベースの旋律は十二分に妄想を掻き立てられます。

23歳という若さにして、この憂いは何なのでしょうか。

どれだけ人生経験があるのかと思うような悲しい女の(あるいは男の。そう、どちらともとらえられるところが風くんのすごいところなのですが、あえてここでは「女の」でいかせてください)慕情を歌い切ります。

その心に沁みる音階もさることながら、歌詞の奥深さよ。

傷付いた女心をこんなにも情緒たっぷりに表現できる藤井風とは一体どんな人生を歩んできたのか・・・

興味は尽きません。

ブルースの旋律に世捨て人のような悲しみの滲んだ女心。

ハスキーな、切ない心で歌う声にどこまでも連れて行かれます。


あぁ、風よ。

吹き荒れる私の心を今夜もかき乱す。

妄想の風はどこまでも私の手を離さない。

飛ばされて、ゆらり揺られて

Uh・・・ah・・・




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